佐々木家凝視報告(平成12年11月15日)
【極秘】秘匿葬送記録:弐拾ノ巻
報告書番号: 平成12-11-15-020
作成日時: 平成12年11月16日 午前3時10分
報告者: 埼玉県狭山市 祥雲寺 住職 藤原 秀覚(花押)
事案名: 佐々木家凝視報告
一、事案発生日時・場所
日時: 平成12年11月14日 午後6時30分頃(通夜開式時)より、翌15日 午前11時30分頃(火葬場到着時)まで断続的に発生。
場所: 祥雲寺本堂(通夜・告別式会場)。
二、故人情報
氏名: 佐々木 悦子
享年: 78歳
死因: 老衰。
特記事項: 生前は地元の小学校で長年教師を務め、多くの教え子に慕われていた。しかし、晩年は認知症を患い、家族の顔も判別できない状態であったという。特に、生前に可愛がっていた孫娘(氏名:佐々木 美咲、当時12歳)に対して、病状が進行してからも異様なほど執着していたと、遺族は証言している。
三、事案の概要(時系列順)
11月14日 午後3時00分頃: 佐々木家より葬儀の依頼を受ける。故人が元教師であったことから、多くの参列者が見込まれる。当寺より住職 藤原 秀覚が担当。遺族との打ち合わせの際、故人の孫娘である美咲さんが、故人の遺体から目を離さず、どこか怯えた様子であることに気づいた。
11月14日 午後6時30分頃(通夜開式): 祥雲寺本堂にて通夜開始。読経中、参列していた故人の孫娘、佐々木美咲さんが、突然、故人の遺体安置されている祭壇を、まるで何かを凝視するかのように微動だにしなくなった。周囲の家族が何度声をかけても反応せず、ただ虚ろな目で祭壇を見つめ続けていた。その目は、まるで感情を失った人形のようであった。
11月14日 午後8時00分頃: 通夜振る舞いの最中、美咲さんは席を離れることなく、ずっと祭壇を見つめたままの状態が続いていた。その視線が故人の顔に固定されているように見えたが、遺影ではなく、あくまで棺に横たわる故人の遺体そのものに向けられているようであった。周囲の親族は、孫娘が祖母の死を受け入れられずにいると判断し、無理に引き離すことはしなかった。
11月15日 午前0時00分頃: 藤原住職が故人の傍らで夜伽を行う。静寂の中、美咲さんがまだ祭壇の前に座り込んでいることに気づく。声をかけようとした瞬間、美咲さんの顔がゆっくりと故人の顔に近づき、まるで何かを囁くかのように口を動かし始めた。しかし、声は聞こえず、ただ唇が不規則に動いているだけであった。その時、故人の遺体の口角が、微かに持ち上がったように見えた。
11月15日 午前8時00分頃(告別式開始): 告別式が始まる。読経中、美咲さんは再び祭壇を凝視し始めた。その際、美咲さんの座る場所の周囲だけ、異常に空気が重く、冷たく感じられた。美咲さんの頬には、いつの間にか乾いた泥のような汚れが付着しており、爪の先には、黒い土のようなものがわずかに挟まっているのが確認された。
11月15日 午前10時00分頃(出棺): 棺を霊柩車へ運ぶ際、美咲さんが突然、「行かないで…行かないでよ、おばあちゃん!」と叫びながら、霊柩車に向かって駆け寄ろうとした。家族が必死に押さえつけたが、美咲さんの力は尋常ではなく、複数人でようやく拘束できた。その間、霊柩車の後方、美咲さんが叫んでいた方向から、微かに「しーっ」と、故人の声に似た囁き声が聞こえたと、数名の参列者が証言した。
11月15日 午前11時30分頃(火葬場到着): 火葬場に到着し、棺が火葬炉へ運ばれる際、美咲さんは再び静かになった。しかし、火葬炉の扉が閉まる直前、美咲さんが故人の棺に向かって、口元を歪め、まるで恨みがましく呪詛を唱えるかのような表情で、無言で何かを言い続けているのが確認された。その場にいた家族は、美咲さんの行動を精神的な動揺によるものと解釈したが、住職は、その表情から深い憎悪のようなものを感じ取った。
四、特異な点と考察
故人が生前、認知症を患い、特に孫娘である美咲さんに異常な執着を見せていた点と、今回の怪異の関連性が極めて高い。故人の「執着」が、死後も美咲さんを縛りつけようとした、あるいは美咲さんの内面に「干渉」してきた可能性が考えられる。
美咲さんが通夜から告別式まで祭壇を凝視し続けたのは、故人の魂、あるいは何らかの「念」が、彼女の意識を支配していたためではないか。彼女の虚ろな目や、感情のない様子は、自我が一時的に失われていたことを示唆している。
夜伽の最中に見られた「美咲さんの口の動き」と「故人の口角の歪み」は、故人の魂が美咲さんを介して「何かを伝えようとした」、あるいは「美咲さんの言葉を模倣した」可能性を示す。
美咲さんの頬の「泥のような汚れ」や爪の「黒い土」は、故人が生前、あるいは死後、「土」に関連する何かと深く結びついていたことを暗示している。故人の晩年の様子や、介護の状況と関連があるのかもしれない。あるいは、美咲さんが故人の「墓」に近い場所に行ったのか。
出棺時の美咲さんの「尋常ではない力」や、霊柩車からの「囁き声」は、故人の魂が、美咲さんを「現世に引き留めようとした」、あるいは「美咲さん自身が、故人の死を拒絶しようとした」、双方の感情が絡み合って生じた現象と考えられる。
火葬場での美咲さんの「呪詛めいた表情」は、美咲さん自身が、故人の死、あるいは故人からの執着に対して、強い憎悪や抵抗の念を抱いていたことを示唆する。故人の生前の執着が、美咲さんにとって苦痛であった可能性も考慮すべきである。
五、対処・対策
事案発生中、藤原住職は、美咲さんの異常な行動が故人の魂、あるいは何らかの霊的な干渉によるものと判断し、読経と共に美咲さんの精神的な保護と、故人の魂が安らかに旅立てるよう、双方の苦しみを鎮めるための祈りを捧げた。
事案後、佐々木家に対し、美咲さんの精神的なケアを最優先するよう助言。特に、故人の執着が美咲さんに与えた影響について、専門家の介入も検討するよう強く促した。寺として、美咲さんの心の浄化と、故人への複雑な感情を解消するための特別な供養と、美咲さんへの加持祈祷を提案した。
今後、故人が生前に特定の人間に強い執着を示していた場合、その人物が葬儀中に怪異の中心となる可能性を考慮し、事前の詳細な情報収集と、対象者への注意深い観察、そして精神的な保護の体制を整えるべきである。特に、感情的な「結びつき」が、死後の怪異を複雑化させることを再認識した。
六、付記
本件は、故人の死因とは異なる、生前の人間関係における「執着」と、それが引き起こした「精神的な干渉」が顕著に現れた事例である。
特に、参列者、しかも故人に強く関係する特定の人物が、怪異の「受容体」となり、その人物の行動を通じて怪異が具現化した点は、今後の記録において極めて重要であると判断。
極秘記録とし、人間関係の複雑な感情が、死後の世界にまで影響を及ぼし、生者を巻き込む形で「現れる」可能性を示す重要な資料とする。
供養とは、単に死者の魂を鎮めるだけでなく、残された生者の心の闇をも見つめる必要があることを改めて肝に銘じるべし。
【検閲追記】
怪異の「伝播」が、血縁の若い娘に現れた事例。
頬の「泥」と爪の「土」は、物理的な接触による汚染を明確に示す証拠である。最重要警戒事項。




