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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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彼の答え

 雪斗が剣に魔力を集め、一閃しようとした矢先、邪竜に変化が起こった。

 アレイスを模したその体から魔力が生まれる。カウンター狙いか、と思いながら雪斗は一切ブレることなく振り抜いた。だが、


「――っ!?」


 斬撃を見舞った雪斗の顔が驚愕に染まる。攻撃が来るより先に雪斗は剣戟を決めたはずだった。しかし、


(手応えがない……?)


 幻術の類いか、と思いながら雪斗は一度大きく後退しようとして、足が止まる。

 原因は明白だった。目の前の邪竜――アレイスの体が、消えそうになっていたからだ。


「……お前は……」


 呟いた瞬間、雪斗は何が起こったのかを理解し、そして、


「……おい、まさか」

「ああ、そういうことだ」


 アレイスの体が消えた奥、そこにカイの姿があった。途端、後方にいたリュシール達が近寄ってくる足音が雪斗の耳に入った。


「えっと、どういうことかしら?」

「どうもこうもない」


 雪斗はどこか苦々しい表情でリュシールへ応じる。


「図ったんだよ……わざわざ邪竜の偽物まで用意して」

「正解だ。なかなか上手く再現できたと思うんだが」

「お前……」


 肩をがっくりと落とす雪斗。つまりここを訪れて戦ったのは、見事に茶番だったというわけだ。


「ほら、僕が直接尋ねてもユキトは口をつぐんだだろ? それに、どういう考えなのかを聞くにはこれが一番かなと思って」

「……ああ、思い出した。お前はなんというか、そういう奴だったな」


 脱力を隠すことなく、雪斗は語る。


「完璧な人間で……何から何まで全て綺麗にこなす。けれどそのくせ、急に突拍子もないことをやり出す。それが天然なのか大真面目なのか、俺は最後までわからなかったよ」

「僕は真面目のつもりなんだけどね……」

「……何があったの?」


 興味を持ったのか翠芭が問い掛けてくる。それに対し雪斗は手を振り、


「悪いが割愛させてもらうよ……なんというか、色々あったとだけ」

「それは僕が心を開いた人間に対してやっていたお遊びみたいなものさ。他ならぬユキトなら、そういう表情を見せても良いと思った」


 カイの言葉に雪斗は一度彼を見返す。信頼してもらっているのは悪くないが、さすがにこういう形でやられるというのは感心しない。


「で、カイ……結局何がやりたかったんだよ? 俺の真意を聞き出して何をするつもりなんだ?」

「僕は僕なりに色々と考えが浮かんでいるけれど、それを実行するより前にユキトに確認しておきたくてね」

「何を、だ?」

「僕の答えだ……いや、この場所にいる全員の総意、と言い換えてもいい」


 カイは右手をかざす。そこに、淡い光が生まれた。


「僕の魔力だ。これをユキトに取り込んで欲しい」

「俺に?」

「これは僕を含め、ここに眠っている者達の……記憶だ。元の世界に帰ったら、元の僕に戻して欲しい。あちらの世界にいる僕に会い魔力を入れてもらえれば、記憶が戻るはずだ」


 その言葉に雪斗は驚く。次いで、


「ちょっと待て、俺は――」

「これは僕の願いだ。確かにユキトの言う通り、悲惨な記憶……それを戻すことに意味はないかもしれないし、必要ないかもしれない。平和な世界に戦いの記憶など、無用かもしれない……けれど、僕は……僕らはそう思わない」


 カイは真っ直ぐ雪斗を見据えながら、話す。


「やって欲しいんだ、それを……この世界を訪れた僕という存在もまた、僕を形作るものとなっている。この世界へ転移させられたことは理不尽だったかもしれないけれど、僕はそれを悲惨だからということで手放したくはない」

「カイ……」

「それは仲間達も同意している……確かに、無茶苦茶な記憶だ。けれどこの世界で決断したことや、芽生えた思いを捨てたくはないんだ」


 カイの言葉に雪斗は押し黙る。だが意を決するかのように口を開く。


「俺は……カイ……俺は、間違っていたのか?」

「そんなことはないさ。ユキトの判断は仕方のないことだし、一人で考えられるベストな形だとも思う。そうだな……僕自身、ここに記憶を保管したことを伝えることができなかったことや、こうなる可能性を提示できなかったのは、後悔すべき点だ」

「記憶については……俺は特殊だし、仕方がないとは思うよ。けど、こうなる可能性というのは――」

「僕らは『魔紅玉』を用いてクラスメイト達を生き返らせるつもりだった。けれど、それがどういう形で生き返るのか……そこについて、一考の余地があった」

「いくつか候補があるということか?」


 尋ねたのはレーネ。そこでカイは首肯した。


「死者を蘇らせる……そこについては間違いない事実だ。けれど、そのやり方は色々と候補がある。例えば遺体を修復するとか、時を巻き戻すとか……で、資料を見る限り、後者に近い性質だと考えた」

「時に干渉すると?」

「おそらくは。ただ、どういうプロセスなのか、詳しいことは邪竜との戦いもあったから解明することはできなかったのだけれど……僕としては、蘇った時に記憶がどうなっているのかが気になった。死ぬ直前まで補完されているのか? それとも……ここでさらに疑問だったのは、生き返らせるにしても異世界からの来訪者だった僕らはどういう形で生き返るのか」

「結果としては、こちらの世界を訪れる前に戻した」


 雪斗の言葉だった。それにカイは小さく頷く。


「おそらくそれが回答に近いものだ……そこで僕は考えた。もし『魔紅玉』に願った直後、その場でクラスメイトが復活しなければ、雪斗の言うとおりになる。その際に記憶はどうなっているのか……残っていない可能性が高い」

「実際その通りだった」

「僕としては……この世界の記憶を持つ僕らは、それが納得いかなかった」


 カイはそう述べる。雪斗は沈黙し、彼の言葉を待つ。


「あくまで霊具による効果であるため、記憶を保持したまま蘇ることができる手段だって存在していた……というより、そんな風に実行することもできた。けれど戦いの中で余裕がなく、結局こちらの世界に記憶を留めることしかできなかった……けれどユキトは戻ってきた。不本意な形ではあるだろうけど、これは明確なチャンスだ。僕らの……本来の僕らに記憶を戻すことができる。ユキトは納得できない点が多々あるかもしれない。けれど、これは僕らの願いでもある。だからユキト、頼む。僕らの記憶を、元の世界にいる僕らに、託してもらえないだろうか――」


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