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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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無意味

 魔力の塊であり、肉体が存在しない魔神ではあったが、その存在感は脅威であり、迫る相手の力は雪斗でも気圧されるほどだった。


(これが……魔神か……!)


 心の内で声を発しながら、雪斗は魔神へ対抗する。『神降ろし』を維持したままの、全力――いかに邪竜であろうと無傷では済まない剣戟だが、魔神はそれを真正面から受けた。

 刃が魔神の体を走った。手応えはあり、雪斗はまるで鋼鉄でも斬っているような感触を覚える。そして相手は、


『私が力を与えた邪竜であるなら、滅していたかもしれんな』


 魔神は衝撃により後退していた。しかし、ダメージはどうやら――ない。


『残念だが、私には通用せん』

「……なるほど、間違いなく魔神だな」


 雪斗は呟くと同時にさらに魔力を高める。


「翠芭、いけるな?」

「うん」


 端的な返事と共に、雪斗と翠芭は同時に走った。それに対し魔神は魔力を操作して完全に人型を形成すると、両腕をかざした。

 雪斗達の剣が左右から迫る。そして魔神はそれを手のひらで受け――


『まずは身の程を教えてやろう』


 魔力が拡散し、魔神の体に衝撃波が駆け抜ける。迷宮を鳴動させるほどの力。しかし、魔神は雪斗達の刃を受け止め、切っ先を握りつかんでいた。


『肉体はとうに消え果てている……が、魔力だけの私で、十分だと』


 魔神の腕が振られた。雪斗と翠芭は同時に吹き飛び、どうにか体勢を維持しながら地面に足を着ける。


(凄まじい力を持っていることは間違いない)


 雪斗はそう断定しながら、呼吸を整える。


「リュシール、一つ聞きたいんだが、もし肉体を持っていたら今より遙かに強いのか?」

『そうね』

『どう考えてもやばいよね、あれは……』


 リュシールの返事と同時にディルの声が聞こえた。


『雪斗、あれに勝てるの?』

「勝てる勝てないじゃなくて、勝つしかないだろ」

『それはそうだけど……』

「圧倒的な力の差を見せつけられた……というわけだが、疑問がある。なぜ今までああいった形で姿を現さなかったのか、だ」


 魔力だけの体でこれほどまでに動けるのであれば、待つ必要などなかったはずだ。さっさと地上に降臨すればいい。だがそれをしなかったのは――


「……肉体がなければ迷宮から出られない。あるいは、その体の維持に制限時間がある、といったところか?」

『ほう、察しがいいな。よいだろう、教えてやる。この器では、まだ天神に邪魔立てされていることに加え、肉体という存在がないために魔力を消費する。つまり、貴様の候補両方が正解というわけだな』

「あっさりと答えてくれるんだな」

『これは慈悲だ。何も知らず死ぬゆくよりも有意義だろう? それに、教えた理由は明瞭だ』


 魔神の魔力が膨らむ。それは暴風のように迷宮内を駆け巡り、雪斗達の体を震撼させる。


『この状態でも、貴様らを消すことなど容易いからだ!』

「……なら、それが間違いだってことを教えてやるよ!」


 雪斗が声を発した直後、貴臣から魔法が解き放たれた。青い閃光であり、それが隙を晒した魔神へと直撃した。

 威力は十分だったはずだが、それでも魔神は平然としている。拳を振りかざして閃光をかき消し、なおも余裕の言葉を発する。


『もう少し仲間がいれば、それを犠牲にして立ち回れたかもしれないものを――』


 翠芭が魔神の背後に回った。さらに雪斗が正面から突撃して挟み込む形に。

 しかし、魔神は動じなかった。翠芭のことはまるで見えていないかのように無視を続け、彼女の剣が魔神の背へ叩き込まれた。それによりわずかながら身じろぎする魔神。反応は、それだけだった。


『貴様らに勝ち目は存在しない』


 次いで雪斗の剣を防ぐ。ギリギリと剣と腕がせめぎ合ったが、やがて魔神が腕を振り払って雪斗を吹き飛ばした。


『あきらめが悪いのは称賛に値する。しかし、理解できているはずだ……何もかも無意味だと』

「それを決めるのはお前じゃない。俺達だ」

『ふん、絶望的な状況が理解できないということか……まあいい。どちらにせよこうして存在を晒した以上、口を閉ざしてもらわねばなるまい。迷宮の支配者……貴様もだな』


 一瞬だけ視線を支配者へ向ける。当の相手は無言に徹し、何も言わない。


『こいつらを処理すれば次は貴様だ。まあ支配者とはいえ、邪竜ほどの力もない。さしずめ人間ならばデザートと表現すべきか?』

「……甘く見ない方がいいぞ」


 迷宮の支配者はそう答えた。すると、


『ほう? 私に勝てるということか?』

「違う……侮っている人間に足下をすくわれかねない、と言っている」


 雪斗が仕掛ける。全力の剣戟を魔神は再び腕で防ぐ。

 先ほどの同じように魔神が腕を振り払えば――ただ、ここから展開が違っていた。わずかながら、雪斗の剣が魔神の腕に食い込んだ。それに相手は反応し、


『ほう?』


 驚愕と共に腕を振り払う。雪斗はそこで後退し、剣を構え直した。


「少しは見直してくれたか?」

『興味深いな……どうやった?』

「何も変なことはしていないさ」


 雪斗は口の端に笑みを浮かべる。


「さすがに切り札についてペラペラ喋るつもりはない……が、はっきり言っておくぞ。なぜ傷つけられたかを解明できなければ、お前は死ぬ」

『私を脅すか?』

「脅しじゃなくて、単なる事実だが……翠芭、いけるな?」

「うん」


 翠芭もまた、突撃しようという姿勢を見せる。ここで魔神の気配が変わる。侮っていた、あるいは嘲っていた様子から一変、獲物を追う獣のような雰囲気が混ざり始めた。


『切り札か……それを破れば私の勝ちというわけか』

「そうだな。もしこれが通用しなかったら、俺達の負けだ」

『面白い。ならば少しは楽しませてくれそうだ』

「そっちがやる気を見せてくれるなら、幸いだが……言っておくぞ。この技法は絶対に防げない」


 雪斗の言葉に魔神の気配が変わる。ただそれは、怒りといった負の感情はなく、単純に興味から遊んでやろうというもの。


「必死にならないと、まずいと思うんだが……まあいいさ。翠芭、一気に決着をつける。それでいいな?」


 雪斗は告げ駆ける。それに対し、魔神は――魔力を静かに発し、雪斗達が何をしてくるか注視するような構えだった。


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