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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第七章

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替えが効かない存在

 ユキトが様々悩む中、カイもまた色々と苦悩していた。


「うん、ユキトの考えについてはわかった……メイのことは僕も気になっている。肉体的にも精神的にも……彼女は大丈夫だと絶対に答えるだろうけど、組織である以上は誰かに負担を掛け続けるのは良くない。何かしら対策を立てよう」


 ユキトからの電話にそうカイは応じ、通話を切った。ただそこで、


「……メイより、ユキト。君の方がよっぽど替えの効かない存在なんだけどね」


 とはいえ、他ならぬユキト自身が無頓着。ディルというこの世界にとって超常的な存在があるためだと理解はできるが。だからといって組織の構成員である以上は、力を持っているからといって無視はできない。


「けれど現状、特定の人に仕事を偏るのは仕方がない……か」


 すぐに是正できるものではないことに加え、最終的にはユキトやメイ――二人の力が頼みとなることは間違いない。


「もし魔法という存在が公になりそうだったら……そして敵が凶悪な魔物を生み出してしまったら……」


 カイは最悪の想定を考慮する。とはいえリスクマネジメントをするにしても限界があった。

 では記憶を戻した仲間達に肩代わりできるかと言われると、二人の代役は存在しないと断言できる。


「難しいな……」


 椅子に背を預けながら呟いた。カイ自身、これまで生徒会などを始め学校内で組織運営してきた。そしてその運営は完璧であり、また同時に誰かが欠けても対応できるような組織作りに励んできた。

 無論、生徒会と政府組織とはあまりにも違いすぎるためカイの知識や経験がどこまで役立てるのかは不透明だが、現時点ではそれなりに貢献できているとは思う。


 そうした中で、どこまで唯一無二の存在が欠けても対応できるのか――もししくじれば町が、世界が無茶苦茶になることを考えたら、あらゆることを想定しておき、対応策を講じておくしかないとカイは考える。


「ユキトについては……最大の問題は敵がどこまで能力を高めてくるか、だな。イズミはよくやってくれているし、霊具の作成も順調だけど……まだ、出現した凶悪な魔物に対抗できる人間は少ない」


 いや、実際は対抗できる――はずだとカイは思う。スイハ達は身の内に経験が残っているし、記憶を戻した面々は霊具を手にして十二分に動くことができる。であれば連携によって対応はできる。

 けれど、もし敵が質ではなく数で攻撃を仕掛けてきたら。あるいは逆で、今まで以上に凶悪な魔物が現れたら。


「……ふう」


 思考に疲れ、カイは息をつく。それと共に、自分自身に宿る秘めた思い。今はまだそれが前面には出ていない。しかし戦いの中で――


「……無駄なことは考えるな、と思うんだけどね」


 カイはその感情が日々、少しずつ膨らんでいることを理解している。それは異世界で召喚され、世界を救い迷宮を攻略する日々を送ったことで変質していったもののはずだが、再びその考えが頭をもたげている。


 それが何を意味するのか、カイは理解していながらあえて目を背ける。無駄なことは感上げるなと自問しつつも、目を逸らしているという事実そのものが、邪竜の付け入る隙になることはわかっていた。


「どうすべきか、か……それはわかっている。だけど――」


 そこで、スマホに着信が入った。画面を見るとカイにとって馴染みの名前が表示されていた。


「……はい」

『今日は少し声のトーンが低いですね』


 その声は女性のもので、電話越しでも柔らかいものだとわかるほどであり、カイのささくれだった心を癒やしていく。


『何か悩み事が?』

「ああ、大丈夫……ここのところ少し忙しかったから」

『疲労が溜まっているのかもしれないと。私も色々やらなければならないことが増えて似たようなものですね』


 ――電話の向こう側にいる相手は、カイにとって幼馴染みと表現していい存在。カイが想う幼馴染みとは別で、彼女の親は彼女とカイとくっつけようと婚約者などと吹聴することもあるが、他ならぬ当事者がそういう感情一つなかった。


『そういえばカイは最近、色々動き回っているようですが』

「……何か知っているのかい?」

『そういう小話を耳にした程度です。友人と何やらしている……ただそれは、政府の方も関係していると。課外活動ですか?』

「うん、そんなところだ」

『そうですか』


 穏やかな声は心の内がざわめいていたカイを少しずつ癒やし、自分が何をすべきなのかを改めて理解する。彼女の存在――それもまた、カイを現実に繋ぎ止める大きな要因となっている。


「ありがとう、ミナ」


 そして礼を言うカイ。すると相手――ミナは一瞬沈黙し、


『お礼を言われるようなことはしていませんよ?』

「ミナの声を聞いて悩んでいた自分が吹き飛んだよ。そういう意味で、ありがとうだ」

『そうですか……お役に立てて何よりです。それで今回電話をした理由なのですが』

「もしかして、あれかい?」


 問い掛けにミナは電話口の向こうで苦笑し、


『はい、そうです。もちろん、ご迷惑にならなければですが――』


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