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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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世界と混沌

「僕らがやることは三つ。一つは敵の居所を見つけ出して、速やかに今回の騒動を終わらせること。ユキトだってわかっているとは思うけど、敵の首根っこを捕まえない限り、戦いは終わらない」


 ユキトもスイハも同時に頷く。敵、というのは邪竜を含め、協力する人間全てだ


「そして二つ目……これは一つ目に付随するものだけど、今後も魔物などが出現する危険性がある。よって、その対策を行う……もちろん、あくまで秘密裏に。これは政府組織のバックアップがあるからそれほど難しくない」

「資金的には問題ないと思うけど……」

「ユキトの言いたいことはわかるよ。組織として活動が活発になれば、人の噂になるかもしれない……まあ、その辺りは政府側に任せておけばいいさ。魔法というものがどれだけ恐ろしいのかは、政治家の方がよくわかっている」


 ――ユキトはそうだろうと内心で同意しつつも、問題もあると直感する。例えばの話、支援する政府側と、反発する側の人間もいるはずで、もしそういう人間が関わってくるなら――あるいは、魔法が便利だとして、何かしら邪な考えを持つ者が現れたら――


(カイはその辺りも考慮しているだろうけど……ま、任せておけば大丈夫か)


「そして三つ目。異世界に召喚された面々……その記憶を戻していく。直近でやるべきなのはイズミだね」

「俺達にできることとして最重要なのは、そこだよな」

「うん、すぐにでもやれることだからね……そうした中で、僕らのレベルアップもしっかり行っていく」

「それもまあ……で、カイ。全員の記憶を戻すのか?」

「最終的にはそうしたい」


 カイの言葉にユキトは押し黙る。そこで彼は、


「何か気になることが?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……仲間を増やすのは、最悪のことを想定してのものか?」

「そうだね」

「……カイにとっての最悪というのは、何だ?」


 ユキトの問い掛けにカイは一度黙った。スイハも沈黙を守り、言葉を待つ中で彼は、


「……魔力、魔法という概念が生まれること自体は、僕自身良し悪しについてはわからない」

「わからない?」

「新たな技術が生まれるというのは、それだけで人類の発展にも繋がるからね。魔法は非常に有用だし、特に霊具……これを用いることができれば、飛躍的に人類の技術が進歩するだろう」


 そこまで語った後、カイはユキトとスイハを一瞥する。


「作物などに付与すれば、それだけで生育に影響を与え、天候などに左右されないようになるだろう。家畜に付与できれば、成長の加速や品質の向上に加え、飼育についても非常に容易になる。魔法による使い魔ができれば、ロボット技術などがなくとも人は労働力を得られるし、転移魔法が確立されてしまえば移動手段すら必要なくなる」

「現在の科学技術を全部否定しそうだけど」

「融合する、と僕は思っているよ。魔法でも不便なことは多々ある。それを科学技術で補うことで……さらに言えば、魔力を活性化させることで今よりも寿命が延びるだろうし、人口爆発の問題も、まだ開拓されていない異世界を見つけ出すことになれば……解消されてしまう」

「何でもアリだね……」


 スイハの言葉にユキトも頷くが――それは魔法であれば夢物語などではない。実際、ユキト達が体験してきたことなのだ。


「今僕が語ったのは、異世界での経験に基づくものだ。実現が可能なものであり、これはこの世界を激変させるだろう……将来的に言えば、良いことなのかもしれない。でも、当事者である僕達にとっては、混乱の原因になる。魔法の発展を通して、世界には様々な混乱が生まれる」


 そう語るカイの言葉は、非常に重い。


「端的に言えば魔力というのは一種の資源エネルギーだ。しかもその源泉はこの星全体と、僕ら人間……なおかつただ消費するだけではなく回復すらしてしまう。星から吸い上げる量は限界があるけれど、将来枯渇するかもしれないと言われている化石燃料などと比べれば、その資源量は莫大だ」

「世界の勢力図なんかも変わるな」

「そうだね……そして僕は魔法というものが明らかにされてしまう、という点については時間の問題だと思っている」


 カイの発言にユキトは驚く。


「それは……何故だ?」

「僕らは政府と密接に結びついている。元々、超常的な現象として組織が存在していたわけだけど、それが明確な形となった。この事実は、政府を通して各国政府にも伝わるだろう。邪竜という存在がいるのであればなおさらだ」


 ユキトはそうした言葉に同意しつつも、それは魔法が公になる道筋になるため、危険なのではないかという考えも生まれる。


「少なくとも、密かに魔法という概念がこの世界に生まれる……それを隠し通すのか、それとも公開するのかはわからないけどね」

「今の状況からすれば、限定されるにしろ魔法というものがこの世界に明らかになるってことか」

「そうだ。その後はどうするのか……ただ、歴史的な経緯を考えると、魔法が次第に浸透していく方向になりそうな気はするけどね」

「それは……?」

「各国政府は軍事的な効果に目を付けるはずだ。なおかつそれが敵対国に流れれば……」

「それに対抗するために技術開発が進むってことか」

「そういうこと……僕らにできることは今回の騒動を穏便に済ませ、今後広まるかもしれない魔法という概念について、穏当な形で公にしていくことだけだろう」

「邪竜により表に出てしまったら……」

「劇的なものになる。それがどれだけの混乱を呼ぶのか、僕にも想像がつかないね」


 ――絶対に、それは阻止しなければならない。ユキトは改めて決意をする。そしてそれはスイハも同じ考えのようで、口を固く結びながら何度も頷いた。


「……ひとまず、今回の騒動はどうにかなかった。しかし、敵の尻尾はまだつかめていない」


 カイはさらに続け、話のまとめに入った。


「次の戦いに備え、早い段階で準備を進めていく……今の僕らにできることはそれだ。いち早くイズミと再会して、記憶を戻す……まずはそこから、始めていくとしよう――」


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