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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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メリット

 ユキト達が議論を交わしている同時刻、ヒロは町中を歩きホテルに到着した。そこは以前力を与えられた存在と会話をしたのと同じホテル。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか」


 交戦したことによる体調についてはすっかり回復している。今はむしろ手にした力に体が馴染み、充足感すら抱いているような状態だった。

 部屋へ入り、相手を待つ。周囲に人はいない。今回はヒロだけ呼ばれ、たった一人で広い空間にいることで、緊張してくる――


『体の方は問題なさそうだな』


 声がした。ヒロは即座に一礼し、


「問題はないが……あれから音沙汰なしで、不安だったんだが」

『こちらも多少ながら準備が必要だった。結果的に時間が予想以上に伸びたという話だ』

「で、俺は何をすればいいんだ?」


 ヒロが問い掛けると相手は沈黙する。


「どうした?」

『……単純に色々と情報を整理していただけだ。さて、これから行動に移ってもらうわけだが、ここで重要なのは我らの存在が露見しても問題ないかどうかだ』

「問題あるだろ、そこは」

『本当にそうか?』


 問い掛けにヒロは黙する。


『この世界には、存在しないと思われていた力……魔力という概念が、確かにこの星には存在する。それを認識させることで、我らにとってもメリットが生まれる』

「それは……?」

『お前達と同様、力を信奉し付き従う者が現れるということだ』


 ヒロはその言葉に沈黙する。相手が発した内容を、頭の中で吟味する。


『不服か?』

「……例えば今いる面子以外の誰かが力を手にして、組織で俺を指示する立場になるとか……まあ面白くはないが、別に否定するつもりはない。それにわかりやすいしな」

『わかりやすいとは何だ?』

「力ある者が上に立てる。そのシンプルさだ」


 ヒロの言葉に相手は『なるほど』と応じ、


『魔力を持つ者が、優位に立てる……弱肉強食ではあるが、権力を振りかざすのと比べて煩わしさは少ないかもしれんな』

「そういうことだ……ただ、今のメンバーが納得するかどうかはわからないぜ?」

『その当たりは心配するな。急進的に勢力を拡大するようなマネはしない。そもそも、そんなことをすれば相手にも気づかれるからな』

「なら、魔力を認識させるっていうのはどういうことだ?」

『魔物という存在を、世間に広める』


 ヒロは再び沈黙。それをすることによって何が生じるのか――メリットがあるのか。


『少なくとも、この世界では異形という見方をするだろう。そして、明らかに科学では解明できない領域の存在であることも……それを認識させることで恐怖を抱かせる』

「……もし他のメンバーが聞いていれば、上手いこと株とかで大もうけできそうだな」

『そうした要因も含まれる』

「ああ、なるほど……魔力という概念を使って恐怖を煽ることで、市場を同様させるってわけか」

『これはあくまで一例にすぎない。しかし資金確保という面では面白い話ではあるな』

「あんたの頭の中で、色々とメリットが浮かび上がっているってわけだな?」

『そうだ』

「なら学のない俺はそれに従うだけだな。正直、反論する余地もない」

『他の者達にも同様の話はしておこう……最初に動くのはヒロ、お前だ』

「構わないが、戦闘になるのか? 体調が戻ったとはいえ――」

『今回は裏方だ。魔物を生成した実績を踏まえ、ヒロに任せる』

「……了解」


 ヒロは小さく頷き、


「それじゃあ、何をすれば?」

『少々手順を踏むため、資料を用意した』


 そこでパサリ、と紙の音がした。見れば、横のテーブルにA4サイズの紙束が。

 それは最初からあったのか、あるいは今し方置かれたのか――どちらにせよ、ヒロは魔法か何かの類いが掛かっていたのだと予想する。


『その方法に従い、動いてもらおう』


 ヒロは資料を手に取り、内容を読み始める。


「ずいぶんと複雑だな……しかも、下手すると俺が危ないじゃないか」

『そこはお前の頑張り次第だな』

「……確認だけど、報酬はあるんだよな?」

『無論だ。力か? それとも金銭か?』

「どっちでもいいのか?」

『望むようにしてやろう。相応の報酬があるからこそ、付き従う。我らはそういう関係性だろう?』


(心酔している、とは思わないのか?)


 そう問い掛けようと思ったが、ヒロはやめた。というのもこの質問に意味はないと気づいたためだ。

 こちらが忠誠を誓おうが、相手は態度を一切変えることはない――それは悪く言えばドライではあるが、よく言えば分け隔てなく扱うという意味でもある。


 目の前の存在は、ヒロがどのように思っていても同じように扱う――それはヒロにとって、どこか心地よい感覚だった。


「……ああ、そうだな」


 ヒロは言うと資料に目を通した。


「内容は理解したが……この資料はどうする?」

『作戦が終了次第破棄すればいい。持ち前の力を使えば隠滅は可能だろう?』

「できる……が、持ち帰っていいのか?」

『騒動が起こる前は、ゲームかアニメの設定集にしか見えん』


 なるほど、確かにそうだ――ヒロは納得し、資料を持参した鞄に入れた。


『今日の話は終わりだ。次回からは連絡場所を変更するぞ』

「わかった……ちなみにだが、一ついいか? この作戦、失敗した場合はどうなる?」

『作戦が成功するまで継続する……が、一度目で成功したいところだな。でなければ、敵がこちらの動きを捕捉する可能性が極めて高い』

「でも、繰り返しやると」

『ああ、だがお前はしくじらんさ』


 断言だった。それは信頼、というよりヒロの体の中に宿る力が、間違いなく成功させるという根拠のように思えた。


「……わかった」


 ヒロはそこで引き下がり、部屋を後にする。そして資料を一度取り出して読み進め、


「とりあえず、当面退屈はせずに済みそうだ」


 口の端に笑みさえ浮かべ――ヒロは、建物を後にした。


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