もう一つの道
――そうして、敵の捜索などを行いつつ日にちは過ぎていき、交流会を行う土曜日となった。ユキトは私服姿で組織が管理する建物の中へ入り、大きい会議室へと赴いた。
「ようこそ」
出迎えてくれたのはメイ。既に準備万端なのか、室内は色々な飾り付けが成されていた。
「……これ、全部メイが準備したのか?」
さすがにこれを一人で……と思っていたらメイは、
「職員さんに手伝ってもらった」
「……手伝ってくれたんだ?」
「うん。最初はまあ私一人でもとか思っていたら、自然と」
(……人気のアイドルがいたら、手伝いたくもなるよな)
むしろ、作業量を考えたら助けたくもなるだろうとユキトは思いながら、会場を見回す。
まだメイ以外に人の姿はない。スマホで時間を確認したら三十分ほど前だった。
「思った以上に早く到着したみたいだな」
「アユミとシオリはもう来ていて、準備を手伝ってくれたよ。今は別室で作業してもらってる」
「ああ、そうなのか……なあ、メイ」
「ん、どうしたの?」
ふいに呼び掛けられてきょとんとする彼女に対し、ユキトは何気なく、
「職員と顔を合わせて作業したんだよな?」
「それはもちろん」
「その……俺達に対し職員はどう思ったのかとか、聞いたか?」
――国側は果たして自分達の活動に対しどう思っているのか。カイが動いている以上、それほど心配する必要はないかもしれないが、ユキト達と直接接触する機会のある人間から見たらどうなのか。
「ああー、そこは気になるか。でもまあ、そんなに心配する必要はないよ。フレンドリーだし、魔法そのものに対しても忌避感はないみたいだし」
(……たぶん、メイの存在が恐怖感を和らげてくれているのかもしれないな)
ユキトが接していたらこうはならないだろう。カイに加えてアイドルという立場のメイがいたからこそ、組織の人間も納得してくれているのではないか。
(この世界の人に魔法という存在を知らせるかどうかはわからないけど、もしそうなったらメイの存在は何より重要になるかもしれないな……)
ただそれは、彼女に対しより負担を強いることに繋がる――とユキトが思っていると、
「顔に色んなことが書いてあるね」
と、メイはユキトの顔を覗き込みながら言及した。
「国側としてはどう考えているのか。そして私の負担は問題ないのか」
「全部言い当てるなって……むしろそこまで正解されると怖いな」
「読心術というわけじゃないけど、ユキトの心境は理解できるよ。それはきっと、私達が共通して頭を悩ませている問題だと思う」
と、ここでメイは怪しげな、何かを企んでいるような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「だからこそ、今日でそれは解決しようかなと」
「ちょっと待て。カイ達と俺達側にいる面々が集まって交流会をする、だけじゃないのか?」
「どうせなら色んな問題を解決しようって話」
もしや、メイが奔走していたのはそれが理由なのか――ユキトは彼女がどこまで考えているのかを理解して、呆然となった。
けれどユキトの表情を見てメイは、
「思考しているベクトルが違うってだけの話だよ。ほら、ユキトやカイは邪竜と向き合わなければならないけど、私は組織側を見て回るだけの余裕があった」
「……アイドル活動をしていてそんな暇、あるのか?」
「まあなんとか」
――ここでユキトはもう一つ、頭によぎることがあった。会場は二人きりであり、ここしかないとユキトは思う。
「……なあ、メイ」
「うん」
「記憶を戻した時、話したことだけど……元々の夢だった医者になるという夢。少し時間が経過して、どう考えている?」
「……もし魔法というものを扱えるのなら、私はきっと世界最高の医者になれるだろうね」
と、メイは自身の手を見据えながら答えた。
「怪我の治療は一瞬で可能。さらに言えば障害を持ってしまうであろう大怪我でさえ、私は容易く治せる……魔法という存在は、医療技術に対し飛躍的な進歩を遂げるものになる。ううん、それだけじゃない。簡単な治癒魔法を普通の人々が習得すれば、多くの人が病気とは無縁の社会になる」
「メイ……」
「もしかすると、お医者さんなんていらない世の中になるかもしれないね」
「それはさすがにないだろ……魔法による治療技術が発達していた向こうの世界でも、魔法医はいて病気を治療し薬だってあった」
「魔法が生まれたらその弊害も現れる、ってことかもしれないかな……ともあれ、私達の力は間違いなく救えなかった命を救えるようになる……特に治療系に特化した霊具を持っていた私は、医学と組み合わせることで体系化できるかもしれない」
「……それは」
「もう一つの道が見えているの。医者ではなく、研究者……魔法を使えなくとも、魔法によって見える世界が違う。その視点だけでも、医学を大きく進歩させるきっかけになるかもしれない」
さらに現れた選択――と、同時にメイはユキトと視線を合わせた。




