力の再現
ユキト達は一連の調査などを終えた後に帰還。その数日後、政府組織の建物の中で打ち合わせを行う。
「そういえばカイ、俺が発見した男性についてはどうなっている?」
その中でユキトは一つ言及。あの遭遇の後、ユキトは記憶を参照に精巧な似顔絵を作成して情報を政府組織に渡したのだが――
「ああ、さすがに指名手配でもない人を探すのは大変でね。なおかつ相手に気付かれるのはまずいとのことで、相当慎重に調べているみたいだ」
「……成果は現時点で上がっていないか」
「厳しいようだ。引き続き調査はしてもらえるけど、望みは薄いかな。敵だっていつまでも彼を野放しにはしないだろう」
「力を得ているのもあるし、潜伏させるだろうな」
「仮に素性が判明しても、既に住まいからはいなくなっているだろうね。彼は知り合いに力のことは教えないだろうし、現時点で情報はないに等しいかな」
「もっと早期に対応できていれば……いや、最初から動いていたのか?」
「もちろん」
「それで成果がないと……さすがに、大々的にニュースとかで顔を流すわけにもいかないからな」
魔法という概念を秘匿するためには、活動が制限される――と、ここでユキトは会へ一つ言及した。
「なあカイ、邪竜がこの世界で協力者を見つけて色々動いているのは当然なんだが、どういった人物だと思う?」
「どういった生い立ちでもあり得ると思うよ。それこそユキトが出会った男性は、純粋に力を欲するようなタイプだったかもしれない。あるいは、そそのかされたか」
「そそのかされた?」
「僕らが召喚された世界において、邪竜の策について色々調べたんだけど、ヤツは相当口が上手い……それによって味方を増やしていた」
「そりゃあ単純に力を与える、だけじゃあ大陸各地に造反者を生み出す規模にはならないよな……」
「だからこそ、僕はそれなりの人数が与していると考えている」
「それなりの……何人くらいだ?」
「多くて十人前後。とはいえ、敵が本格的に動き出したらさらに人が増えることは間違いない」
「現時点で、か」
「竜を生み出すくらいのことをしている以上、今後はさらに敵が増える……とはいえ、無闇に力を与えるという可能性は低いし、懐柔策も別の方向になると思う」
「例えば金品を与えるとかだな」
ユキトの言葉にカイは頷いた。
「その通り。異世界における邪竜の侵攻も、力を与えるという約束だけではなかった。王などに取り入ることができずくすぶっている貴族など、現体制を良く思っていない人間を集めていた」
「その考えだと、邪竜が取り入る可能性がある存在は――」
「政府関係者であれば、こちらの組織が勘づく可能性はあるけれど……邪竜はおそらく僕らの素性だけでなく、政府組織と手を結んでいることくらいは認識しているはずだ」
「……それだけ情報収集していると?」
「ああ。ここまでの戦い方を見れば、推察できる」
「……大丈夫なの?」
と、隣で話を聞いていたスイハが問い掛けてくる。
「町に被害が出る以外にも、私達を狙ってくる人がいるかもしれない、と」
「その辺りは対策を立てているよ。それに、敵としては戦士が多数いるこの場所を好んで狙ってくる可能性は低いし、何よりこの町中なら僕らは魔法を行使できる環境が整いつつある。よって魔法による対策も可能だ」
「目には目を、ってやつか。密かに魔法を使うこと自体、抵抗がないとは言えないけど」
嘆息しつつも、ユキトはカイへ告げる。
「敵の動きを制限するには、それしかないってわけか」
「魔法を使用することによる弊害も考慮はしているよ。それに、魔法を知らずに受けて力が発現する人が出てしまう可能性もある」
「そこは政府組織側が頑張ってもらわないといけないか」
「そうだね。僕らは戦力強化に終始しよう」
カイの言葉にユキトとスイハは頷き、話し合いは終了。ユキトはその足で別室へ移動し鍛錬を開始した。
「ふっ!」
剣を振り始めた直後、スイハもついてきて鍛錬に参加する。そしてカイもまた――
「今日は剣を振らせてもらうよ」
「珍しいな」
「たまには一緒に訓練するのもいいだろう?」
カイの言葉にユキトは小さく笑いながら頷き――三人で剣を振る。カイとスイハは聖剣を所持していたこともあってか、それなりに魔力的に相性が良いらしくカイが色々と指導している。
「……聖剣はこの場にないけど」
ふいにユキトは発言する。
「聖剣に宿っていた力……その応用はできるのか?」
「そこについては、おそらくスイハと違うかもしれない」
思わぬカイの発言。ユキトが眉をひそめると、彼は解説を始めた。
「僕の肉体はこの世界のもので、異世界へ召喚されたものではない。でも記憶によって、魔力を扱えるようになったわけだけど……聖剣を持っていた時間の差か、僕の方は聖剣の力を一部再現できる」
「再現……?」
「聖剣には様々な力が宿っていた。というより、色々な技術が詰まっていた。その中で、今の体でも……応用できるものが結構ある」
「なるほど。でもスイハは違うと?」
「どれだけ戦場に出て戦っていたのか。それによって扱える技術の数に差が出ているということだよ」
「なるほどな……それをカイが教えるのか?」
「うん、聖剣の技術……それを扱える人間は増やした方がいいだろうし、ね」
その言葉と共に、スイハの顔が引き締まる。彼女の方はカイの方針に従い、やる気の様子。
「後はユキトの方だけど……」
「俺については、もし邪竜そのものが出現したらという想定で鍛錬している。今はまだ、あの強大な敵を前にして勝てるわけじゃないけど、リュシールから託された技術……それを使えば……」
「体に相当負担を掛けるだろ?」
「それは考慮済みだ。霊具の補助があれば、そうした問題もある程度は解消されると思う」
「ならイズミは責任重大だな」
「ああ、そうだな……今頃、色々頭を悩ませているだろうな」
「ここに来る前に連絡をとったけど、デザインを始めているみたいだよ」
「デザインって、そこからかよ」
「こういうのは形から入るのが大事だと彼女は言っていた」
「なんというか、相変わらずマイペースだな」
イズミの行動にユキトは笑う。それに釣られ、スイハもまた笑みを浮かべたのだった。




