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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第四章

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二度目

 朝、雪斗は城内にある自室で支度を行い、部屋を出る。既に朝食は済ませており、廊下には霊具を持つクラスメイト達が既に待っていた。


「……行くか」

「うん」


 雪斗の言葉に翠芭が代表して応じると、全員がゆっくりと動き始めた。


 ――本日、この異世界に再訪してから雪斗にとって二度目の迷宮攻略に入る。今回は前回のメンバーに加えて翠芭を始めとしたクラスメイトも同行する。何が起こるかわからない迷宮で、不安もあったが――雪斗はそれらを押し殺し、彼らと共に迷宮へ入るつもりだった。


「シェリス達とは屋敷に赴いて合流するから」

「わかった……あの、私達はあの人達と戦えるかな?」

「連携がどうとか、そういうことか?」

「うん」


 翠芭の疑問に対し雪斗は「大丈夫」と応じる。


「カイ達の力が体に宿っているとしたら、その辺りのことも問題ないはずだ。シェリス、ナディ、イーフィス……彼らはそれこそ俺やカイ、その他の仲間達と手を組んでいたんだ。記憶を宿したカイ達がケアしていないはずがない」

「……そういう記憶まで残っていたのだから――」

「もしかするとカイは、予見していたのかも知れないな……グリーク大臣などの行動により、再び迷宮が復活するかもしれないと」


 記憶により十分に戦えるようになったのなら、グリーク大臣の支配から逃れることができたかもしれない――結果的に大臣は暴走により果てた。けれどカイ達は、それに対する備えも用意していた。


(頭が上がらないな……)


 この世界で共に戦っていた仲間達は、どこまでもこの異世界のことを思って色々な策を仕込んでいた。雪斗はどうかというと、ただ目の前の敵を倒すだけ――そんな感じだった。


(未来のことまで考慮して戦っていたわけじゃない……それこそ、自分が死んでも生き返る……カイが頑張ってくれると思っていたから、がむしゃらに戦っていたんだ)


 ある種自己犠牲の精神だった。ただ、そういう戦い方は自分のことを顧みることがないに加え、自分以外のことも疎かになってしまう。それを今、痛感している。


(カイは、自分達が元の世界に戻っても大丈夫なよう、備えをしていた……でも)


 もうそうした彼らはいない――いや、感傷的になっても仕方がない。

 雪斗は思考を振り払い、城を出ようとする。城門前に到達すると、見送りのためかレーネに加え複数の騎士が待っていた。


「どうだ、ユキト」

「調子はぼちぼちかな……留守中、他のクラスメイト達のことは頼むよ」

「わかった。ちなみに幾人かが霊具に対し興味を持っているみたいだが、どうする?」

「彼らの思うようにやらせてくれ。ただ、霊具を手にしたからといってすぐに戦うわけではないだろうし、今回の迷宮攻略には参戦できないかな」

「そこは承知しているから心配しなくてもいい……スイハ達も、気をつけて」

「はい」


 騎士達が敬礼を行う。それに雪斗が敬礼で応じると、翠芭達もそれに倣う。

 そこから外に出てイーフィス達が待つ屋敷へ。それほど時間が掛からず訪れると、既に準備を整えていたらしい彼らが既に待機していた。


「さて、行きましょうか」

「ナディが仕切っているのか?」

「そういうわけではないけど、他の面子でこういう役回りの人間がいないんだよ」

「なるほど……それで――」

「今回私達は留守番だ」


 と、ディーン卿に加えゼノ、さらにダイン達は後方に控えていた。


「大所帯になるわけだが、こちらは援護くらいしかできないだろうからな。ならば混乱がないよう地上を見張っているのが良いと考えたし、いざという時の連絡役を行う」


 ――邪竜が罠に掛け雪斗達を誘い出した。その教訓から、何かあった際の連絡役を寄こせるような態勢も整えた。

 その伝令役として選ばれたのがディーン卿達。結界を構築するなどして安全圏を確保するため、後方からやってくる伝令役に被害が出ることはないのだが、それでも迷宮に踏み込むということで、実力的に彼らが選ばれた。


 特にダインについてはその霊具の特性から敵の攻撃なども無視できるため、役割としてはうってつけだった。


「ま、戦闘面はあまり期待できないからな。こういう役回りの方が合っているし」


 と、ダインが口を挟む。


「それに、前線に出るよりかは安全だからな」

「本音はそこか……役目はきちんとまっとうしてくれよ」

「もちろんだ。武運を祈っている」


 そうした言葉を受けた後、雪斗達は屋敷を出た。


「今日中に最深部まで行く気?」


 そんな質問がナディからなされた。それに雪斗は、


「そこまで無茶はさすがにしないさ……迷宮の状況を探るのが第一。でも、可能なら下に行こうとは思っている」

「前回までに構築した結界が壊れていないなら、最初の方は問題なく進めるわね」

「そうだな……今まで結界が壊されたというのは邪竜相手でも前例がないけど……もしそれがあったら、最大限の警戒をしなくてはいけない」


 邪竜自身が捨て台詞で語っていたくらいなのだ。現在最深部にいる存在は、どれほどの力を持っているのか――雪斗としてはいざ決戦となったら持ちうる力を全て使って、仲間を守らなければ、と思う。


「ところでユキト、リュシール様は?」

「既に迷宮前に行っていて手続きをしているよ……今回も同行するけど、あまり期待はしないでくれって」

「何か理由が?」

「迷宮がそれだけ恐ろしい存在だってことさ……邪竜が出現する前までは、この国における中心的な役割を担い、なくてはならない存在だった。けど、今は……リュシールが懸念をこぼすほど、恐ろしい場所になっているってことだ」

「邪竜との戦いが、記憶に残っているからね」


 邪竜は本来例外的な存在だった。外に出ることができるということ自体があり得ないはずだった。

 しかし、今はその可能性があることに加え、邪竜の置き土産があり、それを現在の迷宮支配者が持っている可能性だってある。今は迷宮から魔物は出現していないが、出ないとは限らないのだ。


「だから、リュシールも……この国の歴史を知るリュシールも、迷宮に対し畏怖を抱いているってことだ。わかっていると思うが、気は抜くなよ」

「当然」


 ナディが同意。邪竜との戦いを経験しているからこそ――誰もが、厳しい表情で迷宮へ向かい続けた。


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