魔物の進化
タカオミの魔法によって、突撃しようとしていた魔物が複数体消滅する。とはいえ彼の魔法が全て当たったわけではなかった。回避に成功した猫の姿をした魔物は、その小ささを活かして地を這うようにユキト達へ迫ってくる。
俊敏かつ右へ左へと足を移しながら突き進んでくる魔物に対し、最初に反応したのはノブトだった。槍を構え、魔物の動きに合わせて刺突を決める――が、ヒュンと風切り音が一つした後、魔物は槍を回避した。
「おっ――!?」
驚き声を上げたノブトに対し魔物へ迫った――のだが、カバーに入ったのがチアキだった。彼が放った風の刃は魔物の頭部をしっかりと捉えて、消し飛ばす。
「ノブト、気をつけろよ!」
「おお、悪いな!」
端的な会話の後、ノブトはすぐさま体勢を立て直す。それと同時にユキトは先ほど見せた魔物の動きを思い返す。
(相当俊敏な魔物……猫の姿を象って機動力を上げたにしろ、能力に特化した場合は厄介な特性を持つ可能性もある、か)
ここでユキトは竜の魔物を思い出す。
(元々、この世界には多大な魔力が存在するため、竜すら具現化できる。この世界の人……学者とかは資源、と称しても構わないほどの魔力がある……間違いなく世界が激変するほどの力。そして魔物はその魔力の恩恵を多大に受けている)
ユキトは別の魔物を倒した後、仲間へ告げる。
「魔物の動きや魔力の流れを観察してくれ! 先ほどノブトの意表を突いたような魔物が他にいるかもしれない!」
その言葉でスイハを始め、仲間達の目が鋭くなる。同時に、瞳に魔力を集め始めるのをユキトは確認した。その行為は、頭部に魔力を集中させることで感覚の鋭敏化や、魔物の内側に存在する魔力の流れを読み取ることができるようになる。
異世界で遭遇した魔物の中には魔力の流れを隠蔽できる個体もいて、天級霊具でも持っていなければ無条件に魔力の流れを捕捉することが難しいほどの脅威もいたのだが、この世界における魔物はまだそうした能力を持つ存在はいない。
(人間と戦い続けた結果、動物が進化するように魔物も色々と進化していった、ということなんだろうな。ただそういう話なら、この世界の魔物も時間が経てば進化するということになる)
ユキトはまた別の魔物を切り伏せた。スイハ達も応戦し、確実に敵を倒していく。
「この調子なら巣も……」
そうユキトが呟いたところで、さらなる魔物の気配。思った以上に数が多いと考えつつも、今の仲間達ならば問題ないと断じる。
「どうする?」
魔物の気配を察知して、ノブトが問い掛けてくる。それに対しユキトの答えは明瞭だった。
「このまま進む……そして、魔物を倒しきる」
発言に仲間達は頷き――さらに足を前に出す。それと共に、新たにやってきた魔物達を、全て迎撃し続けた。
戦いはおよそ一時間ほど続いたが、誰一人息が上がることもなく魔物を撃破することに成功した。
巣にいた魔物達は異変を察知して自ら外へと出てユキト達と交戦した。結果、地中に存在していた巣の中身が空っぽになるまで魔物は挑み続け――やがて、その全てが消え去った。
「魔物はあくまで自分達のすみか周辺を守るために動いていた」
ユキトは巣の中を確認した後、仲間達へ告げた。
「魔物の中に統率をする存在とかはいなかったようだし、おそらく個々に好き勝手振る舞っていた感じだな。時間が経てば魔物同士で争って自滅する可能性もあったけど、それよりも前に俺達が倒した、という形になるか」
「とりあえず、魔物は全滅させたってことでいいの?」
スイハが疑問を呈する。そこでユキトは彼女へ視線を向け、
「この周辺にいる魔物は、だな」
「……今後も、こうして魔物が出現し続けるの?」
「わからない。そもそも、今までこういった魔物が出ることはなかった事実を考えると、何かをきっかけにして生まれたのは確定だけど……可能性が高いのは、先日におきた竜の出現とかだな」
「今も敵が何かをしている?」
「いや、今回のことは敵が行動に移した結果、余波で魔物が現れたというのが正解だと思う……今後も断続的に魔物が出るのであれば、敵側が策略のために魔物を生み出している可能性もありそうだけど……ディル」
ユキトはここで相棒の名を呼ぶ。
「敵に繋がる魔力の痕跡とかはあるか?」
『残念だけど、ないね』
「魔物の数を考えれば、敵が生み出したのなら手がかりくらいはあってもよさそうだけど、それがないってことは……自然発生の可能性が高そうだ。もし今後も同様に魔物が出てしまったら、対策は考えないといけないな」
「魔物を倒すにしても、もう少し人員は欲しいよな」
と、ノブトが言う。ユキトはそれに同意するように頷き、
「敵勢力との戦いを考慮すると、やっぱりもっと人が必要なのは間違いない……近日中に、記憶を戻すべくカイやメイと共に行動する予定だ。イズミの方も気になるし……何か進展があれば、連絡するよ」
ユキトの言葉にスイハ達は頷き――魔物討伐は終了した。




