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秘匿葬送記録  作者: 月影 朔


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佐藤健太怪死写真記録(令和六年七月二十七日)

【極秘】秘匿葬送記録:参拾参ノ巻

報告書番号: 令和06-07-27-001

作成日時: 令和06年7月28日 午前2時15分

報告者: 神奈川県川崎市 安穏斎場 斎場長 田村 浩二(花押)

報告者: 神奈川県川崎市 祥雲寺 僧侶 佐藤 義明(花押)

事案名: 佐藤健太怪死写真記録


一、事案発生日時・場所

日時: 令和六年7月25日 午後6時00分頃(通夜開式時)より、翌27日 午後1時00分頃(火葬完了時)まで断続的に発生。

場所: 神奈川県川崎市 安穏斎場 告別ホール「慈光」。


二、故人情報

氏名: 佐藤さとう 健太けんた

享年: 28歳

死因: 不審死(自宅風呂場で発見。死因は溺死とされたが、浴槽にはほとんど水がなく、顔には苦悶の表情が残されていた。数日前から体調不良を訴えていたという)。

特記事項: 都内で働く会社員。生真面目な性格で、特に変わった点はなかった。しかし、遺体発見時の状況があまりに不自然で、警察も首を傾げていたという。家族は彼の死を深く悲しんでいたが、同時に原因不明の不安を抱えていた。


三、事案の概要(時系列順)

7月24日 午後4時00分頃: 佐藤健太氏の訃報と葬儀の依頼が入る。故人の死因が溺死であるにも関わらず、浴槽に水がなかったという話を聞き、斎場長である田村は一抹の不穏な予感を覚えた。連日の梅雨空で、依頼の日も小雨が降っていた。


7月25日 午後6時00分頃(通夜開式): 安穏斎場告別ホール「慈光」にて健太氏の通夜が始まる。故人の棺は厳かに安置され、遺影には生前の穏やかな笑顔が映し出されていた。読経が始まると、僧侶の佐藤義明師の袈裟の裾が、微かに湿り気を帯び始めた。同時に、ホール全体の空気が、まるで雨上がりの密閉された空間のように重く、湿度が異常に高まったような不快感を覚え、参列者の間に微かなざわめきが広がった。


7月25日 午後8時30分頃: 通夜振る舞いの最中、ホールの照明が不規則に点滅し始めた。その直後、参列者全員が持っていたスマートフォンの画面が一斉に光り、ロック画面を無視して何らかの画像が表示された。そこに映し出されていたのは、故人である佐藤健太氏の死に顔であった。その背景は、まるで雨に打たれているかのようにぼやけ、顔色は青白く、目元は黒く窪み、口元は苦悶に歪んでいた。一瞬の静寂の後、ホールは悲鳴と怒号に包まれた。斎場長はすぐに原因究明を指示したが、斎場のWi-Fiや電力系統には異常は見当たらなかった。


7月26日 午前0時00分頃: 佐藤僧侶が故人の傍らで夜伽を行う。ホールは静寂に包まれていたが、時折、雨音が遠くから聞こえてくるような幻聴がした。僧侶が読経を始めると、再びホールの照明が点滅し、僧侶自身のスマートフォンの画面に、故人の死に顔(背景は雨)が鮮明に表示された。画面いっぱいに映し出されたその顔は、まるで生きているかのように見開かれた目で僧侶を睨みつけ、口元が「なぜ…」と動いているかのようだった。僧侶は思わずスマホを床に叩きつけたが、画面は割れもせず、ただ故人の顔を映し出し続けていた。


7月26日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。夜伽の間の異変により、僧侶は全身が水を吸ったかのように重く、疲労困憊であったが、読経を続けた。しかし、読経の最中、斎場の全てのディスプレイやモニターにノイズが走り、一斉に故人の死に顔(背景は雨)が映し出された。画面の中の故人の顔は、まるで雨に打たれて流れるかのように歪み、目からは黒い液体が流れ落ちているように見えた。その光景は、あたかも故人が、死の直前の苦しみを現世に映し出しているかのようだった。参列者たちはパニックに陥り、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。斎場長は放送で落ち着くよう呼びかけたが、効果はなかった。


7月27日 午前9時00分頃(出棺): 混乱の中、棺を霊柩車へ運ぶ際、田村斎場長は強烈な目眩と吐き気に襲われた。彼の眼には、斎場の窓ガラスに、雨粒と共に故人の死に顔が無数に浮かび上がり、斎場全体が、まるで巨大な水の棺に沈んでいるかのように見えた。彼は、その顔が自分をまっすぐに見つめ、「お前も…」と囁いているように感じたという。彼が棺に触れようと手を伸ばした瞬間、指先が凍るような冷たさと同時に、濡れて張り付く肉の感触に触れた。彼は意識を保つのがやっとの状態であった。佐藤僧侶は、その場で大量の水を吐き出し、意識を失った。


7月27日 午後1時00分頃(火葬完了): 火葬を終え、斎場に戻った田村斎場長は、突如として激しい呼吸困難に陥った。彼の全身は異常なほどに冷え切り、口からは大量の生臭い水が吐き出された。それは汗とは異なり、まるで全身の毛穴から水が滲み出ているかのようであった。彼は搬送された病院で、原因不明の肺水腫と診断され、数日間意識不明の重体となった。彼の意識が回復した後も、彼は常にスマートフォンの画面を見ることに異常な恐怖を抱き、雨の日に外出することを極端に恐れるようになった。佐藤僧侶もまた、肺に微量の水が確認され、回復後も携帯電話を持つことを拒むようになったという。


四、特異な点と考察

佐藤健太氏の不審な溺死と、その死の状況における「水」の不自然な関与、そして葬儀が雨の日に行われた点が、今回の怪異に深く関与している。

特に、参列者全員のスマートフォンに故人の死に顔が映し出された現象は、故人の魂がデジタル媒体を通じて現世に強く干渉し、自身の苦悶を共有しようとしたものと推測される。

彼の死の直前の「苦悶」が、「雨」という視覚的要素と結びつき、デジタルデバイスを媒介として現世に具現化したのではないか。

斎場での「ホールの湿気と空気の重さ」「スマートフォンの画面に一斉表示された故人の死に顔(背景は雨)」「斎場長と僧侶の体調不良」、特に「全身からの異常な水滴」や「肺水腫」、そして「電子機器や雨への異常な恐怖」といった症状は、故人の怨念が、彼を襲った「水」の苦しみをデジタルな「情報」として伝播させ、生者の肉体、特に体液の循環を司る部分、さらには精神にまで「侵食」していることを強く示唆している。

まるで彼の未練が、情報空間と現実空間の境界を曖昧にし、現代社会に深く浸透したデジタルデバイスを「窓」として、その恐怖を拡散しているかのようである。

読経や葬儀という「供養」の儀式が、かえって怨念を刺激し、斎場長や僧侶、ひいては参列者全体を危険に晒した可能性。

怨霊が儀式に抵抗し、それを妨害するために、彼らの身体、そして彼らが日常的に使用する情報機器に直接干渉したと考えられる。

特に、彼らの体から濁った水が噴き出したのは、故人が死の直前に感じた溺れるような苦しみと、情報に溺れる現代人の孤独を、彼らに追体験させたのではないか。

「斎場全体が水の棺に沈んでいるように見え、窓ガラスに無数の死に顔が浮かび上がる」という斎場長の幻覚は、故人の怨念が、彼個人の苦しみを越え、現代社会の闇に潜む、見えない「情報」と「水」が結びついた新たな形の恐怖へと変質しつつあることを示唆している。

その幻覚が「お前も…」と囁いたのは、誰しもが情報社会の犠牲になりうるという、現代に対する警鐘であるかのようである。

この怪異は、単なる精神的な影響に留まらず、肉体的な損傷、特に呼吸器系や体液循環機能への影響、さらには情報機器への広範囲な影響を伴う点で極めて危険であり、その浸食性と、情報社会における伝播性が最も恐るべき点である。

現代社会の脆弱性と、古来からの「水」の恐怖が結びついた、極めて現代的な怪異である。


五、対処・対策

斎場長と僧侶は健太氏の魂の安寧を願って葬儀を執り行ったが、彼の怨念はすでに彼らの理解と力を超えた存在となっていた。

事案後、田村斎場長と佐藤僧侶は一命を取り留めたものの、彼らの体調は常に優れず、雨の日に電子機器を見ると激しい動悸や吐き気を催すようになった。

特に、私物のスマートフォンを持つことを極端に避けるようになったという。

安穏斎場告別ホール「慈光」では、その後も雨の日に参列者のスマートフォンの誤作動が頻発するという報告が続き、現在は電波遮断措置を強化している。

この事案を重く見た斎場運営側は、特に若年層の不審死の場合、故人の情報がデジタル媒体に多く残されていることから、葬儀における電子機器の使用について、厳重な注意と、事前の確認を徹底するよう通達した。


六、付記

本件は、「現代社会に深く浸透した情報媒体が、故人の怨念を媒介し、広範囲に恐怖を伝播させた」という、極めて恐ろしい事例である。

極秘記録中の最重要記録として、今後のあらゆる事例の参考に供する。

佐藤健太氏の怨念は、彼個人の悲劇に留まらず、情報社会の負の側面が、水という根源的な恐怖と結びつき、その終わりなき浸食は、今もなお、我々が手にするスマートフォンの画面の奥底に深く刻まれている。

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