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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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大きな違い

 スパイについて――言及にカイは押し黙り、ユキトは不安になってさらに尋ねる。


「もしかして、疑いがあるのか?」

「いや、現時点ではないよ。そこについてはちゃんと調べている」

「そっか……」

「もちろん、確実なことは言えないけど……情報が抜き取られているなら、先の戦いだってもっと敵は上手くやっていたはずだ。とはいえ、今後組織が大きくなれば当然、そういう人が出てきてもおかしくない。そもそも、邪竜の真骨頂と言える部分だ」


 ――邪竜は相当入念な準備を重ね、異世界で戦争を仕掛けた。それにより人間の国々は窮地に追いやられた。

 謀略を得意としているのは明白であり、その点については最大限の警戒をしなければならない。


「異世界で戦った邪竜の行動から考えると、邪竜が表に出てくるのはあらゆる策が全て成就した時だ。それを成すまで絶対に出てこないだろうというのが僕の見解なんだけど」

「……異世界の出来事を思い返せばそれは当然だろうな」


 ユキトは頷きつつ、一つカイへと問い掛ける。


「カイの言う策が全て……というのは、邪竜という存在がこの世界に降臨した時か?」

「いや、僕はその先を進んでいると思う」

「先……?」

「邪竜はこの世界のことを調べた上で侵攻するはずだ。人を用いていることから考えても、邪竜は僕らが戻ってきた際に……つまり、ユキトが戻ってきた時にこちらの世界へ来たと考えていいだろう。つまり、一年経過している」

「そうだな……」

「そこから支援者などを集めた……異世界における邪竜の侵攻というのは、唐突だったみたいだけど、それを成す前に入念な準備がされていた。大陸各国の貴族などを取り込み、さらに魔物や巣を多数配置して……年単位で準備が必要だったはずだ」

「それをこの世界でもやるってことか」

「そう。現在人を集めて色々と試行錯誤しているみたいだが……逆を言えば、検証できるくらいにまで準備は進んでいる。ただ、それでもまだ準備段階だ」

「でも、俺達が気付いてしまった。邪竜にとっては望ましくない展開じゃないのか?」

「あえてやっているのは確定だよ。だとしたら敵は、掌握する対象を狙っているのかもしれない」

「……どういうことだ?」


 カイは一度視線を漂わせる。


「僕らが召喚された世界とこの世界とでは、メディアの発達というのが大きな違いだ。ここを掌握し、世論を動かすことができれば、邪竜に付き従う者も必然的に増えるだろう」

「敵はそれが狙いだと?」

「可能性は極めて高いと思う。動画公開などをしていることを踏まえれば、敵の狙いは報道機関に対する干渉かもしれない」

「だとしたら、どう応じていくか……」

「こちらは政府系組織と繋がりがあるにしろ、そもそも政府だって一枚岩じゃないし、下手にメディアに干渉したらそれだけで騒動が巻き起こる。加えて現時点では、公開された動画だって単なるCG合成だって言われているくらいだし」

「現段階で何かをやれば、逆に怪しまれるって話だな……課題は多いな」

「だからこそ、早期に敵を見つけ出す必要がある。邪竜としては、たぶんだけど僕らがこうして記憶を戻ったことは想定外だと思うから、準備を進めて一気に決着をつけたいところだ」

「……そうだな」


 ユキトはそれに同意。会話の間も電車は目的地へと進み続けた。






 やがてイズミがいる最寄り駅へと到着し、そこからカイはメイと連絡をとった。


「俺は一緒にいるとまずくないか?」

「その辺りは状況に応じて考えるよ」


(……まあ、会ってすぐに記憶を戻すから問題はないのか)


 ユキトはそう考え、カイの判断に任せることにした。


 やがてユキト達の所へメイがやってくる。今の彼女は全国区に名が知られており、駅周辺には中学生や高校生らしき人もいる。そうした中に出現したら当然大騒ぎになってもおかしくないのだが――


「魔法を使っているのか」

「便利だから使わないとね」


 ニヤリと笑うメイ。ユキトは普段からこうして魔法を使っているのだろうと確信する。


(普段から魔法の練習になるからいいか……)


「といっても、僕らはすぐに気付くことができたな」


 カイが言う。それに対しメイは首肯し、


「ほんの少しだけ認識を阻害しているだけだから。少しでも魔力を操作できる能力があれば通用しない程度の出力だよ」

「つまり、ある程度魔法の制御はできるようになったと」

「そうだね」


 カイ達が会話をする間にユキトは周囲を見回す。彼女の言う通り、魔法により認識を変化させているために周囲の人々はここにメイがいるとは気付いていない。


「……魔法の効力は少ないから、とりあえず周囲に影響はないってことでいいのか?」

「そうだね」


 ユキトの質問に対しカイは小さく頷いた。


「これくらいなら問題はないと思う……というより、日常生活で魔法を使っても影響はないさ。それこそ、戦闘など大規模なものが発生しない限りは」

「そっか……じゃあ行こうか、イズミの所へ」


 ユキト達は歩き始める。その途中で興じる雑談の内容は、やはり邪竜関連のこと。その中でメイは、


「私の立場なら、色々と情報は集められそうだけど……」

「メイはそこまでやらなくていい。というより、下手に動いて目立つのも避けたいからね」


 と、そこまでカイは言った後、


「それに……邪竜の目的はおそらくメディア関連の制圧だ。であれば、現段階で芸能界に人が入り込んでいてもおかしくない」

「……注意した方がいいってことだね」

「メイ、注意は払ってくれ。邪竜は僕らを含めメイのことも把握しているはずで、もし敵が表立って……それこそ、人目も気にせず攻撃するのであれば、メイが狙われる可能性がある」

「わかった」


 ――その表情は、元々その辺りのことを考えているようにも感じられた。敵が芸能界に浸食しているかはわからないが、それでも自分が狙われやすいというのは、テレビに映っていることからも肌で感じていたのだろう。


「カイ、護衛とか付けた方がいいのか……って、さすがにそれもリスクが高いか」

「アイドル活動を阻害するからね」

「大丈夫、そこはちゃんと警戒するから」


 メイは笑って応じる。そうしてユキト達は、住宅街へと足を踏み入れた。


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