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【完結】幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。  作者: 御峰。
四章『ソグラリオン帝国』

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第129話 第一次アクアソル王国戦争後

 アクアソル王国と帝国の戦争が一時的に終わった。


 既に帝国側にはワンド街の事やアクアソル王国の件、此度の戦争の大敗も伝わっている。


 それは帝国だけでなく、アポローン王国やゼラリオン王国にも伝わっているはずだ。


 シュランゲ山脈に囲まれてしまったアクアソル王国。


 このまま放置しておくと、間違いなくアクアソル王国は崩壊を辿るだろう。


 一番大きな理由は、麦畑から麦しか取れない事だ。


 シュランゲ山脈も植物が生えているような山脈ではないので、食料の確保が厳しいのだ。


 アクアソル王国が帝国に牛耳られていた最も大きい理由こそが食料問題だったりする。


 帝国から食料を売って貰えないと、アクアソル王国民達の食料が確保出来ない。


 だからアクアソル王国としては、食料に――――主に肉が豊かに生産できるレボルシオン領をまとめている『銀朱の蒼穹』を高く評価していたとの事だ。


 女王様曰く、海にも魚が釣れるらしいんだけど、中には海の魔物がいて、襲われたりするから魚も現実的にはないそうだ。


 ではこれからどうするのか、一つ案としてはラビの力を借りて山脈を飛ぶ案だったんだけど、俺がいないと上手くいかなさそうなので没となった。


 もう一つは、アクアソル王国に『銀朱の蒼穹』のメンバーを置けば、食料を自由に売買出来るようになる。


 どうやって食料を運ばせるのかは伏せているが、アクアソル王国側としては全面的に信頼してくれて、お互いの売買も全て『銀朱の蒼穹』に任せるとの事だ。


 もう俺達は運命共同体みたいな所があるので、悪いようにはしない。


 アクアソル王国から出すのは、収穫出来る麦、王都の観光、豊かな果実水だ。


 それらを買い込んで、対価として彼らが欲しがるものは基本的に全部渡す予定である。


 アクアソル王国には孤児がいないので、『銀朱の蒼穹・伍式』のメンバーを募集出来ない。


 ――――と思っていたら、弐式や肆式の戦えないメンバー達を伍式として商売向けにしないかという案が出された。


 弐式や肆式の戦わないメンバーも快く承諾したので、その案を採用し、伍式のみんなはアクアソル王国の王都北側にある元王家の休暇地を改造して、『銀朱の隠れ家』という場所に開発を進め、伍式はそこを拠点に活動する事になった。




 『銀朱の隠れ家』を作っていた一か月。


 帝国はアクアソル王国に向けて、全面的宣戦布告を行ったが、攻め入る方法はないだろう。


 肆式の中の諜報部隊から各国の動向を探る。


 まずゼラリオン王国は今回のアクアソル王国の戦争を知り、より多くの兵を『シカウンド地域』に滞在させている。


 食料が豊かに確保出来る上、前回の戦争で大量の慰謝料を受け取っているゼラリオン王国は、これから帝国の攻撃があると踏んでの決断だ。


 次はゼラリオン王国の西側にいるミルダン王国及びエリア共和国はゼラリオン王国に搾り取られ財政状況は最悪をたどっている。


 余談だが、エリア共和国は首相と呼ばれている代表が処刑になったり、ミルダン王国も多くの貴族から王家が反発を食らっているので、ここからゼラリオン王国に戦争を仕掛けるのは不可能だ。


 東の魔女の森からは、こちらが落ち着いた頃に魔女王様に会いに来いと言われているので、心配はない。


 アンナ経由なのもあり、魔女王様もこちらの言い分をある程度聞いてくださる雰囲気だ。今すぐ連れて行かれたらと不安に思っていたけど、どうやら魔女王様としては俺を手に入れるよりは、協力を取り付けるのが目的ではとミリシャさんと予想している。


 では、肝心な帝国は現在どうしているのか。


 一つは南のアポローン王国との戦争が始まっているが、意外にもアポローン王国に押されていて戦争が長引いているそうだ。


 そのもっとも大きな原因がアクアソル王国の戦争にあったりする。主戦力の一つだったグンゼムの部隊がまさかの全滅を期したからだ。


 そういう事も相まって、帝国は現在、劣勢な状況に陥ってるのはいうまでもないだろう。




 ◇




 帝都城、玉座の間。


 戦争で敗北が続き、北側のアポローン王国との戦争も長引いている所為で、玉座の間に重苦しい空気が流れている。


 その時、一人の男が玉座の間に入ってくる。


 玉座の間には帝国を代表する面々が控えているが、入って来た彼を見た全員が驚きの表情を見せ、畏縮し始めた。


「陛下、お久しぶりでございます」


 本来なら帝王の前に跪くのが習わしだが、男は跪く事なく、堂々と帝王を正面から見つめた。


「珍しいな。お前が出てくるなんて」


「…………アクアソル王国が反旗を翻したと聞きましたが?」


「ああ、グンゼムとあの一帯の領地を任せていたアヴィンも死んだ。アクアソル王国に唯一繋がっている道も既に封鎖されている」


 現状を帝王自ら説明する。


 しかしその光景に誰一人口出す事など出来なかった。あの宰相でさえ何も言わずに二人を見守る。


「陛下、アクアソル王国とあの一帯は私が貰いますが、それでもよろしくて?」


「…………仕方あるまい。お前がわざわざここまで出て来たのならな」


 帝王の鋭い眼光が男を睨む。


「……陛下も私が出てくると分かっていたのでは?」


「アクアソル王国がまさか道を陥落させて封鎖したからな。打てる手はお前だけになった」


「もう一つ。南のアポローン王国ですが」


「…………分かっている。戦争は中止させよう」


「ありがとうございます。では時間ももったいないので、行かせていただきます」


 そう言い残し、男は玉座の間を後にする。


 彼がいなくなった玉座の間に安堵する者も多かった。


「陛下……リントヴルム家に任せて宜しかったのですか?」


 恐る恐る宰相が帝王に聞く。


「仕方あるまい。やつがここまで乗り込んだくらいだ。此度の戦争は我々の負け(・・)だ」


 宰相は今し方に玉座の間を後にした男が消えた入口を睨み返す。


 燃えるような赤い髪と、睨むのもを全て飲み込むかのような赤い瞳に帝国で逆らえる者は誰一人いない。


 帝王でさえ恐れをなしているのは、帝王の母方の従弟に当たる男で、帝国一番の権力を持っているリントヴルム伯爵である。


 リントヴルム家は代々特別な力を持って、大陸唯一の飛竜を扱っており、帝都さえたった数時間で滅ぼせるほどの最強戦力であった。


 その事から、帝王でさえリントヴルム家には逆らう事が出来ずに、穏便に話を進めるのであった。


 かのリントヴルム伯爵は、正義を重んじる数少な帝国の英雄として絶大な人気を誇っているが、その分帝国内の貴族に敵が多く、もはや独立していて一人の王として君臨している。


 そんな帝国最強戦力がアクアソル王国に矛を向けようとしていた。

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