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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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来るべき時

「さて、状況は理解できたはずだ」


 迷宮の支配者は、雪斗達へ話し掛ける。


「私自身、この迷宮とは独立する形で存在するため、このまま持って帰ってもらっても構わない……が、この『魔紅玉』は不安定だ。迷宮を作動させるために魔力を発露したためか、台座から離れれば混ざった魔力が異常を引き起こす可能性が高い」

「解決しなければ、持ち出すことも危険だと」


 リュシールは応じながら腕組みをする。


「これは確かに面倒ねえ。問題はこれを是正する方法を思いつかないことかしら」

「迷宮という存在は『魔紅玉』があってこそ、だ。しかしそれ自体に変調が出てしまったら……そういう懸念は考慮の外だったようだな」


 迷宮の支配者の言葉はその通りだった。誰もが『魔紅玉』については信じて疑わなかった。けれどよくよく考えれば当然のことだった。邪竜の出現から始まった例外ばかりの戦い。異世界から人間を召喚することも異例だし、さらに願いを叶えた者が来訪者だったことも、あらゆることが前例のない話だった。

 ただ、雪斗としてはいつか起こった話なのだろうと感じた。仮に邪竜の出来事がなかったとしても、いつか『魔紅玉』はおかしくなっていただろう。それこそ、迷宮の終焉。けれどこの世界の誰も――そればかりか来訪者である雪斗としてもまだ大丈夫だと信じて疑っていなかった。


「来るべき時が来た、ということなのでしょうね」

 どこか自分を納得させようという雰囲気で、リュシールは語る。


「ある意味これは必然だった……たまたま私達の代でそれが到来した」

「ああ、俺もそう思う」


 雪斗は同意しつつも、


「だが、これでは目的を果たせないな……どうするのが最善だ?」

「まずおかしな挙動をしている以上、『魔紅玉』をここから動かすのはまずいわね。ただ現在、迷宮の支配者が魔物達を掌握しているし、ここを再び訪れることは難しくない」

「まずは地上に戻って相談、だな」

「解決しそうなのか?」


 雪斗とリュシールの会話に割って入る迷宮の支配者。それに雪斗は、


「まだ、霧が掛かって見えない状態だ。けれど、解決しなければ、俺達の目的も果たせない」

「是が非でも、やるということか……まあ私の役目は終わった。試練の結果も良かったため、私達が妨害することはない。存分に悩んでくれればいい」


 ずいぶんと投げやりな迷宮の支配者。少なくとも敵意はないためありがたい話ではあるのだが――


「……もし『魔紅玉』がなくなれば、ここにいる理由はなくなるんじゃないか?」

「その時は改めてどうするか考えるさ」


 それだけだった。冷めた口調というより、ただただ現実的な回答を示しているだけのようにも見える。


「……わかった。俺達としてはできるだけ早く結論を出したいところだが……」

「急いでやる必要はないが……悠長にしていてはこの『魔紅玉』にさらなる異変が発生する可能性もゼロではないか」

「ああ……もし何か異常があれば教えて欲しいんだけど」

「構わない。しかし私は迷宮の外へ出る気はないぞ」

「なら連絡役を……他にもやらなければいけないことはあるな」

「まずは連絡体制の確立かしら」


 悩ましげに語るリュシール。それと同時に肩をすくめ、


「やることが戦いから思わぬ方向へ進んだわね……こちらの方が逆に面倒さが増してしまっているけれど」

「リュシール、解決すると思うか?」

「どうでしょうね……私も今改めて気付いたけれど、この『魔紅玉』について懸念を抱いていた人間って皆無なのよね。迷宮の全てであるこの球体……誰もが不滅の存在である疑わなかった」

「これほどまでに膨大な力です」


 と、イーフィスが『魔紅玉』見据え、語り出す。


「一種の神格化が成されていたということですね……確かに盲点と言わざるを得ない」

「全員、困惑しているな……ま、無理もないか」


 雪斗は呟きながら仲間達を見回す。リュシールは今後のことを考えて頭を悩ましている様子。あるいはジークにどうやって報告すべきかを考えているのか。

 イーフィスやシェリスについては、『魔紅玉』をただただ眺めている。どういう考えに至っているのかは不明だが、懸念を持っているのは確かだろうと推測はできた。


 そしてクラスメイトについては、驚愕とか困惑とか、そういう表情はまったくない。そもそも記憶を継承しているとはいえ、間近で『魔紅玉』を見たのは初めてである以上、浮かぶ感想についてもそう多くはないのだろう。


「……ともあれ、一度戻ろう」


 雪斗はそうまとめ、仲間達を出口へと促す。


「戦いは終わった……迷宮の支配者に戦意がない以上、今回の迷宮攻略は終了だ。けど、結界の維持については――」

「やってもらって構わない。そもそも私は『魔紅玉』の行く末を見届ける義務がある。よって、結末を見るまでここを動くつもりはない……が、それでは何かあった場合に連絡できないのでは?」

「結界そのものを壊すのは、さすがに懸念があるから無理ね」


 と、リュシールは迷宮の支配者へ告げる。


「けれど、少しだけ穴を開けたりするくらいはできるから、それで対処しましょうか」

「私はそちらのやり方に従うだけだ」

「なら、どうするかは一両日中に決めるわ……さて、忙しくなりそうね」

「俺達の出番はあるのか?」


 雪斗が問い掛ける。これまで戦闘一辺倒であったわけだが、そういったことももはや必要なくなった。であれば、雪斗はこれから――


「それは『魔紅玉』をどうするかによって決まるわね……と、そうだ。支配者さん、一つ確認しても?」

「構わない」

「例えば『魔紅玉』に願いを伝えずそのまま封印することは可能かしら?」

「できるとは思う。その場合はそのまま城へ持ち帰り、宝物庫にでも安置する……とはいえ『魔紅玉』はこの台座に存在するから魔力を保てている。ここから外せば魔力は自然に抜けていくだけだ」

「ならその魔力が抜けるのは、どのくらい掛かるかしら?」

「膨大だからな。これまで『魔紅玉』を手にした者は、例外なく何かを願ったのだろう? その言葉なしに自然に魔力を抜くには……一年二年どころの話ではないだろうな」

「そう、わかったわ」


 もし『魔紅玉』を安置するにしても、魔力がネックになる――また一つ問題が生じた。


「では、戻るとしましょう。ジークに報告して、国として……どうするかを、決めてもらいましょう――」


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