二つの魔法
シオリが準備を開始する中で、メイを含め彼女を守ろうと動いたのはリュウヘイ。盾を用いて水流を受け流すと、そこへアユミの矢が放たれた。
斬撃とは異なり、水流そのものを両断することはできないのだが――彼女は矢に仕掛けを施していた。水流に矢が直撃すると、矢が突然パアン! と破裂音を上げて弾けた。弾けた部位から先は力なく地面へと水が落ち、衝撃によるものか他の水流の動きが鈍り、明らかにアユミを警戒し始めた。
「やるな、アユミ」
リュウヘイが言うと、当の彼女は肩をすくめ、
「リュウヘイほど上手くはないけどね……霊具なしでもやれてるのが自分でも驚いてる」
――放置すれば危険な魔物を前にして、アユミもリュウヘイも即応している。ユキトはその姿を見て、記憶が蘇った以外に理由があると考える。
(厄介な魔物……それこそ、町に被害を及ぼすかもしれない魔物を前にして、自然に魔力が活性化されたということか)
異世界で戦っていた際、危機的状況において奮起していたように――アユミの矢は動き回る水流を的確に射抜く。本来当てるのも難しいはずだが、ユキトは彼女が持っていた弓の霊具が追尾機能を所持していたのを思い出し、もしかするとそれをある程度再現しているかもしれないと思った。
(霊具による影響が記憶として鮮明に残っているため、これだけ自由に扱える……他の仲間達も記憶を戻せばすぐに、ということか――)
ユキトが考える間にも水流はメイを狙うべく襲い掛かるのだが、その全てをアユミは矢で防ぎきる。一方でリュウヘイも盾で攻撃をいなしつつ、時折盾を振りかぶり横薙ぎを決めた。刃など存在しないはずだが、その豪快な一閃によって水流は弾かれ、力をなくす。
「問題はなさそうだね」
カイが告げる。彼もまた剣を振り水流を薙ぎ払っており、ユキトはこの場にいる面々が問題なく戦えることを察した。
(スイハ達と共に戦線に加われば、おそらく敵が予想もできないほどこちらは強力な部隊となる……)
そんな予感を抱きながらユキトは準備を整えた。内に秘める魔力は雷撃を解き放つものであり、シオリの準備が完了次第いつでも撃てる状態となる。
「シオリ! そちらのタイミングに合わせる!」
ユキトは剣を振り水流を弾き飛ばしながら叫ぶと、シオリからは「わかった!」という返事が聞こえてきた。
すると魔物は多量の魔力を感じ取ったか噴水から出る水の量が明らかに増した。それは魔力を奪おうとするための行為なのか、あるいは単純にユキト達が攻撃してくるという危機感からか。
どちらにせよ、魔物の攻撃は勢いを増した――が、ユキト達は一切動じることなく、その全てを受けきった。
「はああっ!」
ユキトが剣を振りかぶるようにして一閃すると、剣風が生じ幾本もの水流をまとめて吹き飛ばした。なおも魔物の核は地下に存在しているが、明らかに動きを多くしたことでどこに存在しているのかをはっきりと感じ取ることができた。
「魔物側も慌てているようだね」
カイは魔物に対し解説を行う。
「とはいえ、この状況下から逃げられるとまずいけど……」
「魔物も逡巡しているところだろ。この状況が長時間になったら逃げる可能性はあるが、メイの存在があることから、躊躇している」
――まだ水流はメイを狙って放たれている。つまりこの戦況であってもあきらめてはいない。
彼女はまだ歌い続けており、発せられる魔力に水流が反応している。この機会を逃さず、仕留める――ユキトが心の内で呟いた時、
「ユキト!」
シオリの声だった。それでユキトは、
「俺が撃った後、続けざまに頼む!」
そう言った後、ユキトは剣の切っ先を噴水へ向け――雷撃が、放たれた。
それは水流に着弾すると、水を伝い一気に噴水の奥へと収束した。地下であるため音はしない――が、噴水の下側に存在している魔力の塊は、明らかに鳴動し何事かと混乱しているようだった。
そして雷撃を受けた瞬間、明らかに魔力が減少した。これなら、とユキトが直感すると共に、シオリの雷撃魔法が解き放たれ――水流を伝い地下へと潜り込んだ。
二つの魔法、それによって地下に存在していた魔力が一気に弾けて消える。途端、形を保っていた水流が崩れ始め、公園内を盛大に濡らした。
そこでメイは歌を終える。魔力が渦を巻く中で、ようやく騒動が終わったとユキトは内心安堵する。
「……作戦終了だ」
カイは魔法剣を消しながら宣言。それと共に張り詰めていた空気が和やかなものとなる。
「大変な相手だったけれど、ひとまず被害もなくてよかった……が」
と、カイは表情を引き締めながら告げる。
「今回の騒動で確信したことがある。僕らは以前、竜と戦ったことがあるわけだが、今回それと同時に生み出されたと思しき魔物と遭遇し、倒した。似たような事例があるかもしれない」
「山奥に魔物の巣があったくらいだ。他に何かあるかもしれないな」
ユキトが言及。それにカイが頷くと――再び空気は、硬質なものへと変化したのだった。




