警戒する魔物
ユキト達が訪れた公園は、野良猫などが散見される所で人気はない。敷地内に入ると周囲の雑音が遠くなり、また同時に感じることがあった。
「魔力が……」
「そうだ。メイはこれを発見したから僕らに連絡をした」
ユキトの呟きにカイは応じながら周囲を見回す。
「生き残りの魔物の可能性があるな……」
「だとすると、早急に倒さないとまずいな」
ユキトもまた周囲を見回しながら――次いで同行したリュウヘイへと声を掛ける。
「そっちは……帰ってもいいけど」
「魔力の感触的に魔法くらいは使えるし、少しは助けになると思うぞ」
「手を貸してもらうかもしれないから」
カイが続けて言うとユキトはそれに納得し、三人で散策を開始する。
公園の横手には小さな社が存在しているのだが、その裏手には明らかに魔力溜まりが存在していた。ユキトがじっと観察すると、
「何かがいた……ここに魔物がいたってことか」
「おそらくね」
カイは告げながら魔法を使用する。それはどうやら探査魔法のようであり、
「うん、ここにいた魔物の動きがわかる……問題は、地下へ潜っていることだね」
「地下?」
「おそらくは下水道かな? 魔物の正体についてはわからないけれど……下水道に入り込めるような存在ということだね」
「……マンホールから入るとか、そういうことか?」
「あるいは、側溝から入るとかだね」
「もしそうだとしたら……普通の魔物ではないな」
正体を推測していると、リュウヘイが声を上げる。
「スライムとか、そういう類いか?」
「その可能性が高そうだ」
カイはリュウヘイの言葉に同意しつつ、口元に手を当てて考え始める。
「今のところ人的被害もなければ、目撃情報もないけれど……問題は、魔物がどう動くかだね」
「下水道にわざわざ潜伏していることについては……」
ユキトが言及するとカイは少し険しい表情をした。
「もしかすると人間に見つかるとまずい、と考えているのかもしれない」
「魔物が……しかもスライム系の魔物がそこまで懸念して動いていると?」
「僕らが召喚された異世界では、保有する魔力が大きければ大きいほどに魔物の能力は高くなっていた。その能力とは、単純に筋力が強化されるケースもあれば、体そのものが巨大になるなどもあるし、あるいは――知能が高まるケースも」
「今回の魔物はそういうパターンだと」
「もし竜と一緒に召喚された魔物であれば、霊脈から漏れ出る魔力を受けて知能を付けた可能性は十分ある。加えて、僕らの戦いぶりを見ていたとしたら……人間に見つかれば、即座に対処されると推測してもおかしくない」
「人間自体を警戒しているというわけか……ただそうなると、どうやって倒す?」
「下水道内を調べて回るというのも手ではあるけど、手がかりが少なすぎるしかなり労力が必要になるな……ここにいたという魔力の痕跡はあるから、イズミに索敵の霊具でも作ってもらおうか。そのくらいならそれほど手間もとらせないと思うし」
「それが無難か……もし捜索前に暴れ始めたらどうする?」
ユキトの問い掛けにカイは沈黙した。
人間のことを相当警戒している魔物――ではあるが、それなりに意思を持つ場合、もう一つの可能性が浮かび上がる。
それは魔力を取り込み強くなったことで、暴れ始める。魔物も多大な魔力を抱えれば増長するとユキトは経験からわかっている。人が強大な力を持ったら自意識過剰になるのと同じだ。今回の魔物もそういった可能性がある。
「……少し、調べてみるべきか?」
カイは再考した後、そうコメントした。彼自身、何か思うところがあったのかもしれない。そこでユキトは、
「俺は賛成だけど、メイ達はどうする?」
「ふむ……アユミとシオリの記憶を戻すために僕の出番はないから、こっちで動くことにするよ。ユキトはメイから連絡があるまで待ってくれないか?」
「わかった……リュウヘイはどうする?」
「ユキトと行動するかな。記憶が戻ったアユミ達と一緒にこれからのことを話し合った方がいいだろうし」
「ならそれでいこう……カイ、単独行動になるけど」
「下水道に入るような真似はしないよ。あくまで現時点でわかる範囲で調査をするだけだ」
それなら問題はないだろうとユキトは思い、同意して分かれることにした。
「リュウヘイ、別の店に入って待つことにしようか――」
と、言った時メイからアプリで連絡が入った。そこで記憶を戻す段取りが簡潔に書かれており、
「こっちもすぐに行動開始だな……リュウヘイはどうする?」
「適当な店に入り直して、待つことにするさ。店名は後で連絡する」
「了解……それじゃあ、いったん分かれよう」
そうしてユキトとリュウヘイも離れた。よってメイと合流するべく移動を開始する。
(魔物……人間を警戒しているとなったら……場合によっては竜よりも厄介かもしれないぞ)
ユキトはそんな風に心の中で考えつつ、メイに指示された場所へと急いだ。




