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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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仮定と力

 合計十体の魔物を倒した後、魔力の反応が完全に消えた。そこでユキトは息をつき、


「これで終わりか……?」

『派手にやっていた割には、あっけなかったね』


 ディルのコメントにユキトは小さく首肯しつつ、気を緩めることはしなかった。


(何が、目的だ……?)


 周囲を見回す。取りこぼしがないか、あるいは見落としている情報がないか――それを探ろうとする。

 とはいえ、魔物以外の気配はなく、漆黒の巨体に恐れを成したか獣の姿も見受けられない。しかし、それでもユキトは警戒する――というより、これで終わるわけがないという、確信があった。


「邪竜は狡猾だ。なおかつ俺達のことを記憶しているとしたら……十中八九、何か手を打ってくる」

『それは具体的にどういう?』


 ディルの問い掛けに対し、ユキトは一考する。


「そうだな……敵の目的は魔物という存在を認知させることになるかもしれない。それを前提とするなら、カメラなどに映せるような個体を出現させる……」

『でもそれって、魔物は魔力の塊である以上は無理だよね?』

「……だとするなら」


 ユキトは地面を見回す。何か――敵の思惑をたぐり寄せることができそうな情報を探す。


「何らかの形で、魔物に肉体を持たせる……」

『それ、受肉ってこと?』

「ありてい言えば。でも、そんな手法を敵は持っているのか?」

『……うーん』


 ディルは考え込む。とはいえ、ここで悩んでいても仕方がない。


「とりあえず魔法陣がこれ以上出現することはなさそうだ。なら、一度戻るか探索を続けるか……」

『カイに連絡してみる?』

「そうだな、町側で何か起きていないか確認しようか」


 ユキトは連絡をとる。山奥ではあったが、幸いながら電話は通じた。


『魔物は倒したか』

「ああ。町側に変化はないか?」

『皆無だね……不気味なくらいだけど、ユキトの迅速な対処が敵に次の手を打たせなかったと解釈することもできる』


 ユキトは沈黙した。それでカイも理解したようで、


『……何か考えがあるのかい?』

「カイ、魔物は映像に映らないよな?」

『うん、それは間違いないよ』

「それは魔物が魔力の塊だから……けれどもし、肉体を得たら話は別にならないか?」

『確かに物質的に形作るのであれば、映像などに映るのは間違いないだろう。ただ、相手がその手法を持っているかは疑問だな』

「手法?」

『魔物に肉体を付与するということは、僕らが召喚された異世界では一応可能だった。けれど相当なリソースを使うし、何よりやる意味がないからロクに研究もされていなかった。そもそも魔物に肉体を、なんて物好きでもやらない分野だ』

「……まあ確かに、意味はないな」


 魔物に肉体を与えることのメリットがどこにもない。身体能力が上がるわけでもないし、何か特殊能力を得られるわけでもない。むしろ、肉体があることで邪魔になる可能性だってあるくらいだ。


『ただ、もし仮にユキトの推測が当たっているとして……受肉させる思惑があるとしても、相当大規模な魔法が必要だと思う』

「かなり大変ってことか?」

『うん。ただこの世界の人に魔物という存在を知らしめるためには、かなり有効なやり方ではあると思う。向こうの世界では無価値に等しいことだけど、それがこの世界では有効に働いている、といったところかな』

「……とりあえず、魔法陣を壊すか?」


 ユキトの提案にカイは、


『うん、そうだね。敵がどういう策を用いようとも、魔法陣さえ破壊しておけば次の手は打てなくなる……再利用されないよう、確実に破壊してくれ』

「わかった」


 返事をして、ユキトは改めて動き出す。そして今回魔物が出現した魔法陣を破壊して回った。方法としてはユキトの剣で地面をえぐり、魔力を相殺させる――それによって、完全に地表から魔力が消失する。


「とりあえず、魔物を倒したことで敵の動きを止められた、ってことでいいんだよな……」

『だと思うけど。で、これからどうするの?』

「……どうするって?」

『デートの続きをするのかって話』


 問い掛けにユキトは沈黙し、


「……さすがに、こんな状況じゃあ無理だな」

『そっかあ』

「なんだか残念そうだな」

『んー? いや、別にそうは思ってないよ』


 笑い始めるディル。何か考えていることがありそうだったが、ユキトは尋ねないまま剣を鞘にしまった。


「さて、仕事は終わったしカイ達と合流しよう」

『了解』


 ディルの返事を聞いて、ユキトは走り出す。跡に残るは、魔力の残滓すら消えた、誰もいない戦場だった。



 * * *



「これで、作戦成功ってことか」


 ユキトが去った後、観察を続けるヒロは呟く。


「で、肝心の魔法が発動するのはいつ頃なんだ?」

『わからない』


 声はヒロにとって予想外の返答を行った。


「は? わからない?」

『現時点で私も霊脈へ赴き直接確認できるわけではないからな。とはいえ、成果は確実に現れる。ただ、問題は時間だな』

「時間?」

『例えばの話、深夜帯であったなら魔物が出現しても目撃者がいないということになりかねない。まあ人間に敵意を持って攻撃しろ、とでも命じれば混乱を引き起こすことはできるだろうし、ある程度は成功するだろうが』

「一番都合が良いのは昼間か」

『そうだ……何日後に発動するのかについても不明であるため、とにかく後は私達が望む形になることを祈るばかりだな』

「なら俺の仕事はこれで終わりか?」

『ひとまずは、だな。そして今回、もっとも動いた以上、何かしら報酬を提示しよう』

「おっ、マジか」


 といっても――ヒロが要求するのは一つだった。


「なら、次の作戦についても主導的に動く役割が欲しいな」

『そんなものでいいのか?』

「今回のやり方を見て、俄然魔法というものに興味を持った……もし俺が自発的に魔法陣を描けるとかできれば、動き方の幅が広がるんじゃないか?」

『……ほう、ずいぶんと向上心があるな。仕事をする最中にさらなる力を、という思惑もあるだろうが……いいだろう、ならば一つ大きな力を与えよう』

「大きな……力?」

『ああ、誰かに預けようと考えていたが、現状を鑑みればヒロが適任だろう。とはいえ、魔力が肥大化すれば、敵に露見されやすくなる。次の仕事までに気配を消せる手段を、隠しておくべきだな――』


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