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【完結】幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。  作者: 御峰。
五章後半『魔女』

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第168話 魔女王様

 八つの目が俺に注目する。


「アンナ」


「はい~」


「その()はいつからだい~」


「数日前からだよ~」


「ふぅん~ソラとやら」


「は、はい!」


「『変換の魔石』はもう見ているな?」


「『変換の魔石』……ですか?」


 初めて聞く名前なのだが……隣にいたアンナが口を開く。


「ソラくん~エリアの中心部にあるやつだよ~」


「あ! はい。精霊達が守っているクリスタルと呼ばれているモノですね?」


「精霊語でクリスタルと呼ぶモノじゃ。なるほど…………クリスタルも自由自在に出来るのか。くくくっ。中々面白い人間が生まれたモノだな」


 魔女王様は面白そうに笑い声をあげる。


「魔女王様? あのクリスタルは一体なんですか?」


 俺の質問に笑いをやめ、じーっと見つめてくる。


 すると次の瞬間、その視線が俺ではなく、俺の後ろに向くのが見えた。


「ん? お前、前に出てこい」


 魔女王様が指差したのは――――


「は、はいっ」


 俺の隣に立つフィリア。


「名は?」


「フィリアです」


「両親は?」


「いません……」


「孤児か?」


「はい」


「…………ふぅ~ん」


 俺を見つめていた時の魔女王様は面白い玩具を見るかのように楽しそうな目をしていた。


 なのに、フィリアを見つめる目は――――狩人の目だ。


 ほんの少しの敵意を感じられる。


「魔女王様? 私に何か問題でもございますか?」


「大ありだよ。何故お前のような()がソラと一緒に?」


「えっと、私はソラの妻です」


「…………」


 魔女王様の視線が俺に移る。


 フィリアの言葉の審議を確かめる為だろう。


「はい。フィリアは俺の妻です」


「…………ふぅ~ん。アンナ」


「は~い」


「フィリアだけ残して、ここにいる全員隣の部屋に案内しな」


「は~い」


 何かを考え込む魔女王様の命令には絶対に逆らわないようにと聞いている。


 妻を残してこの場を後にしたくはないが、少しでも彼女の逆鱗に触れないように、俺と仲間はアンナの案内で玉座の間を後にして、違う部屋に案内された。


 それにしても黒猫達も一緒に付いてくるのか…………全員と言えば魔女達も決して逆らわないし疑問にも思わないのかな。


「ソラくん。落胆しなくていいと思う」


「ミリシャさん?」


「恐らくだけど、フィリアちゃんの何かを見抜いたのかも知れない」


「見抜いた?」


 母さんが俺とミリシャさんの話に入ってくる。


「ソラ。サバト様の目はどう感じた?」


「魔女王様の目ですか? う~ん。不思議な目だなと」


「そう思えるのは、ソラが『精霊眼』を持っていて、あの目に耐えられたからだと思う」


「耐えられた?」


「ええ。サバト様は力は使わなかったけれど、あの目は――――魔眼と言われている絶大な力を持った瞳なの。サバト様は8種類の魔眼を操る『魔眼の支配者』として君臨されているわ」


 魔眼の支配者…………か。


 精霊眼も大きな力があると母さんから聞いている。


 その力で彼女の魔眼のプレッシャーから耐えられたのだろうな。


「サバト様の魔眼の一つに、『看破の魔眼』があると言われていて、精霊眼に非常に近い力を持っているようね。それを使ってフィリアちゃんの何かを知ったのかも知れないわ」


「フィリアの何か…………」


 俺の知らないフィリアの何かを見抜けたのか…………。


「もしソラがその気になれば、ソラも同じ事は出来ると思うわ。それこそ精霊眼の神髄(しんずい)なのだからね」


 フィリアの全てを知りたいと思っている反面、彼女に許可なく勝手に覗くのは違う気がする。


 それに魔女王様と何かを話し合っているはずだ。だったら尚更力で覗くのは違う。


「ありがとうございます。でも俺は待ちます。魔女王様と何かを話し合うでしょうから、フィリアが何かを教えてくれるまで」


「そう……それでいいと思うわ」


 母さんが優しく笑みを浮かべた。




 ◇




「ソラくん~」


「ん?」


「お城には紅茶もお菓子もないの~」


「そ、そっか」


「出してもいい~?」


「あ~いいよ!」


「わ~い! 他の魔女達の分もいいかな?」


「うん。沢山入れてあるから大丈夫だよ」


「わ~い! ありがとう~!」


 アンナっていつも気ままにいているし、恐怖の象徴でもある魔女なのに、実はこういう所はとても律儀だ。


 自由に使っていいと言っても、『アイテムボックス』を通すときは必ず仲間か俺に許可を取ってくる。


 本人が入れた分は自由に取り出しているけど、『銀朱の蒼穹』の物には決して手を出さない。


 もしかしたら、ここを離れて『銀朱の蒼穹』に入った時点で、それなりの覚悟を決めたのかもね。



 アンナが次々紅茶とお菓子を出してテーブルに並べる。


 俺達の分を出してくれると、次は魔女の仲間達の分を出して彼女達に配り始めた。


 黒猫達は姿を戻す事なく、闇の触手を使い、器用にコップとお菓子を持って食べ始めた。


 お菓子を一口かじると、黒猫達が「にゃ~!」と声をあげる。数十匹の猫の鳴き声が中々の迫力だけど、猫の鳴き声だからとても可愛らしい。


「すっごく美味しいでしょう~! 『銀朱の蒼穹』に来れば、毎日食べれるんだ~」


 あ、アンナがちゃっかり宣伝を……というかそんな宣伝して大丈夫なの? 魔女王様怒らない?




 俺達は黒猫達とともに、紅茶とお菓子を堪能しながらフィリアが帰ってくるまで時間を過ごした。

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