第171話 もし君が遠くに行っても、俺が必ず…………
サバト様の依頼で魔女達を全員レベル10にして、猶予があった10日ほど、彼女達を連れて各ダンジョンに赴き、戦いの訓練に勤しんだ。
実はこの戦いには彼女達を戦い慣れさせるためという表の理由があったが、本当の裏の理由は別にある。
サバト様が人間を絶滅させるという言葉に、もしかしたらこれから魔女達との戦争が起きるかも知れない。
そうなると僕達は当然サバト様を止めなくてはならない。
その間、人々を魔女から守る存在が必要だ。その役目を僕達の仲間達に託す事にして、今は魔女達の戦いを観察している。
彼女達の動き、能力、力。それらを理解して、より彼女達に対抗出来るようにね。
「それにしても魔女という種族だけでも、凄まじい脅威だね」
「そうですね。勝率はどのくらいですか? ミリシャさん」
「う~ん。3%くらいかしら」
「低いですね」
「ええ。天地がひっくり返るくらいかしら」
「少なくとも大陸の半分は持っていかれますかね」
「そうね。半分で済めばいいけど……」
この先に戦いが待っているのかは分からないけど、もし彼女達との戦いなら、絶望しかないんだね。
その日を最後に僕達の研究も終わり、結果的に良いモノではなかった。
僕達は強くなった魔女達をサバト様の下に返す。不安と共に。
◇
◆サバトとフィリア◆
「娘。覚悟は決まったか?」
「はい。サバト様」
「それで? どっちに決めたのだ?」
「はい。私は――――――旅立つと決めました」
「ほぉ? 意外だな?」
「そうかも知れません。ですが、私は…………絶対に彼を守りたい。だから行きます」
「くっくっくっ。ソラを守るために離れるか。人間とは分からないモノよ」
「サバト様。人間である私を受け入れてくださりありがとうございます」
「構わん。確かにお前は人間だが、今まで見て来た人間とは違う。お前には人の心が宿っているからな」
「…………それは、お母さんのせいなのでしょうか?」
「恐らくはそういう事だろう」
「ですがそれも間もなく…………」
「お前の中にあるそいつが限界なのだろう?」
「そう……ですね。――――――サバト様」
「ん?」
「どうか、ソラ達をよろしくお願いします」
「ふん。言われるまでもない」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるフィリア。
最愛の夫を守るため。彼女は一人で向かう事を決意した。
そして、そんな事も知らず、ソラ達はその日を迎えるのであった。
◇
二十日後。
魔女達をサバト様に届けてから二十日が経過した。
いつ戦いが始まるか、眠れない日々を送っていたのだが、戦いが始まらないのならそれに越したことはない。
戦力を出来るだけ整えながら、その日が訪れない日々を願った。
「ソラ」
「フィリア? どうしたの?」
「えへへ~一緒に街に行かない?」
「ん? いいよ?」
フィリアが俺の右手に抱き付いて、そのまま家を出て行く。
最近、彼女がこんな風に言ってくる事がなかったので、少し珍しいなと思う。
きっと戦いがあるかも知れないから、ずっと気を張ってくれていたと思う。
街をゆっくり歩きながら、活気に満ちた人々を眺めていく。
「みんな楽しそうだね」
「そうだな。もう戦争もあらかた終わったのもあって、みんな平和を堪能しているのかも」
「…………そうね。やっぱり平和が一番よね」
「ああ」
「ねえ、ソラ」
「うん?」
「…………もしもだよ。もしも」
「もしも?」
「もしも、私が私じゃなくなったらさ」
「フィリアがフィリアじゃなくなる?」
「その時は――――必ず私を、殺して欲しい」
俺の腕から離れた彼女が少し前を走り、とても寂しい表情でそう話す。
「えっ!? フィリアがフィリアじゃなくなってどういう――――」
「ソラ? 約束してくれる?」
「…………」
フィリアがサバト様と何かを話し合ってるのは知っている。
二人切りで何度も話してる間、待っていたのだから。
最近の彼女の暗い表情って…………。
「ああ。約束するよ」
「えへへ~ありがとう~」
「ああ。必ず――――――――君を助けると誓うよ」
「ん? 何か言った?」
「いや。何でもないよ。それはそうと、フィリア? あれ食べない?」
「あ~! 食べたい~!」
屋台で売られている美味しそうな焼かれた串を一本買って一緒に食べる。
それが。
彼女との最後の食事となった。
その日。
世界に大きな衝撃が走る。
空の彼方から轟音が鳴り響いて、空に亀裂が走った。
「ソラ……約束。絶対守ってね」
「フィリア!?」
「えへへ…………行ってきます」
「っ!?」
そう話す彼女の身体から禍々しい魔力の波動が周囲に広がって行く。
「ソラ。大好き」
「フィリアああああああああああああああ!」
彼女背後に大きな力の存在が目視できるほどに形を保った。
そして、フィリアの表情が無くなり、その虚ろな瞳は既に彼女ではない事を感じるには十分だった。
「っ! お前は誰だ!」
「…………我はスサノオ。これより姉との盟約を果たす」
「待て! その身体はフィリアのモノだぞ!」
「否。この身体は遥か古くより、この日のために作られしモノ。姉はサバト・アヴァロンとの決着を求めている。楽園は終わりを迎え、お前達は塵と化すだろう」
「くっ…………させない…………絶対させない! 俺はフィリアの旦那で彼女と約束したんだ! 必ず……必ず彼女を助けてみせる! スサノオ! 覚えておけ! 世界の果てまで追いかけて彼女を助けてやる!」
「…………汝もまた囚われ人となるか。よかろう。我は真都エドにて待つ」
「真都エド……必ず行く」
フィリアの姿をした彼はそう言い残すと、身体を浮かせ空高く飛んでいった。
あまりの速度に追いつく暇もなく、空の彼方に消えるフィリアを俺は悔しい思いで睨み続けた。
けれど、泣いてる暇があるなら、そんな時間で彼女を助けに行きたい。
ずっと俺の隣で俺を支えてくれる彼女が教えてくれたから。
困ったらいつも助けてくれたから。
今度は俺が彼女を助けに行く番だ。
絶対に…………助けるから待っていて。フィリア。
日頃『幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。』を読んでいただき、心より感謝申し上げます。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




