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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第六章

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霊脈について

 電車に乗車し、隣同士で座って雑談に興じる間にカイはふと話題を邪竜関連に戻した。


「一つ、気になることがある。組織側もこれがどういうことを意味するのか判然としていないし、調査することに決まったんだけど」

「気になること?」

「この世界で戦いが始まって……先の事件については動画が公開されたという問題は発生したけれど、ひとまず誰も僕達のことは気付いていない」

「そうだな」

「ただ、それによって多数の魔法を使用した。邪竜一派が仕込んだ魔法陣もそうだし、僕達が発動させたものもそうだ。結果、町の周辺……それ以外にも、各所で魔力の増大が確認された」

「増大……?」


 ユキトは不穏なものを感じ取り、小さく呟く。


「僕らが暮らす町の周辺だけならまだしも、日本各地で、だ。これはツカサが魔力に関するデータを取っていた際に気付いたものだ」

「……というか、既に魔力データの収集までできているのか」

「コンピュータを用いた精密なものではないよ。魔法を使い、およその量を推計するくらいのものだ。イズミの霊具開発能力が加われば、もう少し詳細がわかるとは思う」


 カイの発言にユキトは思った以上に状況が進展しているのだと認識した。これはカイやツカサが尽力していることもそうだが、何より政府側がバックアップをしていることも大きいだろう。


「その結果、特定の場所で魔力の増大が確認された……というわけだ」

「それについては、何かしら結論が出ているのか?」

「一応ね。邪竜一派はこの町の下に存在する霊脈に干渉していた。たぶんなんだけど、霊脈を介して他の場所へ魔力が流れ、活性化したんだと思う」


 なぜ遠くの場所が――と普通ならば思うところだが、ユキトは驚かなかった。それは異世界においても類似した現象があったためだ。


 ――霊脈とは巨大な魔力の流れを意味している。邪竜一派はそれを利用して魔物を生みだし、前回町にまで被害をもたらそうとした。結果としてユキト達はそれを止めたが、魔法を発動させたことにより霊脈に影響が出た、というわけだ。

 霊脈は一つどころに留まらず、川の流れと同様に星の内側を駆け巡っている。異世界でユキト達が活動していたフィスデイル王国においても、王都の下に位置する霊脈に干渉すると、国境を越えた別の国に存在する霊脈に反応があることが確認されていた。


 つまり、地上ではわからないが霊脈通しは繋がっており、それにより今回日本各地に影響が出た――


「おおよそだけど、僕らの町にある霊脈を使うと、どこに影響があるのかはなんとなくつかめた。実を言うと、向かっているイズミの暮らす場所もそこに該当しているんだ」

「現地調査とかするのか?」

「一応、イズミの記憶を戻したら簡単に……時間があるかどうかわからないし、僕自身は魔法で簡易的に調べるくらいで大丈夫だと思うけどね」

「……霊脈に干渉し続けることで何が起こると考える?」


 ユキトの問い掛けにカイは一時沈黙する。ただ眼差しはユキトに対し「わかっているだろ?」と訴えているようだった。


「端的に言えば、地表に今よりも魔力が湧き上がってくる……この世界は魔力に満ちていることが調査でわかってきた。下手すると僕らが召喚された異世界よりも。ただ、それはどうやら結合して固まるような性質じゃない……異世界では固まって魔物が生まれていたけど、この世界でそうはなっていないのはそれが理由みたいだ」

「でも、魔力が多くなれば……」

「魔物が発生するメカニズムまで同じなのかはわからない。今後の調査も必要だけれど、最悪魔物が自然発生するかもしれない」


 もしそうなら、隠し立てできなくなるか――とユキトは思っていると、


「魔物に関しても懸念しているけど、それが公になった際に僕らがどう動くべきか難しい判断を迫られるな」

「そういう組織が元々あったんだから、対処できただろうってことか?」

「そういう風に主張する人だって出てくるかもしれない……まあ僕らのことが露見したとしても、最悪魔法で何とかなるから」

「なんとかなるって……?」

「僕らの町に人よけの魔法を使用する。駅周辺はともかくとして、住宅地までは入って来れないみたいな感じにすれば、プライベートが脅かされることはない」

「無茶苦茶力押しだな……」

「魔法という存在が白日の下にさらされれば、とんでもないことが起きる……今のうちに、色々と備えておくべきだろうね。願わくば、それを使わないことを祈りつつ」


 カイの発言にユキトは押し黙る。仕方がないとはいえ、準備を進めなければいけないのは不本意ではある。

 とはいえ、可能な限りの対策はしなければならない――ユキトは何かやることはあるかと問い掛けようとしたが、


「ユキトの方は、仲間の鍛錬を」

「わかった……対策はそちらに任せていいんだな?」

「ああ、それで構わない。こっちは政府と協議して対策を施していく」

「……当然、邪竜が出現した場合も想定しているんだよな?」

「現時点で出現する可能性はないと考えているけど、もし異世界で僕らが戦ったような敵が現れたら……」


 カイはそこから言葉に詰まった。さすがにそこまでの対策はやりようがない。


「……そこについては、俺がどうにかする」


 やがてユキトは話し出す。


「ただ、さすがに公になるだろうな」

「それは仕方がない。何はともあれ人命優先だ。今は人を使って計略を施している以上、まだまだ力がないという前提で話を進めるしかなさそうだ」


(実際、その通りだろうけど……もしこの世界の魔力を取り込める技術を得たら――)


 一番の懸念は、と考えたところでユキトは一つ言った。


「なあカイ、現時点で政府側で俺達のことを知っているのは、ごく一部だよな?」

「そうだ。ついでに言うなら組織内でも知っている人は僕らが顔を合わせた人を含め少数だ」

「現時点では大丈夫だと思うが、邪竜に与する存在が出現してスパイ活動をする……なんて可能性も、ゼロじゃないか?」


 指摘に対し、カイは沈黙した。


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