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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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国を救う者

 雪斗は一撃加えた後に黒騎士から再び距離を置く。

 自身でも渾身の一撃を当てたと確信したため追撃の必要性はないと判断。ただこれで倒れなければ方針を変える必要があるかもしれない。


「再生能力などを考慮して、次はもっと猛攻を仕掛けるか……」


 そんな呟きと共に光が消える。黒騎士はまだ生存していたが、損傷しているようで動きが大きく鈍っていた。


「……終わらせるぞ」


 誰に言うわけでもなく雪斗は呟くと、魔力を全開放した。それはこの広間を振動させ、なおかつ迷宮の支配者がわずかに目を見開くほどの変化。直後、動きが鈍った相手へ向け、肉薄。黒騎士へ一太刀浴びせる。

 それにより、鎧が大きく軋んだ。反撃しようと試みる黒騎士に対し雪斗はさらなる猛攻によって刃を阻んだ。


 優位に立っているが、一撃でも食らえばそれが容易くひっくり返ることはわかりきっていた。傷ついて確かに動きは鈍っているが、油断など一切できない――迷宮の戦いは常にそうだった。もしここで気を緩めようものなら、それで人生が終わるかもしれなかった。

 立て続けに迫る剣に黒騎士は防戦一方となる。相手へ番を回さないよう、最大限の出力かつ、渾身の一撃を浴びせ続ける。


 こうなってくると雪斗の体力がもつのかどうか――だが、自身はいけると判断した。


(まだだ――まだ――!)


 声を張り上げ、黒騎士の防御を抜こうとする。相手はさばきながらどうにか態勢を立直そうとするが、それも雪斗が剣戟で阻む。

 傍からは雪斗が完全に優位な状況。だがほんの少し魔力に揺らぎが生じれば、あっけなく覆る程度の差。だからこそ雪斗は、自らの命を燃やし尽くす勢いで、攻め立てる。


 それは――どうやら功を奏した。黒騎士は防御が間に合わず剣を受ける。そこからは一瞬の出来事だった。態勢が大きく崩れ為す術がなくなった魔物に対し、雪斗の刃が無数に入る。

 吸い込まれるように叩き込まれた剣。それは黒騎士の鎧を大きく壊し、また剣を持つ腕を大きく変形させた。終わる――誰もがそう予想できた。


 とうとう雪斗の剣が黒騎士の頭部へ入る。防御するための余裕すらなくなったか、あるいは剣を無理矢理にでも持とうとして魔力を注いだ結果か。ともあれ雪斗の剣は真っ直ぐ両断するような形で入り、黒騎士の頭部が、破壊された。

 それと共に魔物は倒れ伏す。乾いた音が周囲に響き、終わったのだと誰もが認識させられる。


「……ああ、見事だ」


 拍手をしながら迷宮の支配者は語った。


「ここまで押し続けて勝つとは思わなかった……が、実際のところは紙一重だな」

「まあ、な」


 雪斗は答えながら『神降ろし』を解除する。体に疲労がどっとのしかかったが、それでもへたり込むわけにはいかなかった。


「ともあれ、こちらの勝ちだ……そうだな?」

「ああ。実質先ほどの魔物が私の切り札だ。それを打ち破った以上、こちらにもう手駒はない。『魔紅玉』の下へ案内しよう」

「それで願いを叶えて終わり……のはずなんだが」

「そうだな。そのはずだ」


 ――本来は、と支配者の心の声が聞こえてきそうだった。


「……『魔紅玉』は最下層に安置されている。道すがら、その辺りのことを説明するとしようか」


 彼は雪斗達に背を向けた。この広間まで案内した侍女もまた支配者に従う。

 雪斗達は一度互いに目を合わせた。ついていって問題はないのかという疑問があったわけだが――やがてリュシールが歩き始めた。


「ここまで来た以上、今更よね」

「……そうだな。あ、でも――」

「結界については自由に構築していい」


 と、支配者の声が聞こえてきた。ならばと雪斗達は頷き、やがて追随することにした。






「異変に気付いたのは邪竜の復活が明確となった後くらいだ……つまり、来訪者が再び現われた時くらいだろうか」


 迷宮の支配者は雪斗達の案内を行いながらおもむろに説明を始める。ただ声のトーンはどちらかというと、独り言を喋っているようなものだった。


「それに気付いた段階で、迷宮の支配者としては……相応の処置をしたつもりだった。しかし解決しなかった……いや、いずれこういう事態に直面するということは確定だったのだろう。邪竜の影響によりそれが早まった……ということなのかもしれない」


 淡々と話し続ける支配者の背を追いながら雪斗は考える。こうして語っていることから、おおよそのことを推測し始める。


「どういう経緯にせよ、私にできることはもうない……そこで私は待つことにした。私の手でどうにかできる範囲は過ぎてしまった。よって、変革できる存在を待っていた」

「それが邪竜であったとしても良かったと?」


 雪斗は思わず問い掛けた。それに支配者は、


「現状を変えることができれば何でも良い……が、さすがに邪竜を相手にするのは厳しかっただろう。そもそも私の存在を許すはずはない」

「だとしたら、俺達を待っていたと」

「そうだな。実質邪竜か黒の勇者か……その二つしかなかった」


 笑いながら語った後、支配者は雪斗達へ視線をやった。


「邪竜とて、現状を目の当たりにすれば方針を変える必要性があっただろう……どういうやり方にしろ、変化は訪れていた。それが人間にとって良いものか悪いものかはわからないが」


 支配者は一時そこで言葉を止める。しばし足音だけが迷宮内に響いた後、


「そちらが最下層に辿り着いた時、どういう行動をするのかは予想もできないが……時間的な余裕はある。どうすべきかはゆっくり考えてくれていいさ。こちらは試練を提示してそちらは打ち勝った。よって、好きにしてもらえればいい」

「ずいぶんとまあ、大盤振る舞いだな」


 雪斗の発言に支配者は唐突に笑い始める。


「そうか? ならばまあ、そうだな……甘い裁定なのはきっと人間としての力が入っているからだろう。この顔を持っていた騎士……アレイスによるものだな」

「アレイスが……?」

「騎士はこの迷宮にある意味では根付いて、二度と惨劇が起こらないようにした、と考えてもいい。私が人間の魔力を持っていなければ訪れた邪竜に力を捧げ、付き従っていたことだろう。しかしそうはならなかった。それは紛れもなく、人間の魔力が内に眠っていたためだ」


 そう告げた直後、雪斗はアレイスの顔を思い出す。最後まで、この国を救うために――その想いが少しばかり、理解できたような気がした。


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