偉大な先輩
シオリとアユミの記憶を戻し、なおかつ魔物を討伐した翌日、ユキトはカイからメールでスイハ達へ状況の説明と、一度全員で顔を合わせするべくスケジュールを確認して欲しいとの要請を受けた。
ユキトはその話をスイハへ告げると、彼女が仲間の予定を確認すると表明。そこから予定を調整し、さらに翌日に顔を合わせる日取りを決めた。
「カイが言うには、組織として今一度人員を確認したいって」
昼休み、ユキトは教室でスイハへ概要を伝えると彼女は「なるほど」と一つ呟いた。
「これからはそれぞれ連携していくことになるんだよね?」
「そういう形になる……スイハ達としては、カイ達のことをどう思っているんだ?」
何気なく質問してみると、スイハは少し苦笑しつつ、
「偉大な先輩かなと」
「……年齢は一緒なんだけど」
「それでも、戦闘経験は雲泥の差だから」
ユキトはそれを聞いて、何かしら対策すべきかと考える。カイ達とスイハ達――ユキトを含め全員が異世界に召喚されて戦った。けれどカイ達はクラスメイト全員が戦い、数々の犠牲を経て日常に戻ったのに対し、スイハ達は戦った人間がごく一部であることに加え、犠牲者もなかった。
そうした違いによって、スイハはやや萎縮してしまっている――無理もないとユキトは思いつつも、これは改善していく必要があると考えた。場合によっては軋轢が生じかねない。
今この場で「カイ達は共に戦う同士だと考えている」と告げても納得はしないだろうと予想できる。上下差を作ってしまうのは避けたいと思いつつも、その点についてこの場で言及することはしない。
「わかった……もし戦い方について意見を聞きたいのであれば連絡はするけど」
「今のところは大丈夫……あ、タカオミを含め他の人にも確認してみるね」
「わかった」
頷くとスイハは立ち去り、ユキトは黙ったまま教室を出た。
そして下駄箱のある入口から出て駐輪場までやってきた。そこでカイへ向け電話を掛ける。
『――どうしたんだい?』
そしてユキトはスイハとのやりとりについて伝えると、
『なるほど、偉大な先輩か……』
「カイはどう思っている?」
『僕自身は分け隔てない状態で動きたいけれど……あ、僕自身は平等だと考えている』
「俺も同じだ」
『メイを含め、記憶を戻した人にはその辺り確認してみようかな。ふむ、この件については僕に一任させてもらっても?』
「何をするんだ?」
何やら思いついたらしいユキトが聞き返すとカイは、
『といっても僕はメイに相談するだけだよ。こういうこと……人とのやりとりや問題についてはメイの方が適任だと思う』
「戦っている時も仲間のケアとかしていたからな……むしろ、メイの方は大丈夫かと俺は問い掛けたくらいだ」
『メイだって、悩みの一つや二つあることだろう』
と、カイは告げながらも、
『異世界で戦っていた際も、自分の手からこぼれ落ちる犠牲者を見て嘆いていた』
「そうだな……」
『けれどメイは、それ以上に仲間が傷つくことに対し放ってはおかなかった。これは生来の性分なんだろうね。アイドルを続けるメイにこれ以上負担を掛けるのは……と思うところだけど、たぶん彼女なら率先して動くだろうし、何よりこの話題について黙っていた場合、むしろなぜ話さなかったと怒る未来が見える』
「……そうだな」
ユキトは苦笑しつつ同意した。仲間のことを絶対に放ってはおかなかった――それは共に戦っていたことから、わかる。
『スイハ達のことについては、こちらに任せて欲しい』
「そう言うのなら……俺はスイハ達と接していて、気になったことがあれば伝えるよ」
『うん、頼む……と、それはそうとユキト。君の方は問題ないのかい?』
「俺か? まあ特に……」
むしろ、記憶が戻っていく仲間を見て心が高ぶっているかもしれない――ということを改めて思いつつ、
「何かあればすぐに言うよ」
『わかった……ユキト、今後も負担を多く掛けることになるとは思うけれど』
「それはわかっているし、俺の能力は継続戦闘能力の高さだ。この世界で騒動が起こっても、異世界で戦い続けた事実と比較すればなんてことないさ」
ユキトの言葉に対しカイは電話の奥で笑い声を上げた。
『そうか、そうだね……今思えば、とんでもない環境だったね』
「ブラック企業も真っ青の、な……でもそうやって戦わなければ生き残れなかった。そうした経験がこの世界で役立つなら、本望だよ」
『……ユキトの考えはわかったよ。けれど、ずっと気を張り詰めていては精神的にも負荷が掛かり続けることになる。注意はして欲しい』
「ああ」
そして電話が切れる。ユキトはそれで校舎へ向け歩き出す。
「ケア、か……」
もしスイハ達と自分だけで活動していたなら、心のケアまで手が回らなかっただろうとユキトは思った。
(ここからは仲間との連携が重要になってくる……組織の体で動く以上、やることも増えるだろうな)
カイやメイばかりに頼るわけにも――そんなことを思いつつ、ユキトは教室へ戻った。




