第148話 地底ノ暁の交渉
「国王の妹君でございましたか」
「はい。私はとある事情から城を出て『地底ノ暁』をやっています」
「かしこまりました。ですが……我々も慈善団体ではありません。それなりの報酬がなければ、味方になるのは難しいでしょう」
「はい。ただ私が出せるモノも限られています。ドブハマ家さえ何とか出来るなら、私が渡せるモノなら何でも渡しましょう」
「ふふ。かしこまりました。ではドブハマ家の失墜が達成した暁には――――――ここにいる皆さんの命を貰うとしましょう」
姫様達の顔色が驚きに変わる。
「それとも、それくらいの覚悟もないのでしょうか?」
「っ…………それならば、私一人ではいけませんか? こちらの――――」
「いえ、姫様。我々はどこまでもお供します」
「ハエラ…………」
「どうか我々を最後まで隣に置いてくださいませ」
「…………分かりました。ヒンメル様。ドブハマ家を失墜させられるなら、我々の命を差し出しましょう」
「ではこれで契約成立という事ですね。ヒンメルの名の下に必ずや達成してみせましょう」
「はい。信じています」
これでアポローン王国との接点をもう一つ手に入れる事が出来たね。
ただ、ドブハマ家を失墜させるのは中々難しいのだろう。
そうでなければ、こう王国に長年携わっている姫様達がここまで苦労しているはずはないから。
ルリくんが盗んでくれた証明書がちゃんと王様に働きかけてくれればいいのだけれど……。
【ソラくん~そろそろ始まるみたい~】
「そろそろ始まるようですね。私の仲間が中に潜入しているので、彼女達の連絡を待ちます」
「はい」
俺とルリくんが木々の上に移動すると、姫様達も上に上がって来る。
王様の妹なんだから厳密に言えば姫様ではないんだけど、ハエラさんが姫様と呼んでいるから姫様と呼びたくなる。
そのまま機会をうかがっていると、後方から大勢の気配を感じる。
「団長。戻って参りました」
「っ!?」
驚く姫様達の先に、『シュルト』衣装の『シュベスタ』と250人の漆式メンバーが見えた。
「お帰りなさい。シュベスタ」
「全員、いつでも戦えます」
「素晴らしい。こちらは新しい依頼人のリサ様という」
「リサ様。シュベスタと申します。以後お見知りおきを」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
「団長。ここに来る間、王城から例の集団がこちらに向かっているのを確認しました」
「ほぉ…………動いてくれましたか。雰囲気的に我々に敵対は?」
「全くないかと」
「いいでしょう。王城からの使者は私が対応しましょう。シュベスタは漆式を連れて初陣を果たしてください。中に『フロイント』が待機していますから」
「かしこまりました」
どこからともなく風が吹いて、周囲の木々を揺らす。
葉と葉がこすり合う音が響く中、シュベスタ達がその場から消え去った。
「ブルーダーはここでリサ様の護衛を」
「はっ」
「私は王国軍を迎え入れましょう」
姫様に軽く会釈してその場を後にする。彼女は少し引き攣った笑みを浮かべていたけどね。
ドブハマ家へ続く道で真ん中で待っていると、道の遠くから大勢の足音が聞こえる。
月明かりに照らされて俺を見つけた彼らが足を止める。
「初めまして。『シュルト』の団長『ヒンメル』と申します」
「団長!? なるほど…………聞いていた通り、不思議な衣装と仮面を被っているんだな」
「はい。我々は闇に生きる者でございます。素顔に未練はありませんが、ケジメと思って頂けたら幸いです」
「うむ。俺は国王陛下の守護騎士7人のうち1人、キュバトスという」
「キュバトス様でございますね。よろしくお願いいたします」
キュバトス様も頷きで答える。
「現在、私の仲間が内部から捜査を進めております。屋敷の近くで暫く待機して頂けますか?」
「良いだろう。貴殿の指示に従おう」
「感謝致します」
キュバトス様達を連れ、森の移動し、兵士達が隠れそうな場所で待機する。
それにしてもドブハマ家の周囲だけこういう森が広がっているのも不思議だなとずっと思っている。
「ドブハマ家にはいつも苦汁を飲まされ続けた。貴殿には期待している。我が王も全面的に信用するよう言われている」
「はい。結果で示しますので、ご期待ください」
キュバトス様は期待の眼差しでドブハマ家の屋敷を見つめた。
【ソラお兄ちゃん~漆式の準備が終わったよ~】
【分かった! 例の会場が始まったら、こちらも動く事にしよう】
【あ~い!】
準備が整い終わり、現場を抑えるだけかな?
現場を抑えるために、会場が開かれるまで闇夜に紛れて、じっと時を待つ。




