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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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漆黒との対峙

 圧倒的な気配を放つ魔物の姿は、翼をはやした漆黒の悪魔――ただ顔には仮面でもつけているようであり、表情というものが窺い知れない。

 その両手には小手がはめられ、なおかつ右手には長剣。ユキトは剣を構えた。それと共に頭部に魔力を集中させ、感覚を研ぎ澄ませる。


 どういった特性を持つ存在なのかを瞬時に見極め、後方にいる仲間達へ被害が出ないようにする――優先すべきはそこだった。


「ディル、魔力を探れるか?」

『問題ないよ。でもまあ、結構強いね。迷宮の中にいるくらいには』

「……そうだな」


 ユキトはディルの言葉に同意する。これまで戦った魔物と一線を画するだけの力が目の前の敵にはある。


「俺が倒した竜……そのくらいは力を持っているし、あの巨体を維持するだけの魔力を凝縮させたという感じだな」


 それにより、明らかに強い――ユキトは悪魔の動きを逃さないよう注視した時、相手が動いた。

 一瞬の動作だった。ユキトは即座に何が起こったのかを理解し、足を動かす。


 その直後、ギィンと金属音が鳴り響いた。ユキトの剣と悪魔の腕が激突したことによる音であり、悪魔は瞬間移動とでも言うべき速度でユキトに肉薄した。


(というより、こいつは――)


 ユキトは悪魔の動き、その意図を察する。直接ユキトと戦うのではなく、明らかに後方を狙った動き。


(悪魔に弱い者から狙えと指示を出している? それとも、悪魔を操作しているのか?)


 ただ逐一操作しているような動きではなかった。というのも、あれだけの速度で動けばそもそも操作側である邪竜の配下が認識できるかどうか怪しい。


(こういう動きをしろ、という大雑把な命令を与えて動かしていると考える方が妥当か)


 悪魔は一瞬で後退。距離を置いた。どうやらユキトとは交戦するつもりはないらしい。


(俺をすり抜けて後方にいる仲間を、ということだな)


 悪魔の手の内は理解した。仲間達を後退させるのも手ではあるが、それだと悪魔の動きがどうなるかわからない。


(それに、ある程度近くにいた方が敵の動きを制限できる……)


「全員、そのままの場所で待機を」


 ユキトの言葉に対し代表してアユミが「わかった」と応じた。どういう意図による指示なのかを明確に理解した様子。

 ユキトは呼吸を整える。同時に、どうやって悪魔を倒すのか戦法を組み立てる。


「ディル、いけるな?」

『問題ないよ』

「わかった……時間を掛けたら戦いがどう転ぶかわからない。一撃で、決めるぞ」


 ユキトが宣言すると同時、悪魔が再び動いた。視界から消えたのではないと思うほどの俊敏性。だがユキトはその動き――軌道をはっきり捉えていた。

 刹那、ユキトが持つ剣に魔力を収束し、爆発的な力を発した。だが悪魔の動きは変わらない。攻撃されるより前に後方を狙うという意図であるのは明らかだった。


 けれどユキトは悪魔の動きをしっかりと捉え、進路を阻むように動いた。悪魔が拳を振りかざす。ユキトが剣を一閃する。

 双方の攻撃が激突し――悪魔の腕が、切り飛ばされる。


「――――」


 悪魔の声にならない声をユキトは聞いた気がした。即座に敵は後方に軸足を移そうとしたが、それよりもユキトの動作が速かった。

 相手が次の行動に移るよりも前に、ユキトの剣戟が悪魔の胴体を斬った。それで体は真っ二つとなり、悪魔は倒れ伏す。


 戦いは、一瞬の攻防で終了した。悪魔は灰となり始め、ユキトは小さく息をつく。


「どうにか、負傷せず倒せたな」


 仲間達に被害が及ぶことはなく――完全に消え失せるまでユキトは気を緩めることなく悪魔の消滅を見守り――全てがなくなった後、ようやく視線を外し後方にいる仲間達へ呼び掛けた。


「怪我は?」

「特になし」


 最初に応じたのはアユミ。


「最後の敵は手強いみたいだったけど、基本的には問題なかったわね」

「そうだな……最後の悪魔も、長期戦になっても無傷で勝てたとは思うけど」

「ちなみにあの動き……明らかに私達を狙っていた」

「命令を出していて、後方を狙った方が良いと判断したんじゃないかと思うんだけど……ま、シオリが戦いを記録しているわけだし、それで検証しよう」


 シオリが幾度か頷くと、ユキトは次にスイハ達へ目を向ける。


「怪我はないけど、魔力の方は?」

「大丈夫。最後の敵は、戦闘していないのに緊張してしまった……気付けば体に力が入っていたし」

「それなら魔力についても減っているはずだ」


 言われ、スイハは自分の体を確かめる。


「……なんとなく、疲れた感じになっているけど」

「極度の緊張状態が続くと、体に力が入るだろ? それに伴って魔力も消費する。まあそれほど多量というわけじゃないけど、長期戦になったら無視できるレベルでもない……全身に力が入っているという状態は、動きも鈍るしあまり良くない。今後は、精神的な鍛錬も必要になるかな」

「精神的……?」

「どんな敵が現れても冷静に対処できるようにする訓練……霊具を持っていれば精神の均衡は保たれるけど、俺達は持っていないわけだし鍛錬で体得しないと」

「戦闘に参加するメンバーは、全員それをやるべき?」

「そうだな……今後の課題ということで……それじゃあ、戻ろう」


 ユキトは仲間達へ告げ――帰還したのだった。


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