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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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邪竜顕現

 やがて黒い霧が晴れると、邪竜の姿が現われる。それは西洋的な、四本の足が存在する漆黒の竜。その大きさはこのエントランスに圧迫感を抱かせるほどであり、姿を変えた邪竜は、翠芭を視線に向けた矢先、吠えた。


『今度こそ、滅ぼしてやろう!』


 怒りを湛えた邪竜の言葉に翠芭は動じることなく剣を構える。刹那、邪竜がもう一度吠えると共に、周辺に闇が生まれた。

 攻撃魔法だと理解した直後、それが一斉に矢のように変じ翠芭達へ飛来してくる。だがそれを最小限の動きで避けると、翠芭はすくい上げるような軌道で剣を振った。


 刃先から魔力が溢れ、真っ直ぐ邪竜へと突き進んでいく――相手はそれに対し吠えることで応じた。刹那、魔力が生じ魔力の刃が相殺される。


『ヤツの行動は全て魔力を伴っている。遠吠え一つでも魔法と同義だ』


 カイの言葉が頭の中に響く。なるほど、これはとんでもない力だ。

 周囲の騎士達は本性を現した邪竜に警戒しながら霊具により全力で結界を展開する。もし邪竜が力を発すれば泡のように弾けるものではあるはずだが、それでも一瞬だが耐えられる。


『ああ、よもやこうして再び貴様らと相まみえるとはな!』


 その時、邪竜が告げる。その声と共に魔力が発され、それは突風となって翠芭を襲うが、ダメージはない。


『聖剣使いを殺すだけで復讐は完遂されるはずだった……しかしまさかそのような形で邪魔をしてくるとはな!』

『――お前が世に出るんだ。再び僕らが表に出ることも、また必然だろう?』


 カイが告げる。とはいえその声は邪竜に届くことはないのだが――


『通訳を頼むよ』


 それは明らかに翠芭へ向け言ったものだった。

 最初は驚いたが、翠芭も意図を理解した声を出す。


「――お前が世に出るんだ。再び僕らが表に出ることも、また必然だろう?」


 次の瞬間、邪竜の顔が歪んだ。だがそれは怒りではなく、どちらかという笑みに近いもののように感じられた。


『亡霊となってまでまさかこの私に立ちはだかるとは、思いもしなかったぞ』

「……そちらも亡霊のようなものだろう? アレイスの体を乗っ取って動いている。その体から離れれば今度こそお前は消える。救いようがないな」


 そんなセリフに対し邪竜は再度吠えた。


『はははは! そうか! ならば亡霊同士雌雄を決しようではないか!』

「自覚はあるようだな……なら、終わらせよう」


 翠芭は魔力を高め、聖剣の力をさらに引き出す。途端に邪竜は笑うのを止めて、その牙を突き立てようと翠芭へ突撃を開始する。

 巨体であるが故に当然ながら抑えることなどできない攻撃――だが翠芭は冷静に、まずは跳ぶように後退し、邪竜と距離を開ける。


『逃げるのか!』

「……こうして会話ができれば、絶対に釣ることができると思っただけだ」


 途端、邪竜は気付く。翠芭から見て右に信人。左に千彰。そして後方には花音が既に準備を終えていた。

 攻撃が繰り出される。最初に信人から渾身の刺突が放たれ、邪竜の横っ腹を正確に射抜く。


 それにくぐもった声を漏らしながら耐える邪竜だったが、次に千彰の風が逆側の横腹に直撃した。両者の攻撃がどれほど効いたかは不明瞭だが、それでも声を上げ耐える様を見れば通用していると悟ることはできた。

 そこへ、花音の炎も放たれる――ただそれは、今までと色が違っていた。炎を想起させる赤ではなく、金色の炎。それが翠芭の横をすり抜け、邪竜へと注がれる。


『ガ、アア……!』


 今までとは異なる声。明確に効果があるものだと確信できたが、だからといって強引に攻め込むようなことはしない。

 翠芭は聖剣を振り、再び魔力の刃を邪竜へ放つ。炎により動きを拘束された邪竜は避けることができず、その胴体に、しっかりと傷を刻み込んだ。


『ぐ……亡霊どもめ!』

『一つ、勘違いしていることがあるな……邪竜は』


 そうカイは冷静に述べる。


『確かに僕らは亡霊であり、また同時に聖剣に宿した力だけでは、邪竜を倒すことはできないだろう。けれど二つの事実が、打倒を可能にする』


 翠芭は理解できた。二つというのは――まず、彼らの力はあくまで補強であるという点。

 即ち元々は翠芭達の力をベースにして、そこへカイ達が知識や技術、そして加勢をしていること。つまり翠芭はカイの力を用いて戦っているのではなく、カイの力を受け取って戦っている。力を加算しているのだ。


 カイが最終決戦の際に奮起した全盛期と比べればまだそれでも劣っているかもしれないが――二つ目の事実が、邪竜との差を縮める。それは、


『……ああ、そういうことか!』


 邪竜は吠えながら、炎を打ち消した。


『貴様らの力に加え、この私が劣っていると……そう考えているようだな!』


 つまり邪竜もまた全盛期とは程遠い――おそらく邪竜が『魔紅玉』を守る守護者として立っていたなら、数瞬の内に全滅していただろう。だが、そうではない――邪竜もまたアレイスの体を使って動く不完全な存在。この二つが、翠芭達との差を無くしているほどとなっている。


「……別にお前のことを侮っているわけではない」


 そして翠芭は、再びカイの言葉を話す。


「だが、最大の落ち度は……自分自身が借り物の力で動いているという事実を認めなかった。作戦は完璧で、打てる策は全て講じただろう。戦闘に入りさえすれば、倒せる……そう踏んでいたのは、見立てが甘かったようだな」

『貴様……!』


 邪竜からさらなる力が。それは城のエントランスを荒れ狂い、騎士達は思わず悲鳴を漏らす。

 しかしその中で翠芭の思考はひどく冷静だった。この力がどれほどのものなのかが明瞭にわかり、またどうすればいいのかまで克明に理解できる。


『ならば亡霊さえ……貴様らの力さえ消えれば勝利というわけだ!』

「できるのか? そちらは本性を現したことでこちらの目論見である短期決戦でも対応できると考えているようだけど」

『そう長くはもつまい?』


 邪竜が突撃を開始。それを翠芭は横へかわし、また花音と貴臣も退避する。


「そちらも元の姿を出すのは無理をしているはずだ」

『ああ、そうだな……だがこの姿が壊れるより先に、そちらの消滅が早いはずだ』

「根拠は?」

『私が亡霊の魔力がどれほどなのかわかっていないと思っているのか?』


 邪竜が再び仕掛けようとする。だがそこへ翠芭は聖剣を輝かせ牽制。邪竜は動きを止めた。


『ふん、こちらも準備は整った。終わりにしようじゃないか』

「……ああ、そうだな。終わりにしよう」


 戦う間に邪竜は魔力を溜めていた。その力を解き放って駆逐しようとしている。


『翠芭、覚悟はいいね?』

「……うん」


 聖剣が一際輝く。呼応するようにクラスメイト達も魔力を高め、邪竜へ――駆けた。


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