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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第五章

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人為的

 放課後、家に帰ったユキトは気配探知を試みる。といってもやることは部屋の中で瞑想のように目をつむって意識を集中させることだけ。一年前、最初に異世界から帰還した時も魔力の存在を知ってこのようにしていた。


「……うーん」


 そしてユキトは一通り魔力探知を行った結果、うなった。


「特に異常はないな……」

『じゃああの魔物は偶然だった?』


 ディルの声がユキトの頭の中で響く。


「いや、さすがに偶然……と、呼ぶのはいくらなんでもなあ……」

『考えられるとしたら、ユキトがもう一度召喚されて帰還して……の、影響?』

「見立てはそれでいいとは思う。ただ」

『ただ?』

「妙な雰囲気もあるんだよな……もう一度、現場へ行ってみるのもありか」


 調査くらいなら、何も問題はないだろう――そういう意図でユキトは立ち上がる。


「駄目で元々だ。ちょっと調べてみる」

『別にいいけど……カイに報告はしないの?』

「そこまでする必要はないと思うぞ……ま、確認程度だし夕食までには帰るよ」


 ユキトはそう言った後、一階に下りてリビングにいる母親に本屋へ出かけてくると告げ外に出た。玄関先で魔法を使用し、誰にも見咎められないように処置を施す。


「それじゃあ――いくぞ」


 駆けた。ユキトは周囲の状況を魔力によって探りながら、道路の真ん中を駆け抜けていく。

 もし車がいたら端により、人が歩いてきたのならば音もなく跳躍してかわす――その全てが魔法により音もなく、また誰にも気づかれないような処置を施した上で、だ。


 風すらも発生しないため、ユキトが近くを駆け抜けても誰も気づかない。これが、魔法の力であり、また同時にこの世界と異世界との差だった。


(魔法が科学を上回っている……とは言えないし、比べるものではないが……この世界にないものであるのは確かだ)


 時折、ユキトは想像することがある。こうした魔法が今の世の中に現れてしまったらどうなるのか。


(軍事兵器も魔法によって置き換わる……あるいは、現代の兵器に魔法の技術が使われるようになる……正直、どうなってしまうのか恐ろしいな)


 ユキトとしては怖い想像しかできない。今まで以上に戦争が悲惨になるかもしれないし、あるいは魔法技術を利用することで、もっと効率的に戦争が繰り広げられるかもしれない。

 魔法が戦争にとって優位性を持つことになれば、各国はこぞって兵器開発に取り組むだろう。しかし、魔法を体得している人間は限りなく少ない。となれば、ユキト達は立場的にどうなるか。


(最悪、国の庇護下に……? でも、さすがにそこまではいかないか?)


 あるいは、魔法によるアドバンテージを生かして相応の対策を――などと考える間に、目的地が近づいてくる。

 それこそ野を縦横無尽に駆け回るような速度で、なおかつ絶対に生身の体では出せない速度で――ユキトは、先日訪れた森へ辿り着いた。


「……ん?」


 ユキトは周囲を見回す。魔力的な気配は皆無。ユキトが魔物を倒したことで、この周辺は何もなくなったらしい。


「とりあえず異常はないな」

『一度目に帰還してから魔力をどうにかしようとしていたけど、同じ場所に滞留するってほとんどなかったよね』


 ディルの指摘。それにユキトは首肯し、


「場所によって魔力が生じやすい……ってわけではなく、本当にランダムに場所が選ばれるってことだな。じっくり解析すれば魔力が集まる法則とかが浮かび上がってくるのかもしれないけど、そういうのって調査員とか、機材とかが必要になってくるよな」

『そもそもこの世界に魔力を測定する道具がないけど』

「そうだな……よって、調査するのは困難だ」


 ただ魔法が認知されれば、技術開発を始めるだろう――などとユキトは胸中で呟きながら森の中へ。

 自分の足音だけが響きながら、それほど経たずして目的地へと到着する。魔物は消え失せ、問題はない――のだが、ユキトは周囲を見回した後、


「……ん?」

『どうしたの?』

「ディル、頼みがある。この周辺を魔力調査。精度を最大に引き上げてくれ」

『別にいいけど……』


 言われ、ユキトはディルを右手に現すと、剣が魔力を放った。周辺に濃密な魔力が発生。もっともそれはユキトにしか感じられないものであり、彼女が調査を止めれば即座に霧散するものだ。

 そして、ディルは十秒ほど調査を実行した後、


『……あー、なるほどね……』

「違和感を覚えたんだが、それが何かわかったか?」

『あ、うん。でもこれってどういうこと……?』


 ディルは魔力を閉じ、ユキトは剣を消した。


「何がわかった?」

『足下に魔力がある。まあ地面から魔力が漏れているなんて珍しくもないんだけど……その形状が、おかしいね』

「それは何だ?」

『例えるなら……人間の足跡、かな』


 ユキトは地面を見据える。そして魔力を意識的に高め、


「……ああ、確かに。まるで誰かが歩いているかのように魔力が点在しているな」

『これって……』

「召喚された異世界で見たことがある。簡単に言うと、魔力制御をしていないため、足下から魔力が漏れ、それが残っているんだよ」


 以前騎士から聞いたことがあった。魔法を使わない人間は、少しずつ魔力が体から抜け、それを補うため体が魔力を作る。魔法を学び始めた人間は、まず魔力を放出する術を学ぶため、そうして抜ける魔力が多くなったりまた普通ならない場所から魔力を放出する。


「魔物に気取られてしまうため、この段階の訓練生は早急に魔力を閉じる方法を学ぶけど、この足跡を残した人間は、そんな訓練を受けていない……いや、受けられないから、このままにしているわけだ」

『つまり、私達が訪れた後にここに誰かが?』

「気づかなかっただけで、魔物を討伐した際もあったかもしれない……ただ地面に残った魔力は、数日で消える。だからここに足跡を残した人間は、魔物と関わりがある可能性が高い」


 人為的――とはいえそういうことならば、話はだいぶ変わってくる。


「足跡に違いはないかを調べるか。一人か、複数人か……」

『もし二人とかなら、面倒なことかな?』

「そうだな。少なくとも魔力を発することができる人間が二人……魔物作成の首謀者となったら、この問題は想像以上にまずいことになりそうだ」


 言い知れぬ不安を覚えながら、ユキトは調査を継続することにした。


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