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黒白の勇者 ~再召喚された異世界最強~  作者: 陽山純樹
第三章

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アドバイス

 そこから翠芭はカイへと説明を施す。翠芭自身頭の中を整理しながら喋ったため、ずいぶんと長くなってしまった。この空間内では時間など関係がない、と説明を受けていたがそれでも状況が状況であるため焦って話そうとすることもあり、その度にカイから「落ち着いて」となだめられた。


 そうして翠芭が一連の説明を終えると――カイは、小さく唸った。


「そうか……アレイスが邪竜の力に乗っ取られた……いや、あの戦いで最後の最後まで僕達の中に邪竜の影響を受けなかったこと自体奇跡だった。けれど邪竜自身が最後の抵抗を行い、その奇跡を打ち砕いた」

「最後の、抵抗?」

「おそらく雪斗が邪竜を倒した際、邪竜はほんの一欠片の力だけ、外部に放出したんだ。生き残るために……そして偶然、死にかけているアレイスを見つけた。霊具の力によりまだ息絶えていなかった彼の体を乗っ取り、我が物とした……その辺りが真実だろう」


 カイは話を続けながら、遠い目をした。


「アレイスの記憶は保有していると思うが、その意識は完全に邪竜のものだろう。だからこそ、最適な行動をとるべく動いている」


 そう語った後、カイは腕を組む。


「おそらく、グリーク大臣が来訪者を召喚することも予想していた。アレイス……邪竜は復讐と語っていたそうだね。それはおそらく来訪者をこの手で殺し、過去の戦いを清算する……もはや来訪者であっても勝てないということを、民に刻みつける。そうして絶望させた上で、蹂躙を始める」

「そこまで手の込んだことを……」

「邪竜というのはそういう存在だ。ヤツは破壊することを優先しているわけではない。自分自身が最高の存在であることを、この世界に知らしめる……そのために滅ぼす。大事なのは結果ではなく過程だ。邪竜にとって、聖剣使いをどのような形であれ殺すことは、過去をぬぐい去る上で……過程を最も大事にする邪竜にとっては、至上命題なのだろう」


 カイはここで、小さく息をついた。


「うん、状況はわかった。ならば答えを一つ一つ出していこう。まず今から僕は、スイハ、君の力となる」

「え……?」

「僕自身の力を利用して、邪竜の意思と戦う。もっとも意識は君にあるけれどね。例えるなら、君の体に僕が力を注いで戦うといったところか。ただし、これは一度しか使えない。もっとも戦いが終われば聖剣に残っていた僕の技術も体に刻まれる。今後の戦いについても問題はないはずだ」

「え、っと……」

「一種のドーピングのようなものだと思ってもらえればいい。次に、君のクラスメイトについてだ。おそらく彼らも、僕らと同じような状況になっている」

「それはつまり、霊具の中に秘める人の力を?」

「そうだ。ユキト以外はそういう風に処置をしていた。意思が存在するユキトの剣、ディルを除いては。『真紅の天使』所持者であっても同じだ。だから君の意識が戻った後、カノという人は力を自在に扱えているはずだ」


 カイの心強い言葉ではあったが、その後彼は少しばかり暗い顔となる。


「ただし、どれだけ力を得ようとも体に存在している魔力量を変えることはできない。これは君達の体を利用していることだから、その体の許容量を超える力を加えれば、怪我をする可能性もある。それを僕らがどうにか対処しながら戦うのだけれど……長時間は無理だ」

「十分だと、思います」


 短期決戦しか手がないと思っていたので、そこについては問題ないと翠芭は思う。


「ならば、意識が復活して以降は一気に決着を付けるために全力を尽くす……霊具所持者全員、僕が知る者達だ。きっと邪竜と戦った時と同じように、目線を合わせずとも連携できるはずだ」

「わかりました」

「うん、ひとまず戦いの結論は出たね。ならばもう一つの方だ。ユキトについて」

「……先ほど、手を貸せると言っていましたが」

「単純な推測だよ。死んだクラスメイトが『魔紅玉』によって復活する場合、どのような形になるのか。この世界で復活したのなら、特段問題はない。けれど、もし元の世界で復活したのなら……僕は一つ可能性が浮かび上がっていた」

「それは?」


 聞き返した翠芭に対し、カイは一度間を置く。そして、


「……それは果たして死者を蘇らせているのか、それとも単に時間を巻き戻しているのか」

「時間を、巻き戻す?」

「人を生き返らせる所業について『魔紅玉』がどのように処置をするのか……死体すら存在していない者を蘇らせるんだ。相当強力な効果に違いないが、例えばそれが時空干渉……その人物を対象にして時間を巻き戻す、という効果なのかもしれないと僕は推測した」

「時を巻き戻す……とてもすごいことだと思いますが」

「そうだね。ただここで疑問に思ったんだ。では僕らが死んで復活する際は、どこまでの記憶を保持しているのか。死ぬ寸前? それとも、もっと他の時点? それを知る答えは、復活がどのようにして行われたのかにある」


 その言葉で、翠芭は理解できた。つまり、


「ユキトが願ったことで、僕らは生き返った。けれど、元の世界で……そうであれば、保持していた記憶は、異世界に召喚される寸前までなのではないか」

「この世界の記憶を誰も持っていなかった?」

「そういうことになる……ただ、僕はユキトが記憶を失っていたからといってクラスメイトと離れるようには思えない。むしろ悲惨な記憶が消えて良かった、と思ったかもしれない……だから、何かもう一押しあったんだ」

「それが雪斗の言う、取るに足らないこと……?」

「そうだ。これについては一応推測はできるよ……なんとなく、記憶を失った僕達とユキトの考えることに齟齬がある点……それを考慮すれば、候補はいくらでも上がる。ただ、それはユキトに訊いてみなければ明瞭な答えは出せないな」

「そう、ですね」

「なら、そこについては本人に訊いてみればいい。僕の名を出せば、すぐにでも語ってくれるさ」


 そうにこやかに語った瞬間、翠芭は自分がいよいよこの場から離れることを自覚する。

 同時、カイは「いよいよだ」と呟く。


「僕の意識も霊具から解き放つとしよう。一度しか使えない完全なる裏技。これはさすがに邪竜も予想していなかっただろう。だからこそ、この策で決着をつけよう――」


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