破壊の手段
雪斗の言葉を受け、貴臣は腕を組み何事か考え始めるように告げる。
「前回だって本当なら、そういう方針が望ましかったというわけだろうね……ただ邪竜との戦いで死が常につきまとっていた。その辺りのことも関係し、選ぶことすらできなかった」
「そうだ……全員が憶えたままで、というのもいい。あるいは、全員が忘れるというのも構わないと思う。俺はカイからやることを託されたから、自動的に憶えたままにするわけだけど」
「前回とは状況も違うわけだし、何より選択肢を持てるというのは良いと思う。後は、そうだな。記憶を消すか戻すかにしても、取り決めをしておく必要はあるな。記憶の所持で、元の世界へ戻った際の対応なども変わるだろうから」
「そうだな……ところで、クラスメイト達は現在どんな感じだ?」
雪斗はあえてそこへ触れてはいなかったのだが、貴臣は微笑を見せ、
「懸念するようなことは何一つ起きていないよ。邪竜が討伐され、火の粉が降りかかる可能性がなくなったことも大きい。翠芭や信人がクラスメイト達に進捗状況を説明し、また納得してもらっていることも要因の一つかな」
「……二人には、後でお礼を言っておかないと」
「クラスメイトとしてやるべきことをやっているだけさ。うん、ひとまずその辺りの方策を考えるため、僕は動こう」
「やってくれるのか?」
「ああ。カイという存在が現われた以上、強力な杖を持っている僕でも研究や分析の方ではあまり出番もないだろう。それならいっそのこと、他のことを……懸念材料を取り除くべく動く方が適切だ。リュシールさんとかに相談しつつ、やることにするよ」
「頼む」
雪斗は頭を下げ、貴臣の部屋を出た。やれることはやった――後はそれが実を結ぶことを祈るだけだった。
それから数日、城の中は慌ただしくなり、ひっきりなしに研究員などが出入りするようになった。とはいえ騒動が巻き起こったわけでもなく、あくまで雪斗達の問題解決に従事するものであり、血生臭い雰囲気は皆無だった。
最大の懸念である『魔紅玉』については、どれほど期限があるのかわからない。ただ色々と調べた見立てとしては、一日二日でどうにかなるような代物でもない。
よって、雪斗達は腰を据えて作業を進めることになった。カイ達の登場により事態は大きく進展し、前へと進んでいる。その事実により霊具を持たないクラスメイト達の動揺も抑えられ、問題はない。
雪斗としては、後は着実に進むだけ――とは思っていたのだあ、ここである課題が生まれ、そのことで雪斗は呼び出された。
「来たけど……翠芭?」
場所は城内に存在する訓練場。そこに翠芭と、彼女と向かい合うようにして佇むリュシールの姿があった。
また、彼女の傍らにはカイもいる。すごい面子だなと心の中で呟きながら一行に近づくと、カイが口を開いた。
「全員揃ったな……では、話を始めよう。現在、調査を継続し『魔紅玉』破壊へ向け成果を上げつつある。理論的なものに終始してしまっているが、見立てでは十分可能な範囲……ただその過程で、色々と課題も浮かび上がった」
「ああ、なんとなく理解できる」
と、雪斗はカイへ向け告げる。
「迷宮にある『魔紅玉』……それを破壊するための出力、だろ?」
「正解だ」
カイは大きく頷く。リュシールもまた首肯し、翠芭は難しい表情で二人を見据えている。
「まず、前提をおさらいしておこう……『魔紅玉』は迷宮の核となる物であり、その本質は霊具だ。霊具である以上、あれは間違いなく天神に属する物……とはいえ、願いを叶えるというとんでもない効果以外だと、迷宮内に魔物を生み出す装置としての能力も保有している。よくよく考えれば、これは少し変だ」
「ああ、言われてみれば……研究者達の見解は?」
「過去調査を行った者の文献によれば、霊具であることは間違いない。しかしあれだけは極めて特殊……天神も魔神も、大地も関係ない。そこにある魔力を吸収し、稼働させる力を持った物だ」
「関係……ない?」
「あらゆる魔力を吸収できるよう、天神が開発したということだよ。そもそも、なぜああした迷宮が存在したのか……それは魔神が『魔紅玉』を利用したためだ。その副作用というか、副次的な効果として、願いを叶えるといった能力が備わった……これはきっと、天神の能力によるものだろう」
「魔神が利用し、天神が能力を与えた……」
「そう。霊具は基本天神由来の物であり、魔神は関与していない……が、あの『魔紅玉』だけは例外だ。魔神の魔力さえも内包する巨大な器……それがスタート地点であり、願いを叶えるとか、迷宮となるといった効果は、あくまで後に追加されたものではないかと僕は考える」
例外――本来決して交わることのない二つの神によって生み出された霊具。それが真実であるなら、破壊は極めて困難なのは当然だと言える。
「ただそれでも、破壊の余地はある……基本的に『魔紅玉』そのものに防衛機構などは存在していない。あくまであれは使用者が恩恵を受けるものだ。あの霊具そのものに意思が宿っているわけではないため、どんな攻撃も防御などせず受けるだろう」
「でも、迷宮に存在する状態で壊そうとすれば、迷宮そのものを相手するのと同義」
「そう。何かしら願いによって『魔紅玉の』力を消すというやり方が難しいとなったら、直接どうにかするしかない……で、理論的には破壊することができる。問題は、現実にそれだけの出力を出せるかどうか」
「なるほど……力勝負で負けないために色々やる必要性があると」
「そうだ。ここで着目したのは二人。ユキトと、スイハの両名だ」
一方は聖剣使い。そしてもう一方は天神を宿すことができる戦士。役割としては適切だろう。
「多数の霊具によって攻撃をするという案も浮かんだけれど、それでは防御を突破することはできないと判断した。元々の防御能力が高いが故に、生半可な攻撃はダメージがそもそもゼロになってしまう。よって、一点集中……二人に力を注いで破壊するという結論に達したんだ――」




