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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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戦いの記憶

 魔物の声は野犬のそれとほぼ変わらないため、魔物を間近で見なければ犬が吠えているとしか思われないだろう――ならば、とユキトは目標を定める。誰にも見咎められないうちに、魔物を倒す。


「はっ!」


 顔までディルの力で隠した黒衣姿で、ユキトは魔物へ接近し一太刀浴びせた。次の瞬間、刃が魔物に触れ――人と同様に鮮血が噴き出した。


「なっ……!?」


 ユキトはそれに驚きながら、返り血を避けるように横へ体を移す。一方の魔物は斬撃が致命傷になったか倒れ伏した。

 だが、今までのように消えることはない。それでユキトは魔物に何が起こっているのかを悟った。


「推測通りってことか……!」

『つまり、受肉?』


 ディルが問い掛ける。それにユキトは小さく頷いた。


「そうだ。とはいえ魔物そのものは強くない。対処は十分可能だが……」


 喋る間に他に魔物が出現する。今度は複数体だが、その全てがユキトに狙いを定めていた。


「好都合だな」


 ユキトはそう断じた。魔力に反応して集まってくるのであれば、戦うことで魔物を誘うことができる。


「ディル、索敵してくれ。それで俺も動きを変える」

『了解。でも……』

「どうした?」

『魔力がずいぶんと拡散してて……いや、これはまさか――』


 会話を成す間にユキトは交戦を開始した。魔物が右前足を振りかざして攻撃しようとしたが、それをすり抜けるように横へかわしながら頭部へ一閃する。それであっという間に首が落ち、またも血が噴き出した。


 続けざまに他の魔物も同様に処置をする――短時間で敵を全て倒し、どうにか事なきを得る。

 ただ、受肉しているため実体が存在している。そこでユキトは、


「ディル、虚無の能力を使えるか?」

『む、あれか。普段ユキトが使わないやつ』

「邪竜相手にはほとんど効果がなかった上に、下手に使うと味方を巻き込む可能性もあったからな」


 ユキトは会話しつつ剣を振りかぶり、大気を切った。すると剣先から黒い霧のようなものが生じ、それが倒れ伏す魔物や、地面に流れる血液へと付着した。

 刹那、ズアッ――と、まるで本来の魔物のように、その体や血が黒い粒子へと変化して塵と消えた。発動したのは黒い魔力に触れた物を魔力から分解し、滅するという効果を及ぼす技。一瞬だけ黒い霧がユキトの周囲に広がり、それが消えると魔物の死体が跡形もなく消えていた。


 ――対象の物質を、殺めるのではなく滅ぼすという意図がある能力だった。負傷して血などが流れた際にそれを辿られないよう処置をするとか、あるいは霧そのものの攻撃力で広範囲に魔物を滅するとか、様々な用途があるのだが、味方まで巻き込む無差別性と、何より邪竜に対して効きにくいという理由で、日の目を見ることがほとんどなかった。


「まさかこれが役に立つとは……とりあえず魔物は隠滅できた。で、ディル。他に敵はいるのか?」

『うん、その……魔力が町中に点在してる……』


 その言葉に、ユキトもさすがに瞠目した。


「それって、もしや……」

『うん、魔物が、町中に拡散しているみたい……!!』


 それを聞いてユキトは、判断に迫られた。このまま戦い続けるのか、それとも――

 ふいに、スマホから着信音が聞こえた。ユキトは即座に相手を確認し、電話に出る。


「カイ! 状況は――」

『ディルに索敵をお願いしていたらわかるはずだ。魔物が町中に拡散している』


 極めて冷静に――それでいて、重い言葉がカイの口から漏れた。


「カイ、しかもこの魔物は受肉している」

『予想通りということか……まだ大々的に動いてはいないけど、何もしなければそう経たないうちに情報が拡散されてしまうだろうね。』

「どうするんだ?」

『魔力の反応が非常に広大であるため、誤魔化し続けることは難しい』


 断定だった。ユキトの体に緊張が走る間に、カイは続ける。


『だから、事前に手を打っていた策を用いる』

「なんとかなりそうなのか?」

『正直、かなり強引な手だからあまりやりたくはなかったけどね』


 カイがそう述べた直後、ユキトは魔力を感じ取った。しかしそれは魔物が出現したからではない。


「これは……魔法?」

『僕とツカサ、メイの三人で編み出した魔法だ。魔物の魔力反応がある範囲内に用いて……人の動きを誘導する』

「誘導……!?」

『言い方は悪いけど、一種の催眠魔法に近い。魔法の範囲内に入った者、あるいは入っている人が対象だ。範囲内に家がある場合は、動く存在がいたら避けるように自宅へ戻る。できなければ一度範囲を離脱する。もし範囲外に家がある場合は、魔物がいる領域を脱するようにする』


 ――簡単に語ってはいるが、相当高度な魔法で間違いなかった。催眠魔法を範囲内に広げるという行為そのものはそれほど難しくはない。

 だが、そこに人へ命令を加えるのはかなり難易度が高いはずだった。なおかつ魔物がいるならば、という条件付けまである。例えばの話、物理的なプログラムなどであればそう難しくはないかもしれないが、それを大した道具もないこの世界で実行に移すのは――


『ツカサ達の記憶……邪竜との戦いの記憶あればこそ、だね』


 ユキトの疑問に対し、カイが告げる。


『霊具などはなかったけれど、三人が力を合わせればこれだけ規模の大きい魔法だって使用することができたというわけさ』

「ということは、少なくとも住民に被害は……」

『魔物を倒せれば、どうにか……といったところだね』

「わかった。なら後は俺に任せてくれ」

『頼む……スイハにも連絡はするけど……』

「いや、彼女は有事に備えて待機させておいてくれ」

『有事?』

「敵の計略だ。これだけで終わらないかもしれない」

『二段構えである危険性もあるって話か……わかった、ならユキトにこの場は任せるよ』

「ああ」


 電話を切り、ユキトは走り出した。それと共にディルが魔物の位置を知らせていく。


『結構な範囲に魔物はいるけど、動きそのものは鈍いね』

「人々が不用意に近づいていない……ためかな。なら被害が出ていない……受肉しても人々が魔法によって魔物の写真でも撮らないようなら、まだ大丈夫――」


 そう言いながらユキトは町中を疾駆し、道路にいる魔物の存在を発見した。


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