様々な対策
「――映像については、フェイク動画のような扱いにはなっている」
と、カイは語り出す。そこは会議室――政府組織管轄の一室で、ユキトに加えカイとスイハがこの場にはいた。
「映画のワンシーンのように見えなくもないけれど……現在色々な所に飛び火をしていて、検証している人だっている始末だ」
「拡散されている以上、この動画を削除するというのも無理だよな」
「そもそも、フェイク動画なのになぜ削除するのか? とさらに燃料を投下する事態になるだろうね」
カイは肩をすくめる。その言葉にユキトもスイハも押し黙った。
時間は夕刻。ユキトは件の動画を見て、即座にカイへ連絡して話をしようということとなった。
その内容は、昨日の戦い――魔物が多数出現した騒動を解決した際に戦った竜。そしてそれと戦うユキトの存在。それをしっかり記録されたもの。
「俺の素顔を隠していて良かったな」
「そうだね……でもまあ、幻術を行使しているだろうし、ユキトについては問題ないと思うよ。真の問題は……戦っている場所だ」
カイはいくらか資料を提示した。それは動画の一部分を切り取った画像を印刷した物。
「敵はあえてここがどこなのかを知る手がかりを残している……建物の大きさや配置、周辺住宅の状況……そういった物がわかるようにしている」
「場所を特定されるのは時間の問題だな」
「そうだね。おそらく騒動があった時間帯についても、色々と情報が出てくるはずだ。とはいえ、竜自体の目撃者は皆無だ。どこかの誰かが小学校の屋上から撮影した動画に、CGを使って合成した……という解釈になるだろう」
「学校が特定されたら、そこから上手いこと動画削除とかに繋げられないか?」
「できなくはないと思うけどね……調べたところこの小学校は屋上を開放していないみたいだから、不法侵入という形にもなる。そこから動画投稿者を特定して……みたいな方法はとれるけど、さすがに身元がばれるような手法はとっていないだろうと思う」
「……俺が気付いて対処できていれば良かったんだけどな」
「それは言いっこなしだよ」
スイハが言う。ユキトはそれに小さく頷き、
「そうだな、終わったことをグチグチ言っていても仕方がない……で、カイ。動画についてはどうするんだ?」
「調べることについても、一過性のものだから放置していれば次第に鎮火はしていくだろう。むしろ不法侵入じゃないか? という形で繋げていけば、今すぐは無理でも何らかの対処はできると思う。まあ、動画の再生数も何百万というレベルじゃない。場合によっては学校を特定されてこの町の人が驚くかもしれないけれど……害はないだろうし、すぐに忘れ去られる程度の話題にしかならないさ」
「……問題は、これを投稿した相手の目的だよね」
スイハが述べる。ユキトとカイはそれに深々と頷いた。
「というより、もしかするとこれは僕らに対するメッセージなのかもしれない」
「自分達が見ているぞ、ってこと?」
「そうじゃない。言わば宣戦布告……魔法と魔力。そうした存在を絶対に公にしてやるという、挑発的な行動……そうした意味合いだって存在する可能性がある」
「これに警戒して無闇に動けば、墓穴を掘るかもしれないな」
ユキトの指摘。カイはそれに首肯し、
「そうだね。こちらは相手の繰り出してくる戦術に踊らされることなく、対策を進めていこう」
「……この動画について、政府側はどう思っているんだ?」
「現状は特に問題にならないだろうという結論だよ。組織側も捨て置いていいという判断だ」
「なら、俺達は当初の作戦通りに事を進めればいいわけだな」
「そうだね。次の目標は……イズミの記憶を戻すことだ。これ自体はさして難しいわけじゃないけど、転校して遠方にいるから手を貸してもらうのにも工夫がいる」
「具体的にどうするんだ?」
「……転移魔法を確立させる」
カイの発言にユキトは予想通りだったのだが、スイハは驚いた。
「転移魔法を……!?」
「僕らが召喚された異世界でも、結構な設備をもって発動しているものだった。それを霊具もないこの世界でやるのは大変だけれど、不可能じゃない」
「というより、これから敵と戦っていく上で、必要な魔法ではあるんだよな」
ユキトはそう呟きつつ、腕を組む。
「問題は、どうやってそれを実現するか……イズミの霊具作成能力があればなんとかなるってことか?」
「さすがに僕も辛いと思っているよ。そもそもイズミの能力は霊具によるところが大きかった……邪竜との戦い、その終盤では霊具の力を抜きにしても色々作業できるようになっていたし、僕はその能力を買って彼女の記憶を戻そうと考えているのだけれど、さすがに独力で転移魔法を構築するのは無理だ」
「なら、どうする?」
「僕らが持っている魔法知識を総動員して、転移魔法陣を設置する。まずは以前赴いた施設……あの場所と、ここを繋げてみる」
「試すってことか。町に対し人よけの魔法を使えた現状を思うと、転移魔法さえ使えれば実現できそうな雰囲気があるけど……」
「かなり大変だよ。でも、これが成功できれば邪竜との戦いについてもかなり有効的に動けるようになる」
「……遠距離を移動できるということで、敵が遠方にいても対処できるというのは事実だけど、問題は転移魔法陣の設置場所だよな?」
「そこはこちらで上手いこと調整するし、転移魔法さえ確立させれば、最終手段として片道切符でもいける」
「片道……ああ、つまり魔法陣同士で移動するわけじゃなくて、単独で転移させるってことか」
「あくまで最終手段だけどね。幻術で姿を消してさえいれば、魔力を観測されないこの世界ならバレることはない」
なるほど、それなら――とユキトは深々と頷いた。
「で、転移魔法については目処が立っているのか?」
「今のところはどうとも言えないな。ただ、先の戦いで色々と魔法理論を思い出したからね。メイやツカサと協議をして、進めていこうと思う。可能であれば、敵が次の行動に移るより先に、完成させたいところだね」
どうやらスケジュールはカイの頭の中でできあがっているらしい。そこまで思案しているカイに、ユキトは内心で感服するほかなかった。
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2月28日に「黒白の勇者」書籍版三巻が発売となります。
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