友人の頼み
ユキト達はその後、店を出た。このままメイは帰るとのことだったため、店の前で解散しようということになったのだが、
「……ん?」
ユキトはその時、視界の端にカイの姿を捉えた。
「カイだ。何をして……」
と、言いかけて口が止まる。理由は、彼の横に見知らぬ女性がいたためだ。彼女も制服姿なのだが、カイやメイが通っている学校とは違う。
「メイ、あれは……」
「ん……? カイの横にいるのは誰かな?」
メイも知らない様子――ここで、カイもまたユキト達の存在に気付いた。
「あ、おーい」
手を振りながら近寄ってくるカイ。すると隣を歩く女性は興味津々についてくる。
「丁度良かった……か、どうかはわからないけど」
「どうしたんだ? と、その前にそちらの方は?」
ユキトの問い掛けに女性は綺麗な一礼をする。
「カイのご友人ですか? 初めまして、橘ミナと言います」
――明るい色合いのブレザーを着たその女性は、言葉で表現するならば大和撫子という形容が似合う、綺麗な黒髪を持つ女性だった。
カイと並び立っても遜色のない、美麗な雰囲気と立ち振る舞い。カイと共にユキト達の前にやってくる段階で既に住む世界が違う――そんな風に思ってしまうくらいには空気感が違った。
(ご令嬢みたいな感じかな……?)
カイと一緒に歩いていることから、そうなのだろう――と思っていると、橘ミナはメイへ視線を向け、
「そちらの方はクラスメイトでしょうか? ただあなたは他校の方みたいですが」
「以前クラスメイトだった、ですね」
ユキトが解説すると彼女は「なるほど」と応じつつ、
「そうなんですね。えっと、カイ。ご友人のようですし私は外しましょうか?」
「いや、ごめん。少し待っていてくれないかい?」
「待つ? 私が?」
「うん……ちょっと、いいかな」
カイはユキトとメイへ呼び掛け、ミナに背を向けて話をする。
「そもそも疑問なんだけど、どうして二人が?」
「メイが組織へ向かう途中、所用でここまで来ていた俺と顔を合わせて話をしていたんだよ」
ユキトは淀みなくカイへと答える――この状況を問われたらどうすべきか、という対処は既に考えていた。
「ただメイはマネージャーさんから呼ばれて一度家へ帰るみたいだけど」
「そうなのか……ということは、さすがに時間はないのかな?」
「あの人と関係あるの?」
メイからの疑問。そこでカイは、
「……今をときめくアイドルのメイに、少しばかりお願いがあるんだけど」
「そんな前置きいらないよ……なるほど、私絡みか。あの人、アイドルとか興味なさそうに見えるけど……」
「実際はミーハーで、同じ町に暮らしているということでむしろ熱狂的と言えるかもしれない」
――こうして会話をする間もミナという女性は盗み聞きするようなこともなく黙って立っている。
「で、だ。メイ。折り入って頼みが……」
「ファンサービスしろってことでしょ? まあ、友人の頼みだから引き受けるというのはいいけど……それなら、せめてどういう関係の人とかは知りたいなあ」
「彼女は、友人だよ。小さい頃からの」
「同じ学校の幼馴染みのあの子とは違う幼馴染みってこと?」
「そういうことになるね」
カイは頷く。するとでメイは次に、
「カイに取り入っている人とも違うし……そもそも別の学校か」
「良き友人だよ。彼女の両親は僕と彼女をくっつけたがっているけどね……あいにく僕らはそういう感情がない」
「へえ、そうなんだ……で、友人である彼女に対し頼みがあるってことでいいんだよね?」
「ああ、そうだ」
「友人としてのコネを使って私と引き合わせようと」
「そういうことだ」
――ちなみに現段階において、ミナがメイのことに気付いた様子はない。これは彼女自身認識阻害系の魔法を使って姿を誤魔化しているためだ。
魔法を使うことで、メイ以外の誰かに見える――見え方は人それぞれで、それなりに都合が良いようになっている。
「経緯とかも聞けるの?」
「ミナには色々と助けを借りていて……あ、組織のことを含めてね。ただ、彼女自身組織のことは知らない。あくまで友人の頼みということで、彼女のつてを使って人を紹介してもらったという形だ」
「つまり組織結成の協力者だと」
「そうだね」
「……さすがに、それを聞いて断るわけにもいかないかな。具体的にはどうすればいいの? サインとかすればいい?」
「話をしたい、ということなんだけれど……仕事があるのなら、日を改めるかい?」
「うーん……まあ十五分くらいならどうにか。それであの人が納得しなかったら、日を改めて何かやろうか」
「それでお願いするよ」
「了解」
カイの言葉にメイは承諾した後――そこでようやく、ユキト達はミナへと向き直った。




