開発者
ユキト達はイズミが住んでいる場所近くの公園にやってきた。そこに、ユキトにとって見覚えのある女性がいた。
コートを着込んだ私服姿は初めてなのだが――間違いなくイズミだった。身長の低さと、どこか子供っぽい顔立ち。高校生に見られない、というのが彼女にとって悩みのタネだったとユキトは記憶している。
ただ、彼女自身さっぱりとした性格であるため、悩みではあるがそこまで気になっているというわけではなかったみたいだが――
「おーい」
メイは魔法を解除してイズミへ近寄っていく。彼女は即座に気付いてメイとの再会を喜ぶ。
加えて、後方にいるカイの存在にも気付いた様子。メイとひとしきり会話をした後、ユキト達へ近づいてくる。
「えっと、久しぶりだけど……どういう経緯で――」
彼女が問い掛け終わるより先に、ユキトは彼女と視線を交わして記憶を戻した。最初、イズミは突然目を合わせてきたユキトに驚いた様子だったが、すぐに状況を察知したのか、
「……異世界の記憶、か」
「思い出したみたいだな」
ユキトの言葉にイズミは小さく頷く。
「なるほど、わざわざここへ足を運んでもらったのか」
「そうだね」
と、カイは肩をすくめながら話す。
「メイの立場上、大手を振って再会は難しいから、わざわざ人気の少ない場所を指定してもらい、確実に記憶を戻せるような舞台を用意した」
「うんうん、確かにこの状況なら確実だね……さて、記憶を戻したってことは、何かしら用があるの?」
「ああ。まずは僕らの状況から説明しよう。ただ、寒いしどこかへ移動するかい? メイについては魔法を使えば姿はバレないから、どこでもいけるけど」
「魔法を使っているのか……ふむ」
と、イズミは右手をかざした。次いで力を入れたか、腕全体に魔力が発露する。
「記憶が戻ったことで使えるね……ううん、もしかすると元々使えるのかもしれないけど」
「僕はそうだと思っている。けれど扱い方がわからないから、この世界の人は気付いていないだけだ」
「そっか。荒事なら戦闘向きの人の記憶を蘇らせるし、何か大変なことが起きているっぽいね。なら、そうだなあ……話が長くなりそうだし、家に来る?」
「平気なのかい?」
「両親は出かけていて不在だからね。夕方までは帰ってこないよ」
ユキトはカイやメイにどうする、という視線を投げる。そこでカイは、
「なら、お邪魔させてもらおうか。それに、もう一つの目的についてはここからそう遠くないし、駅周辺に戻るのは二度手間だしね――」
イズミの家に招待され、リビングでお茶でも飲みながらカイが代表してこれまでの経緯を説明した。それにイズミは逐一相づちを打ちつつ、
「へえ、なるほどね……この世界にも魔力があって、霊具作成に私の力が欲しいと」
「邪竜に関わることだ、可能であれば加わって欲しい」
「私は別に構わないよ。ただ、私だけ遠方にいるわけだし、何か手はあるの?」
「その辺りは転移魔法が解決してくれる」
カイがいくつか説明するとイズミは納得するように声を上げる。
「うん、それならいけそうかな……ただ、喜んで協力はするけど私が戦力になれるかわからないよ?」
「記憶が戻ってみて、霊具を作成できそうとか、感覚はないのかい?」
カイからの問い掛けに彼女は一時沈黙する。そして、
「うーん……まあ、いけるかな?」
「いけるのか……」
ユキトが呆れた風に呟くと、イズミは手をパタパタと振りながら、
「ああ、あくまで感触だから。ただ、実際にやってみないとわからないね」
「可能な限り支援はするよ」
さらにカイの言葉。それにイズミは小首を傾げ、
「それは、魔法を使って開発空間を作るとか?」
「ご名答。現時点で道具の一つすらないけれど、少なくとも大規模な魔法については構築できた。これを応用すれば、イズミが望む環境……それを用意して霊具作成の補助ができる」
「期待されているなあ……ま、やれるだけやってみるよ」
あっさりと話し合いは終了。ユキトは霊具ができることを内心で祈りつつ、別の話題を切り出す。
「それでカイ、魔物について……」
「うん、そうだね。ただこれはイズミとは関係のない話だし――」
「とりあえず話だけは聞くけど?」
イズミが言及。それによりカイは話し始めた。内容は、霊脈のことだ。
「魔物がいるかもしれないと」
「魔力が活性化しているから何が起きてもおかしくない」
「うーん、この場所の近くだとしたら私も携わりたいけど……さすがに戦力にならないし、パスかな」
――彼女の能力は裏方に特化したものであったため、基本的に戦闘には加わらなかった。イズミもまた邪竜との戦いで一度命を落としているわけだが、それは最終決戦の際、迷宮の最奥に踏み込むということで、少しでも助けになればと作成した霊具で武装して入り込んだ。
結果から言えば、邪竜との戦いの途上で彼女は倒れたのだが――
「霊具の作成にこぎ着けることができれば、僕らの戦いはかなり進むことになる。邪竜の目論見を潰す決定打を生み出せるはずだ」
「とはいえ、それはリスクもある」
と、他ならぬイズミが言う。それはユキトもカイも、メイも認識していた。
「強力な霊具……それは使用者の魔力を増幅させて行使するタイプになるはずだけど、そんなものが世に出たら……」
「この世界の人は魔力を扱えない」
と、ユキトはイズミへ向け発言する。
「でも、魔力を抱えているのは事実である以上、それを補助する霊具が生まれてしまえば――」
「下手を打てば、僕らが魔法という存在を公にしてしまう危険性がある」
カイが述べる。そう語る根拠はイズミが成した功績だった。
異世界において、彼女は霊具の発展に大きく貢献した。邪竜との戦いで霊具の強化が急務だった人間達に対し、イズミの霊具はまさしく解答だと呼べるものだった。
霊具の開発や分析能力に特化した霊具――それにより、彼女は異世界での戦いで人間側の戦力を大きく強化した。その影響は多岐に渡り、その特性から彼女が所持していた霊具は天級霊具という位置づけだった。
そうした能力で作成した霊具が人の手に渡れば――この場にいる面々は誰もが理解していた。




