仲間の決意
ユキト達は森から町へと戻り、近くにあったファミレスへと入った。
「カイって普通のファミレスに入るんだな」
「僕をなんだと思っているんだ」
苦笑しながら言うカイ。そこでユキトは、
「庶民の店は入らないものだと思ってた」
「僕だって入るよ、さすがに」
そう言いながらカイはテーブルの隅に置いてあるタブレット端末に手を伸ばす。
「何を食べる? 僕はここに入るといつもハンバーグステーキのスープセットを頼むんだけど」
「しかも内容が具体的……まあ、同じものでいいかな」
入力を済ませた後、カイは改めて切り出す。
「さて、魔物が現れたことについてだけど……現時点でニュースになっていることはない。だから、現在は誰かに見咎められているというわけではないだろう」
「確かに……先ほど遭遇した魔物の様子からして、人間を見たら襲いかかるだろうし、騒動になるよな」
「もしそういう騒動が起きていれば、ユキトの耳にも入ってくるはずだ。仕事だってしているわけだから」
「ああ、違いない」
「だとすれば答えは一つ……ユキト達がこの世界へ戻ってきたこと。それが関係している」
「俺達が……?」
「決してユキト達のせいではないよ。召喚されたことについては、誰が悪いと言うことはできないけれど……召喚によって、異世界との門が開いた。しかも一度ならず二度までも。となったら、何かしら影響が出てもおかしくはない」
「……召喚された場所周辺で魔力に揺らぎが発生しているから、魔物が出現した?」
「そういう解釈で良いとは思うけれど、最悪なパターンも想定する必要性があるな」
「最悪?」
ユキトが聞き返すとカイは頷き返し、
「異世界……つまり、僕達が訪れていた世界の何かが、こちらへ来てしまっている」
「それは――」
「あり得ない話ではない。無論、強引な解釈ではあるよ。一度戻ってきて一年、騒動がなかったことを考えると可能性は低い」
「そうだな……もしそうだとしたら?」
「今後、魔物が出てくるかもしれない……そうなったら、この世界において対抗できる人は少ない。というより、異世界へ来訪した僕らや、ユキト達と現在におけるユキトのクラスメイトだけだ」
「そうだな……個人的に、今のクラスメイト達に危険なことはさせたくないけど」
「僕も、クラスのみんなを再び戦いの道に……とは、考えないさ」
「……カイは、首を突っ込みそうだな」
「もちろん。ここまで関わった以上は」
と、カイはユキトの言葉に対し頷いた。
「色々と考察すべき事は多い……あれは揺らぎによるものか、それとも故意なのか……可能であれば、ユキトに仕事を依頼するという親族の人にも話を聞いてみたいな」
「おいおい……俺達だけで調査をするというわけじゃないのか?」
「場合によっては、国を巻き込む騒動になる可能性もゼロじゃない」
ユキトは絶句した。カイの頭の中では、どれほどのことを想定しているのか咄嗟に判断がつかなかった。
「これはあくまで、僕が考える最悪のシナリオというレベルだから、そこまで考慮に入れる必要はないけれど……この世界は魔力という概念は根付いていない。つまり、誰からも干渉されるようなことはないわけだろ? でも何か異常が起きている……対策だって立てようがない以上、どういうことが起きてもおかしくない」
「確かにそうだけど……」
「僕としても、気になるんだ。こうして関わった以上、僕はユキトに協力したいと思うのだが」
「……やりたいと言うのであれば、否定はできないな」
と、ユキトはやれやれといった様子で語る。
「カイが現時点で持っている技量なら、魔物が現れても瞬殺できるだろうし、少なくとも危険なことになる可能性は低い……でも、いいのか?」
「ああ」
決意は固いようだった。それを見てユキトは何を言っても無意味だと悟り、
「わかったよ……それじゃあ、具体的にどうする?」
「そうだね、僕は調査できるような……ユキトが単独でやるのではなく、組織だって行動できるような準備に取りかかろう」
「いきなりか? そういったステップはまだ早いと思うし、そもそもどうやって――」
「僕に任せてくれ」
自信満々に語るカイ。それでユキトは押し黙る。
――カイはそもそも大企業の御曹司であり、なおかつ祖父なんかは政治家として活動していた。完璧な系譜に完璧な人間性と文武両道の完璧さ。全てがパーフェクトな人物。しかし学生である以上は、別に権力などを持っているわけではない。組織だって行動できるような――というのは、どういうことを意味しているのか。
「……どんな風にやるのか、俺はあえて聞かないけど」
ユキトは口を開く。
「魔法、魔力は非常にデリケートな内容だ。ともすれば現状よりも悪化する危険性がある。それを踏まえて、行動することは約束してくれ」
「ああ、無茶はしないよ。大丈夫、必ず上手くいく」
「相当な自信だな……なら、俺からはこれ以上何も言わないことにする」
カイは笑顔で応じた。そこでユキトは腕を組み、
「それじゃあ俺はどうすれば?」
「現状、魔力探知を行って他に何かないか探してみることかな。さっきの魔物の出現が何者かによる作為的なものなら……魔力を確認することができるはずだ」
「もしそうなら、カイの手を煩わせるような必要性もなくなるな……わかった。仕事そのものは完了したと伝えておくけど、少し懸念が出て調べる、という旨を親族には伝えておく」
「ああ、頼んだよ」
――そういえば、異世界でもこんな風に作戦会議を開いていたな。
ユキトはふいにそんな言葉を胸の内で呟く。異世界では当たり前だった日常――まるで、その時に戻ったみたいだった。
(いや……みたい、じゃないな。本当に戻ったんだ)
カイは記憶が戻り、異世界で接したように話を向けてくる。他ならぬ彼がそう望んだから――ユキトはいまだにその事実に対し少し困惑している自分に気づいたが、すぐに思い直した。
(これで、良かったんだよな……)
そう心の中で呟いた。口にしなかったのは、カイに「当然だろ」と言われることがわかっていたためだった。




