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【完結】幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。  作者: 御峰。
四章『ソグラリオン帝国』

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第128話 転職士達の決意

 大勢いた帝国軍に、ワンド街の支配者だったエヴィンも『エンペラーナイト』であるグンゼムも、もうこの世には生きていない。


 シュランゲ道からワンド街に辿り着くと、街を守っていたごく僅かの兵士達が悲鳴をあげる。


 グンゼムもエヴィンも亡くなった事を告げ、無条件降伏を告げるとすぐに聞き入れてくれた。


 これだけのアクアソル王国軍を少数の兵士達だけで対応するのは、ほぼ不可能に近いだろうから良い判断だと思う。


 俺達はエヴィンの屋敷を大魔法で吹き飛ばし、軍部の施設も大魔法で吹き飛ばした。


 民には一切手を加えていないし、中に誰もいない事もしっかり確認している。


 今度はアクアソル王国に向けられている門を破壊する。


 爆音と共に門が崩れ去り、ワンド街とシュランゲ道を繋げていた扉は閉ざされた。


 俺達はそのままワンド街を後にして、アクアソル王国に戻る中――――両山脈に大魔法を放ち、シュランゲ道の両脇に高くそびえ立つ山を破壊して崩した。


 それをシュランゲ道の全ての場所で繰り返す。


 これがミリシャさんが考案した『アクアソル王国と帝国の絶縁』を意味させる作戦である。


 元々高くそびえ立つシュランゲ山脈に兵を進める事はほぼ不可能に近い。


 それに、仮に乗り越えたとしても、アクアソル王国から山脈はどこでも見えるから真っ先に敵軍を察知出来るだろう。


 なので、アクアソル王国を帝国から離すには、シュランゲ道を破壊するしかないと判断した。


 これも全て女王陛下の承諾の下でやっている。


 魔導士組に頑張って貰い、シュランゲ道が崖崩れにより土砂で埋め尽くされ、とてもじゃないが人が通れる道ではなくなった。


 もしこの道を修復しようと思うと数年はかかると予想される。


 帝国としてはアクアソル王国に攻め入りたいだろうけど、あの山脈を越えてまでは来ないだろう。


 ただ、『エンペラーナイト』単騎で攻め入る事が考えられたり、向こうの転職士が攻めてくるかも知れないけどね。


 ――――と、そんな事はさておき、シュランゲ道の封鎖が終わり、俺達は王都に帰還した。

 

 そして、王都民達が待ちわびた終戦の祭りが始まった。


 中々激動な一週間に、あまり深く眠れなかった俺達は祭り後、泥のように眠った。




 ◇




 帝国のとある屋敷。


「アース様。訪問感謝申し上げます」


「よい。俺が好き勝手に来ているだけだ。お嬢には会えるか?」


「はっ……いつも通りでしたら……」


「構わない」


 アースは執事の案内でとある部屋に向かう。


 部屋は綺麗に整理整頓が整っており、清潔が保たれている。


 部屋内から大きな窓に向かって揺り椅子(ロッキングチェア)がゆっくり揺れていた。


「失礼する」


 アースはそう話すと、椅子の隣に向かう。


 その椅子には一人の女性が感情がないような目で外を眺めていた。


「本日も報告があってきた」


 アースの言葉に一切の反応も示さないが、アースはやめる事なく話し続ける。


「このたび、『玉砕のダンジョン』で最奥まで進めた。これで貴方との約束(・・)を一つ守れた報告だ」


 アースの口から約束という言葉が出ると、女性の虚無に包まれている瞳に、若干の生気が灯るが無表情のまま外を眺める。


「それと今日はとびっきりのプレゼントがある」


 そう話すアースは、彼女の前に跪いた。


 そして、既に先がない(・・)腕を見つめる。


 彼女の名前は『デイジー・インガルマ』。


 名門インガルマ家に生まれ育ち、上級職能『上級騎士』を開花した彼女は、帝国内でも高い評価を得ていた騎士の一人だった。


 しかし、アースのわがままにより、レボルシオン領を目指した時、『銀朱の蒼穹』と鉢合わせになりアースを生かすために逃げた時、ルリに両腕を切断された彼女である。


 彼女は二度と剣を握る事が出来ず、容姿もそれほど目立つものがなく、通常生活ですら困難な状況に陥った。


 そんな彼女は婚約も破棄され、今や廃人のように過ごしている。


 アイザックの部下であったのが幸いし、彼女はこれから一生アイザックの支援により生活の安泰が約束されているのがせめてもの救いである。


 そんな彼女にもっとも罪を感じているのは、言うまでもなくアースである。


 アースは時間がある度に、廃人と化している彼女にこうして声をかけにくるのだ。


「勝手ではあるが、先日約束した通り、俺のレベルが上がり、遂に上級職能を授けれるようになった。俺は……ずっとこの日を待ちわびていた! 貴方に……もう一度羽ばたいて欲しい!」


 アースの声が彼女に響く。


 彼女の瞳に少しずつ生気が戻る。




「俺の新しい力で、貴方の職能を『上級騎士』から『精霊騎士』に変える事が出来る! 『精霊騎士』は文字通り精霊を使役して戦う職能だ! 貴方は『精霊騎士』となり、その力をもう一度磨けば、精霊を使いもう一度剣を握れる!」




 アースの必死な声に、彼女の視点が少しずつ戻り、その瞳がアースを捉える。


「ここまで待たせて申し訳なかった。でもこれで終わりだとは思わない! 貴方に『精霊騎士』を授けた後は…………俺は次の戦場に行かねばならない。そこで貴方に…………デイジー・インガルマにお願いがある!」


「…………」


「どうか希望を捨てず、もう一度『精霊騎士』となって欲しい、そして――――――この戦いが終わったら、俺の――――――妻になって欲しい」


「!?」


 アースの声が部屋に木霊する。


 少しずつ彼女の瞳に生気が戻り、その瞳に大きな涙が浮かぶ。


 アースはそんな彼女を見つめながら、ぎこちない笑みを浮かべ、指輪が入った箱を渡す。


「まだ受けてくれとは言わない。だが、俺も一人前の騎士となって戻って来る! それまでに、どうか、希望を捨てずに生き続けて欲しい」


「あ…………あ……」


「よい。無理して話す必要はない。俺は貴方がこうして少しでも生きる気力を戻してくれただけで十分だ」


 少しずつ希望を胸に抱いた彼女は、言葉を口にするがずっと眠っていた身体は思い通りには動かない。


 アースは優しく彼女の先がない両腕をしっかり掴み、『上級職能転職』を使い、彼女の職能を『上級騎士』から『精霊騎士』に変える。


 彼女も承諾し、二人は輝かしい光に包まれる。


「最初は慣れない事も多いだろうけど、少しずつ慣れていけばいい。今度帰って来た時は、一緒に庭を歩いてくれると嬉しい」


 アースに「ありがとう」を伝えたい彼女だったが、言葉を発する事が出来なかった。


 彼女に「気持ちは伝わっている」と話したアースは、少しの間、彼女との時間を過ごした。




 そして、新しい戦いの場に赴くアースであった。

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