分身か別個体か
ユキトは地下街を歩き回ることとなり、索敵を行いながらひたすら進み続ける。そうした中で、幾度か魔物であるネズミを見つけることができた――が、その全てが気配を消して普通の人間では見つからないように動いている。
ユキト達はそうした魔物を近づいて倒していく。最初はユキトだけが攻撃をしていたが、次第にカイやスイハも加わるようになった。
「ふっ!」
カイが一瞬霊具を生み出した。ネズミを斬る。見事な軌跡を描いた彼の一撃によって、ネズミはあっけなく滅びる。
「うん、カイについては問題ないな」
ユキトはそう感想を述べた。
「そしてスイハは……」
彼女は別にいるネズミの魔物へ向け、剣を振る。一瞬だけ生み出した刃がしかと魔物の体を斬り――見事滅ぼさすことに成功。とはいえ剣を生み出し消すまでの動きが、ちょっとばかりぎこちなかった。
「ごめん、もたついたみたい……」
「いや、問題ないよ」
そんな彼女に対しカイはフォローを入れる。
「幻術を利用して剣は見せないようにしているし、怪しまれることはないさ」
「でも、確実に仕留めるにはもうちょっと上手くやらないと」
「討ち漏らしの可能性を考慮しているのか……ふむ、こればかりは経験が必要だから、帰ったら今一度訓練しないといけないかもしれないね」
カイの言葉にスイハは頷きつつ、
「それで、ここまで魔物を倒して回ったけど……」
「うん、ある程度は検証できた。ユキト、魔力の質に関する情報についてはどう?」
「多少なりともデータは集まってきたな。再度索敵をしてみる」
そしてユキトは魔法を発動させ――地下街全体、どこに魔物がいるのか、小さくとも捕捉できるようになった。
「ひとまず魔物は観測できた。地下街全体に広く分布しているが……どうやら、集積している場所がある」
「下水道とかかい?」
「いや、違うな。地上みたいだ。そして集積している場所は複数あるな。一体どういうことなのかか……」
「魔物ならば普通、魔力を取り込むために活動しているけれど、ネズミくらいのサイズなら呼吸で生命維持はできるはず。となれば、違う目的があると考えていいだろう」
カイが見解を述べる。それが何なのか――ユキトが疑問を告げる前に彼は話す。
「もしかすると魔物は生まれたのがつい最近で、周辺の探索をしているのかもしれない」
「……探索?」
「魔物が人間に対し悪さをしていると僕らは考えたけれど、実際は違う……魔物が生まれ、安全な場所を探すために魔物を色々な場所に派遣して、巣を作れそうな場所を探しているのかもしれない」
「なるほど、だとすると一応魔物の動きについては説明できるが……なあカイ、仮にそうだとしたら邪竜とは関係がないのか?」
「断定はできないけれど、邪竜が指示を出す魔物であればわざわざ地下街にネズミを走らせるような真似はしないだろう。自発的に生まれ、生存するために動き回っている……そんな感じかな」
カイが述べたことが事実だとしたら、魔物はあくまで巣を探しているだけということになる――人畜無害である可能性も決してゼロではないのだが、だからといって無視するわけにはいかない。
「カイ、だとすれば倒しやすくはなったかな?」
「だね。邪竜からの指示がなく、なおかつ魔物自体が人間を襲うこともない……であれば、一気に決着を付けることは十分できる。けれど、一つ問題がある」
カイの発言を受けて、ユキトが何が言いたいのかを察した。
「魔物がどういう成り立ちをしているのか……だな」
「そう。僕らが遭遇したネズミの魔力はどの個体も似通っていた。全てが近しい答えなら、魔物の本体がいて残るネズミは全て分身……これなら本体を倒せば戦いは終わるから、楽だ」
「でも、もう一つの可能性……」
「魔力の質が似通っていても、ネズミ全てが別々の個体……だとしたら全てを倒すまで終わらない」
それは間違いなく、ユキト達にとっては最悪の展開である。魔物を撃破するのに時間が掛かることに加え、そもそも終わりが見えない。
「こちらのケースである場合、ネズミの魔物がどれだけの数いるのかまったくわからないため、対応するのに相当なリソースを使う必要がある。そもそもこの周辺だけなのか、それとも拡散しているのか……こうなると正攻法で駆逐する場合、相当な時間を消費するだろう」
そこまで語ったカイは、小さく肩をすくめた。
「戦い方としては、魔物を全て誘い出すとかしないことには難しいだろうね」
「誘い出す……か。ただしどうやって、という方法を見つけないといけないよな」
「一応、考えがないわけではない」
カイが言う。それにユキトとスイハは驚きつつ、彼の言葉を待つ。
「魔物を観察して、気付いたことがある。ネズミは個々の動きがバラバラだけれど、どうやら地下街に存在する魔力溜まりに向かって進んでいるようだ。人が集まることでそうした魔力が集積するポイントが生まれるのだけれど……さっき推測したように巣になる魔力集積地を探しているのなら、僕らの力で魔力溜まりを作れば集まるかもしれない。もっとも、まずは分身か個体なのか、そこから判断をするところから始めよう」




