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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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今できることを

 カイを始めとした組織の人員が各々動き出す中で、ユキトは普段通りの日常をこなしていた。時折スイハ達へ助言をしつつ、自分自身もまた剣の鍛錬を繰り返す。やがてイズミが霊具を完成させ、その検証も始まった。


 そうした中でユキトはある種充実した日々を送っていた――けれどふと、疑問に思うことがあった。ある日学校から帰宅し、部屋着に着替え椅子に座った時のこと。


「なあ、ディル」

『どうしたの?』

「詳細を聞くつもりはないんだけど……俺は邪竜との決戦における戦いについて、記憶を失っている部分がある」

『そうみたいだね』

「確かに言われてみると、邪竜との戦いについてはおぼろげな部分が多い。あの戦いを忘れるはずがない……にも関わらず、まるで十年も前に起きた出来事のように感じられてしまう」

『逆に憶えていることは?』

「邪竜と戦い、仲間達が倒れ伏し……やがてカイも……そしてリュシールとの融合で、邪竜を倒したこと」

『主に戦闘面は思い出せるってこと?』

「思い出すにしても、どこか断片的なのは間違いない……リュシールと『神降ろし』を使ったのは決戦において最後の最後だ。それでも、前後……主に決戦前の記憶が抜けているってことは、発動から少し前のことを思い出せないってことだよな」

『でも今のユキトは問題ない……ついでに言えば、再召喚された後に使った時にも、そういうことはなかったでしょ?』

「言われてみたらそうだな」

『たぶん初めて使った反動で、ってことなんだと思う』

「……そうか」


 ユキトはおぼろげな記憶をたぐり寄せるように、邪竜との戦いを思い起こす。


「ディルは常に意識を保っていたんだよな?」

『あー……実を言うと、私も途切れているんだよね』

「途切れている?」

『邪竜との戦いが進んで、カイとユキトが戦い始めた時くらいに、力を発してはいるけど意識はほとんど手放してた』

「どういう状況なんだ? それ……?」

『私はその時気付いたんだけど、私は霊具の内に意識が存在して、ほぼ一心同体だけど……実際は私自身、霊具に内在する意識ということで、分離できるんじゃないかな』

「なるほど、ということはディルの意識が飛んでも霊具は使用できたのか」

『邪竜との戦いは全力だったでしょ? 私もあらん限りの力でユキトに応え続けていたけど、限界が訪れた……でも、霊具としての機能はあったから、ユキトは剣を振るうことができた』

「よく無事だったな、ディル……ということは、邪竜との決戦、その最後の最後は誰も憶えていないってことか」

『何か気になることが?』

「というより、邪竜との戦いであるなら……前にどうやって倒したのか、それらを含め検証した方がいいだろうという考えなんだが」

『過去を参考にすると』

「そうだ。今度カイにも相談してみるか」


 邪竜との戦いについても記憶しているはずだから――と、考えたところでユキトは心の隅に引っ掛かるものを感じた。


「……ディル」

『どうしたの?』

「意識がある内……邪竜との戦いは、総力戦ではあったけど特に変わったことはなかったよな?」

『何をもってして変わったことなのかはわからないけど……あの場にいた人達は全員、邪竜を倒すために戦っていたよ?』

「そう、だよな……」

「何か気になるの?」

「いや、なんだろう……」


 戦いの中で、ユキトは一つ重大な出来事に遭遇したような――そんな気がした。というより、衝撃的な何かがあったと、おぼろげな記憶が語っていた。

 それが何であるのかはわからない。ただ確実に言えるのは、これを放置することはまずいのでは、という警告が心の奥底から聞こえたこと。


「……邪竜は、まだ何かを企んでいた?」

『そりゃあ追い詰められたわけだし、作戦の一つや二つあってもおかしくないと思うけど』

「そうなんだけど……いや、違うな。何だ? この違和感は……?」


(邪竜が何かをしたわけじゃない? メイが何かを語っていた……決戦の際、そういう予想外のことが何か起こっていたということなのか?)


 ユキトは自身の胸に手を当てた。それで記憶が戻るわけではないのだが、考え続けると平静を保てなくなる気がして、落ち着こうと思ったのだ。


「……今後、邪竜は俺達が予想もしない方法で動くとは思う」

『うん、そうだね』

「あらゆることを想定し、あらゆる備えをする……カイはそういう方針をとるだろう。そうした中で、俺は何ができるのか……邪竜が力を取り戻した時、戦うのは俺だ。それ以外にも、何か……できることは……」


 呟きながらユキトは考え続ける。答えは決して出なかったが、それでも過去から何かをたぐり寄せようとする。

 心のどこかで、過去が何かを訴えているような気がした。重要なことを見落としている――ただそれは、邪竜のことなのか。それとも、最終決戦の際に見せた邪竜の策なのか。


『大丈夫だよ、ユキト達なら』


 ざわつく心をなだめるように、ディルはユキトへ声を掛けた。


『記憶を戻し、味方が増えていく。スイハ達もいる。ユキトは一人じゃない……必ず、邪竜を倒せる』

「……そうだな」


 ディルの言葉を受け、ユキトは無理矢理思考を止めた。今はただ、できることをやる。それが正しいと信じて――



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