表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

163/398

転換点

 ――以降、雪斗と翠芭はひたすら修練を重ね、ある程度形になった時、迷宮の支配者から連絡が来た。


「異変という程ではないが『魔紅玉』に変化が生じた」


 その言葉により、雪斗達は話し合いを行い、決断する――明確な異変が生じるより前に、破壊すると。


「……よし」


 決戦の朝、雪斗は自室で支度を済ませ声を上げる。部屋を出て正門へと向かう足は、重くしっかりとしたものだった。

 途中で翠芭と合流し、雪斗達は並んで歩む。


「他の人達は――」

「既に正門にいるらしいよ」


 翠芭の言葉に雪斗は「そうか」と相づちを打つ。

 今回帯同するのはリュシールに加え貴臣の二人。少人数であるのは話し合った結果。他のクラスメイトや仲間達は、迷宮の外で待機することとなった。


「……なんとなく、感慨深いな」


 雪斗は歩きながら翠芭へそう告げる。


「迷宮での戦い……それが幾度となく思い起こせる。悲惨なものであり、また同時に厳しい戦いだった……俺達にとって悲劇の産物である迷宮は、この国の人にとっては悲喜こもごもの複雑なものだ。その終止符を俺達が打つというのは――」


 雪斗はそこで口が止まる。


「……まだ戦いは終わっていないし、ここで感傷に浸っても仕方がないか」

「ううん、別に良いんじゃない?」


 翠芭はそう返答。雪斗は彼女を見返すと、


「思いの丈をここで発散させて、戦いに備えるのは?」

「そういう考えもありか……なら話をさせてもらうけど」

「うん」

「ある意味俺達がやることは、歴史の転換点に違いない。どういう風に戦いが終わるのかわからないが、俺達が再び迷宮の外へ出た時、この国の……いや、世界の新たな歴史が始まる。もっともそれは、良いものになるかどうかわからないけど」

「そういう風にしていくしかない、かな」

「そうだな……後はこの世界の人達の問題だな」


 雪斗はそう述べた後、カイのことを思い起こす。

 記憶だけの彼は、今回帯同しない。ただし迷宮の外でバックアップを行う。


「……カイや俺達と共に戦ったクラスメイト達の記憶もある。そうであれば、二度と過ちを繰り返すようなことにはならない、と思いたいな」

「大丈夫だよ、きっと」

「だといいな……それと、翠芭」

「うん、何?」

「改めてだけど、聖剣を握ってここまで無我夢中で駆け抜けたような心地だと思う……なんというか、俺としては戦って欲しくないという一心で、むしろ色々と遠ざけていたように思う。これが正しかったかどうかはわからないけど、混乱させたのは事実だ」

「何を今更。それに、雪斗がそうやったのは私達クラスメイトのためだってわかるから」


 微笑を浮かべる翠芭。不平不満はない。雪斗の行動に異論はない――そんな風に語っている。

 それで雪斗も沈黙した。それは困惑したためではなく、彼女が納得しているのを見て、これ以上語ることは意味がないと判断したためだった。


「……ねえ、そういえば元の世界へ帰る方法だけど」


 翠芭が別の話題を切り出す――このことについては雪斗も数日前に聞いていた。

 雪斗が活動していたこともあり、クラスメイト全員を送還できるだけの準備は整い始めている。今回『魔紅玉』の破壊を行うわけだが、そこから雪斗もそちらへ注力して――数ヶ月以内にはどうにか、帰還できる目処ができるという見立てまで行うことができた。


 とはいえこれはあくまで事が上手く進めばの話。帰還準備を行う過程で何が起こるかわからない。クラスメイト達には早くても数ヶ月。しかし予定は間違いなくずれ込むだろうとは伝えてあった。


「ああ、今回の戦いが終われば、いよいよ集中できる」

「まだまだそちらは大変だけど……私達が手伝えば、少しは短縮するかな?」

「わからないけど、人手は多いに越したことはない。カイとかの補助もあるだろうし、数ヶ月とは言っているが……場合によっては早まる可能性はあるな。そういえば、今回召喚されたクラスメイト達は問題ないか?」

「うん、最後まで従うって。問題なく帰ることができるって伝えたら、待つって」

「そうか」


 翠芭達の戦いぶりに触発されて、武器を手に取る可能性はあった。しかし彼らが決断するよりも先に事態が大きく動いた――結局、今回の召喚で武器を手にしたのは十人にも満たない。ただ雪斗としてはそれで良かったと思う。


「あと、帰った時のことを考えないと」


 そして翠芭は呟き――雪斗は首を傾げた。


「帰った時……?」

「無事に戻れたら、打ち上げの一つもやりたくならない?」

「……そもそも、記憶を引き継いだままにするかどうかも話し合っている最中だぞ? 記憶を失えばわけがわからなくなる」

「記憶を保有している人だけでやればいいじゃない。例えば霊具を手にした人だけとか」

「……それはそれでありかもしれないけど」

「なら、相談しておくよ。言い出しっぺの私が責任を持って」


 翠芭の発言に雪斗は苦笑した後、小さく頷いた。


「そこまで言うなら止めはしないけど……」

「どこでやろっか? ファミレス? それともカラオケ?」

「いきなり決めるのか……」


 指摘に翠芭は満面の笑みで応じる。それで雪斗は何も言えなくなった。

 その時、ようやくエントランスへ辿り着く。そこには既にリュシールと貴臣が待っており――二人だけではなく、レーネを始めとしてこの世界の仲間。加え、霊具を手にしたクラスメイトもいた。


「見送りか」

「そういうことだ。頑張れよ」


 信人が声を上げる。雪斗は頷くと、視線をナディへ向けた。


「そっちは……不満そうだな」

「またも置いて行かれるからね」

「そんなこと言うなよ……今回は事前にきちんと話し合ったじゃないか。それに、迷宮の外でもバックアップは必要だ」


 イーフィスへ視線を移すと、彼は小さく頷いた。任せろという意思表示だ。仲間達は大丈夫だと認識すると、雪斗はさらに別のところへ目を向ける。そこにいたのは、カイだ。


「外は頼む」

「任せてくれ」


 力強く頷くカイ。その言葉を受けた後、雪斗は号令を掛けた。


「では行こう……迷宮の最奥へ。そして『魔紅玉』を――破壊する」


 歩き始める。隣に翠芭、後方にリュシールと貴臣が続く。

 直後、後方から鬨の声が聞こえてきた。仲間達がそれを唱和し、雪斗達へエールを送る。そうして――邪竜から続く迷宮における戦い。その最終決戦が、開始となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ