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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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人間関係

 ――その日の朝は、とても穏やかでユキトは寝覚めもスッキリだった。


 今日は土曜日で学校は休み。春の大型連休も間近に控えたタイミングであり、朝のニュースもいずれくる連休の特集をやっていた。

 ユキトは本来、休日は昼近くまで寝ていることが多いため朝食はとらないのだが、今日は友人と遊びに行くということで朝食をとることに。ただ、遊びに行くというのになんだか緊張した様子を見せているのがバレたのか、母親がふいに口を開いた。


「何でそんなに緊張しているのよ?」

「ああ……えっと……」


 どう返答したものか。少し迷っていると母親はあっと声を上げて口元を押さえ、


「……彼女?」

「残念ながら違うよ」

「ならなんで?」

「……えっと、例えるならいつもの友人とは別に、久しぶりに会う友人が来ることになっていて」


 決して間違いではない。その言い回しに母親はある程度納得はしつつも、


「だからといって、体に力が入っているのが私にもわかるくらいよ?」

「……どうにかして肩の力は抜くよ」


 そんな会話をしながら朝食を終え、支度を済ませる。衣服については事前に用意はしてある――とはいえ、この日のために買ったわけではない。

 着慣れたジーンズに黒色のジャケット――春物なのでそれほど厚手ではない。気温的には暖かいのでもしかすると汗ばむくらいかもしれないが、と思いつつユキトはジャケットを着る。


「いってらっしゃーい」


 そして部屋の隅でディルが手を小さく振る。そこでユキトは視線を向けてみた。対する彼女は意図を察したようで、


「残念ながら行かないよ」

「……わかった。それじゃあ行ってくるよ」

「ん、組織の方に顔を出しているから、何かあれば連絡を」

「厄介事はないことを祈りたいけどな」


 ユキトは部屋を出た――少し前に、またしても魔物が出現していた。それは規模も小さく数人の仲間が易々と対処できるレベルではあったのだが、魔法により明確に魔物を捉えることができるようになってから、頻繁に動くケースが増えている。


(今はまだ対処できているけど……今はまだ邪竜の仕業でなくとも、いずれこれを利用して何かをやってくるだろうな)


 そんな呟きと共にユキトは家を出た――そして、戦闘にシフトしている思考を無理矢理戻し、駅へと向かう。

 もしかすると、今日のことをあまり考えないようにしているのかもしれない――ユキト自身、ビックリするほど緊張している自覚がある。ただこれは笑い事ではなく、ユキト自身のトラウマに起因するものであるため、心が意識的に考えようとするのを避けている。


 そこで、記憶が蘇る。自分のせいで――記憶が残っていたが故に、干渉してしまった。

 それによってカイと幼馴染みの関係性が大きく変わってしまった――それはカイが望む結末ではなかったはず。自分が関わらなければ――しかし、放置をしていても異世界で語っていたカイの未来には至らなかっただろう、とユキトは思う。


 結局、どうにもできなかったという結論にしかならない。ユキトはこんな風に幾度となく思いだし、どうすれば良かったのかを考えてしまう。


(結果論としては、記憶を戻したから良かった……でも……)


 ユキトはなんとなく思う。最終的には一番良い形で収まったのかもしれない。だが、本当ならこんな展開にはなり得なかった。異世界への再召喚という異常事態があったからこそものであり、似たようなシチュエーションがあれば、もうこんな奇跡など起こることはないだろう。

 だからこそユキトは考える。取り返しのつかない人間関係――再び選択に迫られた時、今度こそ絶対に間違えないようにする。だからこそ、自身のトラウマと向き合い続ける。


 心理的なものを考えれば、本当はやるべきではないはずだ。けれど霊具を持っている恩恵か、冷静に考えることができる自分がいる。よって、考え続ける――同じ事を、繰り返さないために。


「……邪竜との戦いで、選択に迫られるなんてことはあるのかな」


 呟きながら、あり得るだろうとユキトは感じた。邪竜は人の心理を抉ることも多い。人間がなんたるかを理解し、追い詰める――異世界における戦いで、邪竜の策略を目の当たりにしてきたユキトは、幾度となく襲い掛かってきた。


(霊具を持っている以上、精神的な均衡は保たれる……だから、精神的に揺さぶられても俺達は平気だ……でも)


 いつだって邪竜は狡猾だった。霊具所持者に精神攻撃が効かないとわかっていて、仕掛けていた。それにより、周囲の人間に大きな被害をもたらし、ユキト達以外を切り崩していった。

 例えどれだけ力を持っていようとも、支援がなければ孤軍にしかならない。だからこそ邪竜は――


「……考えるのは、今日が終わってからでもいいか」


 なんとなくカイと幼馴染みに申し訳ないと思い直し、ユキトは思考を切り替え駅へと進む。そうして電車に乗る時には、再び緊張が戻り今日どうなるのか不安を覚えるのだった。


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