修行開始
「二人? 一人ではなく?」
雪斗はカイへ疑問を呈す。もし一点に集中させるのであれば、一人でもいいのではないか。
「さすがに一人だと、収束する力の大きさから暴走などを引き起こしてしまうからね」
「ああ、なるほど……で、多大な魔力を受けることができる俺達二人に白羽の矢が立ったということか」
「正解だ」
翠芭は緊張した表情。そして雪斗はしきりに頷く。
「それで俺達はどういう風にすればいいんだ?」
「やることは非常に単純だ。二人が全力を出しながら、それを一つに束ね斬撃を叩き込む……元々霊具は天神由来のものだ。なおかつユキトはリュシールの力を利用した『神降ろし』がある以上、魔力をシンクロさせることはそう難しくない」
「私が色々と助力するし、その辺りは大丈夫」
リュシールがフォローを入れる。一つに束ねるという部分については問題ないと主張したいようだ。
「ただ、全力を出すというのが問題なわけだ」
「……単に俺達が双方魔力を高めて剣を決める……では駄目なのか?」
「それが一番シンプルだけど、そもそも自らの意思で全力を出すにしても、それが百パーセントの力を出しているとは言いがたいだろ?」
なるほどと雪斗は思う。
例えばスポーツなどを行う場合、全力の運動でも筋肉などをフルに使っているわけではない。それは無意識に体がセーブしているとか、色々と理屈があるのだが、それは魔力を扱う場合も同じ。霊具を使うために魔力を引き出すにしても、それが完全なフルパワーであると言うことはできない。
「僕らが導き出した力の大きさは、それこそ二人が魔力を完全に引き出してのものだ。よって、二人が普通に力を高めるだけでは到達ができない」
「そこで、俺達が呼ばれた……百パーセントの力を引き出すために」
「正解だ」
カイは頷くと、視線を翠芭へと向けた。
「そちらは僕の記憶が宿っていたことによって聖剣を使いこなしてはいるけれど、当然ながら完璧とは程遠い。邪竜と戦った際は、最大の脅威がいたために通常とは比べものにならない力を得た、ということか」
「それは、私もわかっています」
翠芭は同意する。
「なら、今回の話がどういうものか理解できるはずだ……まず僕とリュシールとで、それぞれの能力について引き出すように促す。僕がスイハを担当して、リュシールがユキトだ」
「で、個々に力の引き出し方を改めて学んだら、いよいよ本格的に二人で能力を発動させる訓練を行う、ってわけか」
雪斗の言葉にカイは首肯し、
「そういうことだ……ここに二人を集めたのは、最終地点を最初に確認しておいた方がいいと思ったからだ」
「目標が明確にすべきなのは確かだからな……しかし、どのくらい掛かりそうなんだ? これ」
「正直、僕もわからない。とはいえユキトについては技量を相当積んでいるし、スイハに合わせるような形を取れば、僕らがはじき出した理論値まで力を高めることは可能なはずだ」
「なるほど……問題はこの修行をする間に『魔紅玉』がおかしくなってしまうことだな」
「そうなったらそうなったで、対応を考えるしかないな。今はひとまず安定しているという言葉を信じ、鍛錬するしかない」
「わかったよ……それじゃあ早速、始めようか」
カイとリュシールは頷き、雪斗と翠芭は分かれて修行を始める。
「それじゃあリュシール、何をやればいい?」
「わかっているとは思うけど、あなたが『神降ろし』を使用して戦ったのは数えるほどしかない……邪竜に対する切り札になったのは事実だけど、さらに練り上げることはできる。それを今回はそれを目標としましょう」
「……最終決戦寸前でリュシールが編み出した技法だけど、これをもっと序盤から使えていれば、戦況は楽になったのか?」
「たらればの話だから私としては意味がないと思うけれど……私としてもそういう技法が実用可能だと気付いたのはかなり後になってからだから、結局のところ活用される可能性は低かったのではないかしら」
「そっか」
『ねえ、私はどうするの?』
と、雪斗が握るディルから声がする。
『正直二人が技法を使っている間、私は何にもできないけど』
「そこが一番の問題ね。だから今から、ディルの能力も上乗せできるように訓練する。元々あなたは霊具であり、天神の影響を受けている以上、私の力とも親和性は高いはずよ」
『なら、頑張るかあ……』
「あんまりやる気なさげだな、ディル」
『いや、別にそういうつもりじゃないけどね……疲れそうだな、と』
「訓練つまらないといつもお前はぼやいていたからな」
そんなやり取りを見てリュシールは笑う。もしかすると、厳しい戦いながらも交流のあった前回の戦いを思い起こしているのかもしれない。
「それじゃあ始めましょう。まず最初に『神降ろし』を行ってからスタートね」
「ひとまずディルの力を引き出せるか試してみるか」
雪斗はリュシールの力を受け、その姿を大きく変える――同時、右手に力を入れた。濃密な魔力が全身に行き渡る。その中でディルの魔力は、
『うーん……なんだか阻害されてない?』
「リュシールの力が壁になっている感じだな。けど、二人の力が結びついて暴走するという雰囲気はなさそうだ。これなら、壁を打破すれば力は融合するんじゃないか?」
『まずはその辺りの障壁を取り除きましょう』
リュシールの声が雪斗の頭に中に響いた。ディルの声も頭の中であるため、雪斗は少しばかりやりにくさも感じつつ、
「二人は色々と魔力を動かして試してくれ。制御については俺がやる。両者の力が表層に出たら、二つの魔力を組み合わせることができるのか試そう」
『わかったわ』
『りょーかい』
リュシールは明瞭な返事。そしてディルは軽い感じで応じる。
「そういえば、二人……両者同士で声は聞こえるのか?」
『聞こえるよー』
『例えるなら、真っ白い空間に私達二人が並んでいるような状況ね』
「なるほど。では、二人はやりとりしながら試してみてくれ」
その言葉を受け、リュシールとディルは双方が魔力を流し始める。途端に雪斗はその制御に苦しめられるが――魔力が安定するまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。
ただ同時に、雪斗は直感する。この修行、かなり大変なものになるのではないか――と。




