三つのこと
一日、一日と経過するごとにユキト達の状況は改善されていく。まずはイズミの霊具について。交流会の日に起きた戦闘以降、魔物と激突することはなく、検証そのものは組織内の施設で行われたのだが、概ね満足のいく結果となった。
よってまずは、その時点で記憶を戻していた面々に霊具を付与するという形となり、既に複数人に霊具が渡された。ただ、普段から武器を持ち歩くことはできないため工夫は必要だったのだが、
「いやあ、色々面白いことができて満足だよ」
と、イズミは言った――それはユキトが持つディルの特性を応用した霊具だった。
ユキトはディルという意思を持つ剣を身の内に抱えており、自由自在に出し入れができる。イズミはそれに着目し、魔力として分解し出し入れができる機能を付与した。
元々、異世界で使っていた霊具にそんな特性は存在していない。精々魔力によって手元に引き寄せるくらいだ。けれどイズミはこれがなければ活動できないと考え、検証を作成した。
新たな霊具を生み出すだけでなく、別に機能を持たせる――ロクな設備もない中でイズミは最高の仕事をした。そこには間違いなく恐ろしい努力があったはずだが、イズミはそれをおくびにも見せることなく霊具が行き渡った。
霊具は新たな特性を付与したこともあって、さすがに異世界で使用していた物と比べれば能力は劣っている。異世界の基準に照らし合わせれば、ユキト達が使っていた特級以上の霊具ではなく、精々二級に位置するくらいのもの。
とはいえ、カイ達を始めとした最初に召喚された者達は戦い続けた記憶が。そしてスイハ達は霊具を使っていた経験をそのまま肉体ごと残している状態であるため、等級以上の能力を発揮できていた。
そうした中、カイとスイハの武器――つまり、聖剣を扱えるだけの使い手については、ひとまず仮という形で自らが抱える膨大な魔力を扱えるよう、通常よりも多く魔力を注げる霊具が手渡された。二人の能力も相まって、一級クラスの特性を持つ霊具になったようだ。
「急造ではあるけれど、これで僕らも十分な仕事ができるはずだ」
カイはそう述べ、新たに手にした剣を嬉しそうに振った。今後もイズミは霊具の作成を続け、自分自身の設備についても改良を加えていくとした。
それと並行し、ユキト達は三つのことを同時に行った。一つは霊具だけでなく魔法の強化。タカオミを始め霊具の影響によって魔法を上手く扱える人間は、戦闘技術だけでなく魔法の技術についても研鑽しようという話になった。
その理由としては、敵が大々的に動いた場合、魔法という存在を世間に知られないよう対応する必要性がある――今後、魔法を公にするとしてもそれはちゃんと準備してから。よって、敵の行動によって魔法が露見しないように、魔法によって対処すべきという判断となった。
ただ、魔法についてはかなり専門的な話になってくるためユキトは対応できない。カイも聖剣を扱えはするし、魔法も高度なものを使用できるが、実戦的なものが中心であり、心許ない。そこでツカサとタカオミの二人――霊具『空皇の杖』を所持していた二人が中心となって動き始めた。そこにイズミも加わり、研究を始める。
ただ、それだけではやはり人員が足りない、ということで二つ目の行動としては記憶を戻すペースを速めること。それは交流会以降ペースが増し、想定以上の速度で仲間の記憶を戻していった。これにより組織の人員も増えることとなり、活動の規模が膨らみ始めた。
ただそれによって統制がとれるのか、という疑問もつきまとうことになるし、政府側からの人員にとって不安要素になる可能性もある――よってカイは対外的な折衝を中心に担当。記憶を戻し霊具を扱える人員を増やしても問題はない、ということをアピールするために動き始めた。
また、ユキトとしては記憶を戻して協力してくれるかどうかという不安もあったのだが、全員が漏れなく参加を表明し、また同時に軋轢もなかった。これは異世界で共に戦い続けた絆が維持されていることを意味しており、ユキトとしては非常に嬉しく思った。
たださすがに記憶を戻すペースを速めても霊具の生成は追いついていない。これについては時間が解決するだろうということで、記憶を戻し組織内を統制しながら待つこととなった。
そして仲間達が自分なりに仕事を探し、組織内で活動を始める中でユキトは『神降ろし』の技術について研鑽し続けた。結果として徐々にではあるが発動時間の増加や能力そのものの向上もしている。ただ体に負担がないかリスクを検証した上でのことではあるため進捗は遅い。しかし問題なく使用できるくらいには仕上がった――ユキトはそう自認した。
着々と組織の態勢が整いつつある中、やがてユキト達は時間を掛けて初めて召喚された際に戦った仲間達全員の記憶を戻す。魔法の研究も人数が増えたため順調に進んだが、三つ目――敵の捜索については、まったく進んでいない状況だった――




