解明できていない目的
まず、燃えさかる炎に対し魔法を行使して鎮火させる。左手から放った水流の魔法が炎を全て消し、事なきを得る。
「それじゃあ、次だな……」
ユキトは雄叫びが聞こえた方角へ突き進む――そして遭遇した二体目の魔物は先ほどの個体と同じような姿形をした巨人であり、ユキトは問題なく瞬殺した。巨体が地面に倒れ、消滅していくのを確認しながら魔法陣を見やる。
「魔力は感じ取れる……けど、機能を失っているな」
『使い捨ての魔法陣みたいだね』
ユキトが目を凝らすと魔力の痕跡を確認できる。しかし、やがて消え去り跡形もなくなった。
「ディル、地面にこうした魔法陣があるかどうか……調べられるか?」
『んー。そもそも地面からは魔力がずっと感じ取れているしねえ』
「何か些細なものでいい。たぶん、似たような細工がいくつもあるはずだ。魔法陣が発揮される瞬間を確認したい。炎が魔法陣から生み出されるのか、それとも他に魔物がいるのかわからないと……」
『もし他に魔物がいたら厄介だって話だね。わかった、やってみる』
ディルに指示を出したユキトは、さらに魔物の咆哮を耳にする――まだ仕込みがある。そう確信しながら足をそちらへ向ける。
(……単純に、こうした魔物を生み出すだけではないか)
ユキトは動きながら、敵の意図を読もうとする。
(魔物という存在を周知させるには……テレビカメラなどに映らないことを考慮すると、もっと大々的に……いやそうだとしても、俺達の魔法によって記憶を消せばいいはずで)
次の魔物を発見する。それを即座に剣で瞬殺し、ユキトはさらに別の場所に魔物の姿を認めた。
(俺を誘い出している? でも、そうだとしてもまだスイハやカイがいる……そもそも敵は、こちらのことをどれだけ知っている? 前回魔物との騒動によってスイハの存在は露見したはず。でも、まだカイがいるし、何より組織が……)
そこまで考える間に魔物を一体撃破する。敵については問題ない。どれだけ生み出されようとも、どれだけ巨大であろうとも即座に倒せる。
「……ディル」
『何? まだ魔法陣は――』
「わかってる。別に調べて欲しいことがある。おおよそでいいから、魔法陣が生み出されている場所……その地点を記憶して、何か法則性がないか調べてくれ」
『魔法陣同士を結合して、大きな何かをしようってこと?』
「そういうわけじゃない。敵は相当綿密な計画を立てる。今回出現した魔物についても、生み出した場所については意味があるかもしれない」
『わかった』
とにかく、敵の意図を察しなければならない――ユキトは改めてそう思いながら、別の魔物を倒す。
「数が多いな……」
多少なりとも前回から期間が空いていたこともある。ただ、これだけ大規模に動き回っていたのならば、ユキトが察知してもおかしくない。
(何か隠蔽する魔法を使っているのか?)
さらなる疑問が膨れ上がる中、ユキトは動き続ける。とはいえ魔法陣構築にも限界がある――決着はそれほど立たないうちに来るだろうとユキトは考えながら、次の魔物へと向かった。
* * *
「……圧倒的だな」
山の頂点にほど近い場所、そこにヒロはいて、呟いた。現在作成した魔法陣と魔物の観察をしているのだが、敵の能力を目の当たりにして発言した。
「あれじゃあ時間稼ぎにもならないぞ」
『構わない。そもそも勝てると想定した魔物ではないからな』
声が聞こえた。相変わらず姿を見せない相手ではあるが、ヒロはこれまでと態度を変えず話をする。
「で、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 今回結構な仕込みをしたわけだが、俺はただ指示を受けただけで何も知らないぞ」
『ああ、いいだろう……といっても、それほど単純な話ではない。言ってみれば、魔物を公にするための準備だ』
「何?」
ヒロが聞き返すと、声は説明を始めた。
『以前言った通り、魔物については映像媒体には映らない。加えて相手には記憶を消す魔法がある。つまり、証拠がなければいくらでも誤魔化せる状況だ』
「それは以前聞いたな。でも、それを解消できるってことか?」
『いかにも……奴らとは、特に今戦っている人間とはそれこそ、命を賭して戦った。その結果、奴らは私という存在の恐ろしさを認識している』
重い言葉で語る。ヒロはそれがどういったものなのか想像しかできないが――絶対的な力の持ち主と戦った。その事実だけで、今戦っている人間のことを畏怖する。
『だが、奴らも解明できていない私の目的がある』
「目的?」
『というより、私が以前成しえようとしていたこと……そのことについては、奴らは触れなかった。そもそも調べる必要性がなかったとも言える。私の目的を知ったとしても、やることは変わらない……奴らがそこについて調査していたのなら話は別だが、まあ仮にそれをやったとしても解明することは難しかっただろう』
「それは……目的というのが密かに行われていたから、か?」
『ああ、そうだ。より正確に言えば、仕込みをしている段階で決戦が始まった。つまり、日の目を見ることがなかった』
「でも、この世界でそれを果たそうとしている?」
『今は別にやる必要性もないな。ただ、この世界に根付き、人を支配するのであれば、必要だろうが……ともあれ、その仕込みが今回役に立つ』
「へえ、そうかい……今やっていることは、それを実行するための準備だと?」
『いかにも。山肌に存在する魔法陣……魔物を生み出すという機能はあくまでオマケだ。相手に目論見を悟られないためのブラフ。実際は、魔法陣を破壊されることで発動する』
「破壊されることで……?」
『奴の魔力は極めて特殊……いや、奴とその仲間が、だな。奴らと私は相反する特性を持つ。そしてこの二つが混じり合うと、反発して衝撃を生む。それによって地表に存在していた魔法陣の魔力……その一部が大地の奥深くに浸透する』
「その先には……霊脈って呼ばれる場所か」
『そうだ。その霊脈に私の魔力が触れることで、魔法を発動させる』
「それはどういう魔法だ?」
声は、一瞬沈黙する。そして、
『――魔物を受肉させる魔法だ』




