平和な魔物
カイの行動によって魔物を外へ出さないようにした――瞬間、異変を察したか魔物が四方八方に動き始める。
そうした中で、ユキトは集めた魔力を刀身へと注ぎ込み、掲げるようにして剣を構える。
青白い光が剣から生まれ、それが夜を迎える都会の公園内で一際輝く。魔物達はさらにざわざわとした様相で結界内を動き回っているが、傍から見る限り敵意はなさそうだった。
「カイ、もしかすると結界越しに俺の剣にある魔力を捕捉し、魔力溜まりではなくそちらへ向かおうとしているのかもしれない」
「……だとしたら、とことん平和な魔物だね」
ユキトの言葉を受け、カイは苦笑した。
「この世界において、魔物は危害を加えられることがない……加えて食料も呼吸するだけで問題ないのならば、自然発生した魔物には人を攻撃する理由がない」
「でも、人々が魔物を認知したなら……」
「脅威として排除する方向になるだろう。当然魔物もそれを受け成長、進化していくはずだ……人を襲うようになるだろうね」
――つまり、こうして秘密裏に魔物を倒せるのは今の段階しかないということだ。
「その中で邪竜の一派は人間に危害を加える魔物を生み出し続けるだろう……判別が困難であることを考えると、害意のない魔物だからといって放置するわけにもいかない」
「俺達は可能な限り早く邪竜を見つけ倒し、魔物が出現しても大丈夫なように体制を整える……くらいしか手段はないか」
会話の間にもユキトの剣がさらに輝く。公園内の視界を遮る魔法があるためこの状況を外部の人間が知るよしもないが、もし誰かに見咎められたら、どういう状況なのかと戸惑うところだろう。
「……それじゃあ、いくぞカイ」
「うん」
返事と同時にユキトは剣を振り下ろす。それは結界を通過し、内側に存在していた魔物に直撃する――刹那、結界内が青白い光に包まれた。魔物達はそれに飲み込まれ、何が起こったのかも理解する暇さえなく、全てがかき消えた。
残ったのは静寂――けれどすぐに、外側から雑踏の音や車の音が聞こえてくる。
「さて、と。これでどうなるか」
カイは結界を解除し、続けざまに魔力溜まりも消した。ユキトは即座に索敵魔法を行使。周囲に魔物がいないかを確認し、
「……動きを見せるような存在は観測できないな」
「ひとまず処理したと考えていいのかもしれない。ともあれ、経過観察は必要だ。そこについては組織の面々がやるから、これでユキトとスイハの出番は終わりだね」
スイハはここで息をつく。厄介な事態だったが、それを解決したということで安堵した様子だった。
「戻るって事でいいのか?」
ユキトが問い掛けるとカイは「そうだね」と返事をした後、
「ただ、もう少しだけ魔物がいないか調べようか……周辺にいる個体はほとんど倒したと思うし、生き残りが一匹だけだと見つけるのは難しいかもしれないけれど」
「わかった。とことん付き合うとするさ」
ユキトが同意するとカイは「ありがとう」と礼を述べる。
その時、ユキトはその表情に何か違和感を覚えた――いや、それは違和感という表現も似合わないくらい些細なもの。
けれど、彼と共に戦い続けたからこそわかる、何か。ただそんな変化を今する意味がないとユキトは考え、気のせいだろうと思い直す。
「あ、スイハは先に帰っても――」
「私も付き合う」
ユキトの言葉に対しスイハはそう応じた。するとカイはならばとばかりに、
「このまま活動を継続しよう……ただ、二人とも時間は大丈夫かい? あんまり遅いと家の人が心配するだろうけど」
「連絡はくらいはしておくかな」
「私もそうする」
「……この一面だけ切り取れば、都会で遊ぶ高校生って感じだね。やっていることは物騒だけど」
カイは苦笑しつつ――三人は、改めて行動を開始した。
その後、結局魔物を見つけることはできず、ひとまず目標としていた個体を全て倒すことができたのではないか、という結論に至った。
「継続して調査は続けるよ。魔法を行使して、再び魔物が現れても即座に発見できるようにする」
魔物の特性を考えれば難しい作業ではあるが、カイはやり遂げるという強い意思を持っており、ユキトはなら大丈夫だろうと結論づけた。
そうしてユキト達は転移魔法で町へと戻ってくる。時刻も時刻なので夕食は三人でとろうかという話になり、ファミレスへと向かうことに。
「転移前に、少し調べてそこに入っても良かったかな」
「あ、その手があったね」
ユキトの言葉にスイハは反応しつつも、
「でも、これでいいんじゃない? ずっと幻術で姿を誤魔化して……というのも、なんだか窮屈だし」
「それもそうか……と、カイ。一つ聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「この世界には魔物が自然発生するようになっている……それはたぶん、邪竜や俺達の活動が関係していると思うんだが……これが再び収束するという可能性は、あると思うか?」
問い掛けに、カイは少しの間沈黙し――やがて、話し始めた。




