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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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もう一つの問い

 静寂が、雪斗達を包み込む。カイに言われ、雪斗は何も声を発さなかった。

 記憶――他ならぬ仲間の頼みである以上、雪斗としても頷く他ない。ただ、


「……一つ、いいか?」

「何か疑問が?」

「この世界における記憶を手放したくない……それは理解できた。でも、希望したからといって記憶を戻し……元の世界において不都合が出る可能性は?」

「それは肉体的な意味で?」

「ああ。さっきカイが言った通り、来訪者を蘇らせた行為が時を逆転させるものであったとしたら、俺以外の人間はそもそも、この世界を訪れてはいない体になっている。そこに記憶を入れる……問題は出ないのか?」

「そこは僕自身、平気だと思っているよ。記憶というのは、本人の魔力を基にしている。自分の魔力に自分の魔力を入れ込んでも問題はない……言ってみれば自分の血を輸血するようなものさ。まあ確かに、ユキトの懸念していることはなんとなくわかる……元の体は霊具など手にすることもなく、この世界で魔力について学んだわけでもない。でも、それでも……やってくれないか」

「カイ……」

「僕の……いや、僕達のわがままと言ってもいいさ。これはユキトのためというより、自分自身のためだ。この世界で考え至った結論を、自分自身に託して欲しい」


 ――邪竜との戦いは、雪斗達に大きな価値観の変化をもたらした。それはカイや他の仲間達であっても同じ事であり、だからこそ記憶を戻して欲しいと。


「ユキト自身、やったことのない行為なわけだし、不安になるのはわかるよ。もし記憶を戻して、何かしら害が生じたら……ユキトとしてはやるせない思いになるだろう」

「それでも……やって欲しいと?」

「そうだ。これは、こちらの世界へ辿り着いた僕ら、クラスメイトとしての願いだ。傲慢と言ってもいい。けど、やって欲しい……共に戦ったこの世界のカイとしての、願いだ」


 そこで雪斗は目を伏せた。様々な思いが巡った。邪竜との戦いの結末。自分だけがこの世界のことを記憶していた。一人、取り残されたような気がしていた。

 それでも、心の中で無理矢理納得して――いや、した気がしていただけ。事件を引き起こし、雪斗は逃げるように仲間達に背を向けた。


 そうして、この世界を再び訪れて――今こうして、雪斗が知る仲間と再び言葉を交わしている。その再会はあまりに無茶苦茶で感動も何もあったものではなかったが――


「……わかった」


 やがて雪斗は、カイへそう告げた。


「どんな形でやるのか……その辺りのことは、少し調べてからになるけど。ディルが一緒にいるから、問題ないかくらいの確認は、頑張ったらできるだろうし」

『できると思う?』


 頭の中にディルの声が。


『そんな能力を持っているわけじゃないけど……』

「力が使える以上、やりようはあるってことさ……カイ、それでいいんだな?」

「ああ、お願いするよ」


 笑みを浮かべカイは、雪斗へ応じた。


「では、話を進めることにしよう。僕が先に事情を聞いた中で、もっとも困難なことは間違いなく『魔紅玉』の破壊だろう。それをどうやって行うか……時間は掛かるだろうから、じっくりとやろうじゃないか――」






 その後、雪斗は一度帰還した。今回はカイの記憶が随伴し、ジークなどとも再会。最大の障害である『魔紅玉』破壊のために、動き出すことになった。

 その一方で雪斗は帰還するための魔力について目処を付けるよう言い渡された。一番に動けるのが雪斗であり、また『魔紅玉』破壊については専門的な話がいる。雪斗自身、魔力などの難しい話は苦手であり、適材適所という形になった。


 とはいえ、さすがに常に動き回っている必要はなく、カイと再会して帰還した後、雪斗は自室で休むこととなった。


「一段落、ってことなのか……?」


 呟きながら椅子へ深く座る。カイの登場により全てが解決するかどうかはわからない。だが、話が大きく進展することは間違いないだろうと予想できた。

 カイはそれこそ、この世界に適応するためにあらゆることに手を出した。霊具の研究、考察もそうだし、『魔紅玉』についても色々と調べていた。クラスメイトを復活させた際の記憶がどうなるか――そういったことについても懸念し、勉強をしていたのだ。


「なんというか、本当に完璧だよな……」


 ならば自分はどうか。確かに様々な国に転戦し、多数の戦場を渡り歩いた。けれどカイの仕事量と比べれば――


「そう自分を卑下するな、ってカイには言われたっけ」


 呟きながら雪斗はおもむろに立ち上がって窓へ近寄る。見慣れた景色。そして親友とも呼べる仲間との再会。なおかつ託された記憶。一人になって、どうしても色々と考えてしまう。


「……ともあれ、まずは帰ってからだな」


 本当に前回と同じ形で帰ることができるのか。今回は雪斗だけでなくクラス全員が帰らなければならない。

 ――そこでふと、雪斗はあることを思いつく。少し黙考した後に部屋を出ると、一直線にある人物の所を訪ねた。


「はい」


 扉が開かれ、現われたのは貴臣。突然の来訪者に彼は驚いた様子で、


「雪斗? どうしたんだ?」

「少し相談事が。これは、できるなら他の人には秘密にして欲しいんだが」


 その言葉で彼は深刻なことだと思ったか、雪斗を部屋へと招き入れた。


「それで、話とは?」

「……カイが登場したことで、色々と事態が進展しそうな気配だ。ゴール地点までは遠いかもしれないが、明確な指針はできたから後はそこへ邁進するだけだと思う……その中で、他のクラスメイト達のことが気になった」

「クラスメイト?」

「前回と異なり、霊具を持っていない人が多数を占めている……前回は必要に迫られてという面もあったし、最終的に全員が霊具を持つに至ったけど、今回はそうじゃない。『魔紅玉』破壊のために一悶着あるかもしれないけど、現状でこれ以上霊具使用者が増える可能性は低い」

「うん、そこは僕も同意するよ」

「前回と大きな違いはそこだ……霊具を持たない人達。彼らについては、帰還する際に一つ考えなければいけないことがあると思って」


 その言葉で、貴臣はピンと来たらしい。雪斗が話し出すより先に、口を開いた。


「……記憶を、どうするかだね?」

「ああ……俺達の時は色々あって、選択肢すら手にできなかった。でも、今回は欲張って……憶えたままにするか、忘れるか。どちらを選べるようにしてもいいんじゃないかと思うんだ――」


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