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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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状況考察

 魔物の出現から数日後、ユキトの下にカイから情報が舞い込んでくる。それによると、敵は魔物の特性を考慮し、ああした実験をしていたということだった。

 放課後、渡された資料を自室で眺めながらユキトは検証を始める。ベッドには人間型のディルが座り、話を聞く形だった。


「なるほど……敵がああして実験している理由がわかった」

「どういうこと?」

「まず一つ、これは重要な事実だが……魔物はスマホのカメラとかに映らないらしい」


 資料には撮影されたと思しき画像が粗いながら掲載されていたが、そのどれもが何もない、景色だけを映していた。


「魔物は魔力の塊であり、肉眼では捉えられるけど機械的な物には見えないんだ。だから例えばテレビカメラとかで映しても、何もないってことだな」

「それって、どういう理屈? 魔物は現実には存在しているでしょ?」

「これは推測だけど、俺達は五感を活用して周囲の状況を捉えている。目や耳、鼻……そういった部位で感じる際、俺達は魔力を発している」

「なるほど、無意識に魔力を利用しているから、肉眼では見えるってことか」

「利用、というより五感を使う際に魔力が漏れるってことだろうな。ともあれ、単純なやり方では魔物の存在を記録することができない。魔力を知覚する機械さえ開発できればその限りじゃないけど」

「霊具くらいの物を作らないと無理そうだよね」

「ああ、確かにな……敵はこれがわかっているんだろう」

「とすると、魔物を拡散させて世間に広めるというのは無理って考えている?」

「だと思う。記録に残らなければ、俺達は人々の記憶を改ざんすることが可能だ。よって、魔物の存在……ひいては魔力という概念を世間一般に広めるためには、何か別の手段が必要だと判断した」

「その手段って?」

「可能性は二つ。一つは魔物そのものを受肉させて、カメラを通してでも見れるようにする」


 受肉――と言うと仰々しく思えるが、ユキト達が召喚された異世界では、そういう肉体を持つ個体もいた。ただそれは、動物が魔力を受けて魔物化したという経路を辿っている。


「これは推測だけど、魔法陣によって魔物を生成するってことは、仕込んだ魔法がこの世界でどれほどの効果を生むか、検証していたのかもしれない」

「なるほど、魔法の効果を見極めて……本命の作戦に備えていたってこと?」

「そうだ。意図的に動物を魔物化させるにしても手順がいる……ただ、カイからもらった資料によれば、その辺りの怪しい動きも観測できるような態勢を整えつつあるらしい」

「もし次、動いたら……」

「今度は先手を打って動く」


 ただ、ユキトはそれが望み薄であると内心で察していた。魔法陣に邪竜の魔力が存在していた以上、敵は間違いなく邪竜である。だとすれば、ユキトやカイがどう動くか、予想できないはずがない。


「……まあ、相手の出方を捕捉できる手段を構築しつつあるのはポジティブな情報だ。後、重要なのは……魔物の生成についてだな」

「魔物の生成?」

「魔法陣は、土地の魔力と結びついて構築されていた。逆を言えば、魔力のない土地では魔法陣の効果は現れない……で、カイが調べたところによると、魔法陣の構造的に多大な魔力を吸わなければ発動できないらしい」

「それが、どうしたの?」

「俺達がいる町の周辺は、現在魔力が多くなっている……土地に染みついている魔力も同じだ。俺達が召喚されたことがおそらく要因だろうけど、その結果魔力を多く吸うあの魔法陣でも魔物を生み出せた」

「それって……」

「ああ、他の場所では魔物を生成できない……たぶんだけど、邪竜は俺達が召喚された異世界で使っていたものと同じ術式で魔法陣を編み上げた。けれど、それで魔物を生成できるのは土地に相当な魔力を溜め込んでいる場所しか無理というわけだ」

「つまり、この世界に対応した術式じゃないと、どこでも使えないってことか」

「その通り。相手もこれはわかっているはずだから、次に動き出す時はちゃんと対策をしてくることだろう」


 だからこそ、次の戦いで絶対に敵を捕らえなければ――と、ふいにディルが、


「そんな怖い顔をしないの」

「……してるか?」

「うん。現状、ユキトが最後の砦なのはわかるし、ユキトが動かないといけないってのもわかるけどさ……仲間がいるし、いざという時はどうとでもなるよ」

「だと、いいんだけどな……」


 不安を残しつつ、ユキトは応じる。


「ま、どれだけ懸念しても俺のできることは変わらないからな……」

「大丈夫だって。いけるいける」

「ディルがそういう根拠もよくわかんないんだけど……」


 息をついてユキトは資料を机の上に置く。


「ともあれ、敵も色々と制約が存在するというのは朗報だな。まだ、取り返しがつく……ただ次に攻撃が始まったら、どうなるかわからない」

「未然に防げればいいんだけどねえ」

「そこだよな。俺なりに対策をしてみるか……?」

「具体的にはどうするの? さすがにユキトが索敵魔法を使い続けるとかはナシだよ」

「わかってるよ……といっても、力によるごり押しが無理だとしたら、俺に取れる選択肢はそう多くないけど……」


 ユキトはふと、窓の外を見た。外は暗くなり、住宅を街灯が照らし始めている。なおかつ輪郭程度だが、奥には山が見えた。


「……自分なりに、調べてみるか」

「お、何かするの?」

「カイに一度連絡をとって、山へ向かおうか。もしかしたら何かやっている痕跡が見つかるかもしれないし」

「そこまでする必要性、ある?」

「正直、何かやっていないと落ち着かないのもある」


 そこでユキトは電話を掛ける。カイに調査をしようと伝えると、


『現段階では収穫はないと思うけどね……でもユキトがやりたいと言うのであれば、止めるつもりはないよ』

「なら、早速調べてみるよ」

『わかった』


 ちゃんと許可はとったので、ユキトは支度を済ませて外に出る。魔法を用いて姿を消し、なおかつ高速で移動しながらディルとさらに会話を成す。


「ディル、そっちはいつ何時、戦いが来ても大丈夫か?」

『誰に聞いているの? ま、私に任せなさいって』


 そんな返答にユキトは苦笑。漆黒に変わりつつある世界の中、一人走り続けた。


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