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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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一人の鍛錬

 ――結局、ユキトは目当ての存在を探すことはできず、翌日を迎えた。まあゆっくりやるかと思いつつ、今日はどうしようか悩んだ後、


『別に毎日活動しなくても良いんじゃないの?』

「まあ、確かにそうなんだけど」


 スイハから鍛錬の話はあるだろうが、それ以外は基本的に少しずつ進んでいくしかない――ユキトはそこで、


「なら、他のみんなが訓練を始めるより先に俺からやるか」

『ユキトが?』

「俺やスイハを始めとした面々は、異世界へ召喚された状態で帰ってきた。だから、霊具による魔力制御もできる……でも戻ってきて時間も経過しているし、今後に備える意味でも何かやった方がいいかな」

『戻ってきてまだそんなに経ってない上に、魔物と一戦やったのにねえ……』

「今回の敵が単なる魔物を生み出す存在、だけだったら必要性はないだろ。でも、もし邪竜に関わるものだったら……」


 ディルは沈黙する。確かに、という納得した様子。


「なら、今日はその方針でいくか」


 ユキトは結論をまとめ、学校へ。その昼休み、スイハから「今週の土曜日に」という段取りとなって、ユキトは放課後一人で郊外へ足を向けた。


『あれ、同じ場所?』

「確認の意味合いも込めて、だな」


 ユキトはカイと共に来た森を再度訪れた。周囲に人気はなく、冬場ということで動物の類いも見当たらない。もっとも、仮に遭遇したとしてもユキトならば何の問題もないが。

 ひとまず結界を行使して、誰にも見咎められないような処置を施す。一応周囲の気配を探ってみたが、怪しいものは何もない。完全にユキト一人だった。


「さて、それじゃあ修行開始だな」

『やり方は?』


 ディルに問われ、ユキトは思案する。邪竜との戦いで行っていた訓練は基本、仲間達とのスパーリングだった。ひたすら霊具をぶつけ合い、その特性を理解しながら自身を強化していく。とはいえ邪竜は巨大な存在であることはわかっていたし、時には人間と比べものにならないような敵と戦うこともあった。よって、対人戦以外も想定し、フィスデイル王国が魔法などを用いて敵を作成することもあった。


 それは例えば全身鎧の騎士を象ったものから、巨人のようなものまで――ユキトは様々な記憶を引っ張り出した後、


「何よりまずは、魔力の制御だな」

『じゃあどうするの?』


 ユキトはディルに返答せず、地面に剣を突き立てた。その瞬間、足下に光が生まれる。


 直後、光が盛り上がり形を成す。見た目は、黒いローブを着た魔法使い。とはいえその中身は黒いマネキン人形みたいなもので、その姿の通り魔法を使うが決して強力ではない。

 これはディルの能力の一部を応用し、どこでも訓練できるように編み出した技法だった。とはいえ仲間が近くにいる時は使用しなかった上、一人になるような状況だと修行なんてやる暇などなかったため、結局日の目を見ることはなかった。


「うん、これでいいな」

『……呼び出してどうするの?』

「魔力制御で一番難しいのは何だと思う?」

『難しい?』

「ああ。魔力を制御……つまり魔力量を調整するわけだが、その技術において最も習得難度が高いもの」

『うーん……?』


 ディルがうなり始める。姿は見えていないが、もしいつものように人間の姿をしていたら、首を傾げていたに違いない。


「答えは、相殺だ」

『相殺って……』

「邪竜との戦いでは必要だった。敵の魔力を見極め、仲間に被害が及ばないよう、敵の攻撃に秘められた魔力を即座に理解し完璧に防ぐ……魔力で押しつぶせばいいだろ、という意見もあるだろうけど、例えば火球を生み出す魔法に対し全力で斬ったら、相殺するより先に爆発するとかあっただろ」

『あー……確か、そういうパターン、あったね』

「それに、あまりに派手な攻撃はこの世界にとっても悪影響が及ぶ……さらに言えば、戦闘が起こった際のシチュエーションなどもある……だから選択肢は増やしておいた方がいい」


 ユキトは語りながら剣を構える。同時、生み出した魔法使いが杖をかざし、火球を放った。

 そのまま受ければ爆発し、周囲に炎熱をもたらすもの。もし相手がこのような魔法を使ってきたら――ユキトが先ほど言ったとおり、爆発四散して仲間などに影響が出るかもしれない。


 ユキトは瞬時に火球の魔力を見極める。自らの手で作成したこの存在は、魔法を放つ際の魔力量を調整できる上にその量は完全なランダム。よって、ユキトは火球が出現し炸裂するまでの数秒間で、魔力を探り判断しなければならない。

 剣戟を振るう。数秒足らずの出来事であり、森の中を照らした赤い光は、ユキトの斬撃によって消滅した。


 だが、わずかながら魔力が残り、炎が大気を駆け抜けた。それはほんのわずかで、ユキトの衣服などを焦がすようなレベルではないにしろ、完全に相殺しきれなかったことによるものだった。


「……駄目だな」

『結構上手くいったと思うけど』

「いや、駄目だ。完全に殺し切れていない」


 次の魔法が放たれる。今度は光。先ほど以上の速度でユキトに到達する――いや、それは相手がどのような魔法を生み出すのか予測しなければならないほどのもの。

 雷撃が来るとユキトは直感し、剣を振るう。それは体に染みついた反射行動に近かった。邪竜との戦い、どのような攻撃を敵が仕掛けてくるかわからない。回避不能なほどの速度で仕掛けてきたら、相手の攻撃を見極めて――などと言うことすらできない。


 だからユキト達は、訓練により敵の行動に合わせて対応できるようにした。例えば雷撃ならば、それを発するより前に感知する――言葉にすれば簡単だが、それには相当な修練が必要だった。

 雷撃を放つ、あるいは高速移動をするなど、魔力による動作は限界まで感覚を高めればその寸前で理解できる。魔力を利用し魔法を放つ寸前、敵の魔法が理解できる――それに対し反応できるかは、鍛錬次第だった。


 そうした経験が残っているため、ユキトは今まさに雷撃を防ぎ、魔力を相殺する。パアン、と破裂音が一つ響き閃光が一瞬生じ、雷撃は跡形もなく消え去った。


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