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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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迷惑

「……尋ねる必要はないと思うけど、症状は?」


 ユキトは冷静になれと頭の中で呟きながら問い掛ける。


「風邪みたいな感じかな。といっても咳もくしゃみもない、ただ熱だけ」

「そうか……」

「怒ってる、よね」

「誰も指摘しなかったらとことん突っ走るだろうと予想はできた……でも、俺に連絡していたから相談くらいはしてくれると思ってた……まあ、忙しすぎたんだろうけど」

「まあ、ね」


 あはは、とメイは笑う。


「正直、私の予想以上だった」

「無理なスケジュールをこなすため、魔法に頼ったな?」

「うん、その反動で魔力の成長がさらに増して、こんな状態に」

「外部から魔法を受けたとかじゃなくて、あくまで身の内に生じた成長だから大事には至らないと思う……けど、さすがにこの状況ではな」

「ごめんね」


 か細いメイの声。苦しいのかと尋ねようとした時、ユキトは彼女が魔法を使用し周囲の目を欺いていることに気付く。ひどく弱々しい魔法だが、それにより仮に誰かが通りがかっても気付くことはないだろう。

 すぐさまユキトは彼女の魔法を上書きするように魔法を使用。すると、メイは自分の魔法効果を解除した。


「……限界、ギリギリという感じだな」

「あはは、まあね」


 再び笑うメイの姿。熱に浮かされているという状況であるため、いつもの彼女の比べてずいぶんと小さく見える。


「メイ、動けるのか?」

「まあ一応は……どこで処置をする?」

「ここで手早く済ますというのは無理だな。移動しないと」

「ちなみにだけど、処置する方法はわかってる?」

「今後魔力成長による症状が出るかもしれない、ということで仲間に色々確認したよ」


 もし他の仲間にメイのような症状が現れれば、その対処はツカサやイズミがする手はずとなっている。ただし、処置といっても魔力を抑えて安静にするだけなので、手間はそう掛からない。


「ただ、今のメイの状況だと対処法を変えないとまずい」

「具体的には?」

「魔法を掛けて症状を抑えるくらいじゃなくて、もっと抜本的にやらないとまずいだろうな……術式を直接刻んで魔力を封じ込めるくらいはしないと」

「それ、元に戻す期間としてはどのくらい?」

「魔力が完全に馴染むまで……初期症状くらいだったら一週間くらいだったかもしれないが、メイの現状を考えると場合によっては一ヶ月以上掛かるかもしれない」

「……迷惑、掛けちゃったね」


 申し訳なさそうにメイは告げる。それにユキトは、


「メイは他の仲間と違って色々と背負うものがあるから仕方がないさ。それに、まずいと感じて俺に連絡しても、処置できなかったという状況だったみたいだし」

「ユキト……」

「ま、起こってしまったことは仕方がない。それに、まだ取り返せるレベルではあるさ。ということで処置をしないといけないんだが……」


 ここでユキトは黙り込んだ。メイが首を傾げる中、静寂が少しの間訪れ、


「……いや、まずは処置できる場所の確保だな」

「どこがいいの?」

「時間が多少掛かるし、何より検査のために魔法を使用しないといけない……付与した魔法も解除しないといけないし、落ち着ける場所がいるな」

「それじゃあ以前話し合った通りユキトの家? あ、でもディルがいるのか」

「今日は組織に出向いている。夜まで戻ってこない」

「戻ってこない?」

「組織にいるスタッフと居酒屋に行くんだと」

「居酒屋……またずいぶんディルは俗世に染まっているみたいね」

「メイ達の記憶を戻すまで、姿を現して活動みたいなこともなかったから色々動き回りたいんだろ」

「でも格好は大丈夫? 巫女服だし背丈も……」

「そこはまあ、ディルならどうにでもなる」


 ユキトは返答した後、改めてメイへと告げる。


「それじゃあ俺の家でいいか? 母さんはいるけど、魔法でいくらでも誤魔化せる」

「ん、わかった」


 メイはゆっくりと立ち上がる。その動作一つでもかなり苦しそうだった。


「……移動はどうする? 電車を使うか?」

「どうだろ……大丈夫だとは思うけどしんどいはしんどいかな」

「一応、最終手段があるけど」

「最終……手段?」

「俺が背負って家まで向かう」


 その言葉にメイは最初きょとんとした顔を示した。


「俺達のことを見つからないよう魔法を使いつつ、魔力で身体強化を施して家まで向かう」

「なるほど……身体強化をすれば揺れることもあまりない、かな?」

「あくまで最終手段だけど……」


 と、ユキトが言う間にメイと視線が重なる。その目が何を主張しているのかユキトは理解し、


「……さっさと背負って連れてけって感じか」

「ユキトとしては大変?」

「メイがいいならそれでもいいけど……」


 ユキトは屈む。そこへ、メイは遠慮なくユキトの背へ乗った。


「というわけで、お願いしまーす」

「まったく……」


 陽気な声を放つメイに苦笑しつつ、ユキトは背中に彼女の確かな感触を抱きつつ――全速力で、家へ疾駆した。


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