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【完結】幼馴染『剣聖』はハズレ職能『転職士』の俺の為に、今日もレベル1に戻る。  作者: 御峰。
四章『ソグラリオン帝国』

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第127話 ワンド街の戦い

 レベルが既に10になっている俺達は、馬や馬車に乗り込むより、走った方が早い。


 走ればそれだけ疲れが溜まるけれど、帝国軍の再編を待った方が大変になるはずだ。


 山脈の上からの魔法による砲撃はもう使えない。


 いや、使おうと思えば使えるけど、それではワンド街にも深刻なダメージを与えてしまう事になる。


 帝国軍は敵でも民を傷つけるつもりはない。


 道を進むと、地獄絵図だった帝国軍も既にワンド街に戻っているようだった。


 けれどワンド街の残兵の戦える人数が少なすぎる気が……?


「ソラ兄さん」


「ルリくん、ルナちゃん。怪我はしてないね?」


「うん!」


「俺も大丈夫!」


 二人共大きな傷もなく、むしろ衣装に傷一つ付いていないね。


 もしかしたら、深追いはせずにいてくれたのかも知れない。


「アクアソル王国に攻めてきた帝国軍は騎兵が500、歩兵が2000だったよね? 騎兵は全滅しているから、歩兵はあとどれくらいなのだろうか? 砦前で半数は減った気がするけど」


「ソラ兄さん、歩兵は全滅しているよ」


「へ?」


「ルリくんと私が全員やっつけたよ~、お兄ちゃん~褒めて褒めて~」


 ルナちゃんが俺の目の前で小さくぴょんぴょん跳ねる。


 とにかく言われた通りに頭を撫でながら褒める。


「えっと……全滅って?」


「逃げたのは大体千人くらいだったから、ルリくんと私が全員処分しておいたよ~」


「ぜ、全員!? 千人を!?」


「えへへ~、頑張ったよ?」


「ソラ兄さん、ガイアさんが作ってくれたダークドラゴンの『竜麟糸剣』の力が大きかったよ」


 そう話すルリ君の周囲に、光を受けて輝く糸がふわりと浮かび上がる。


 無数に浮かんでいる糸は、一つ一つは最上級の硬さで、ダークドラゴンの竜麟を極細にまで細めて作れる代物だ。


 アサシン御用達武器らしいけど、ダークドラゴンの糸剣はルリくんとルナちゃんしか使いこなせないので、二人の専用武器となっている。


「ルリくん、ルナちゃん、お疲れ様。後方の殲滅ありがとう~」


 ミリシャさんはさも当たり前のように二人を労う。


「俺達はまだ戦えます! 肆式と共に次の作戦を決行します!」


「ルリくん、少し待って。予想していた作戦と違って、『エンペラーナイト』が出陣しているの。既にフィリアちゃんに斬られているんだけど、これはある意味良い方に転んだのかも知れないわ」


「良い方に?」


「恐らくだけど、ワンド街にいる領主のエヴィンは、グンゼムの勝利を確信しているはずなの。そこを敢えて逆手に取ろうかなと思って」


「逆手に取る?」


 ミリシャさんは怪しい笑みを浮かべて、次の作戦を告げた。


 元の予定としては、ルリくん達と肆式で逃げた帝国軍を暗殺しつつ、『エンペラーナイト』を焦らせる作戦だったけど、そこを大きく変えて、目標を領主に変更させた。




 ◇




 ワンド街の屋敷。


「くっくっくっ、そろそろアクアソル王国の砦が崩壊している頃だろうな」


「はっ、グンゼム様の圧勝で違いないと思います」


「これでグンゼムへの貸しが無くなるが、それでアクアソル王国が手に入るなら問題はない。あの地に広がる麦畑が全て私の手中に治める事が出来る! これで帝国内でも一、二を争う豪商にもなれるだろう!」


 屋敷にエヴィンの上機嫌な笑みが響き渡った。




 次の日。


「エガン!」


「はっ」


「定期連絡は入ったか?」


「い、いいえ……」


「ちっ、グンゼムの奴、アクアソル王国で遊んでいるな?」


「恐らく王都を襲っているのだと思います」


「あれは女好きだったな。今頃お楽しみって所か…………そういや、あの国の女王も美人で有名だったな?」


「はっ、出発なされるグンゼム様も喜んでおられました」


「ふん。まあいい。あいつが負けるはずもない。このまま待つとするか」




 二日後。


「エガン!」


「はっ」


「グンゼムの奴からの連絡は来たのか!?」


「そ、それが……一切届きません……」


「…………送った密偵はどうなった?」


「誰一人帰って来ません……」


「ちっ、どれも使えないやつばかりだな。アクアソル王国でそれほど楽しんでいるのか? ――――エガン! お前がその目で確認して来い!」


「かしこまりました」


 焦るエヴィンは一番の腹心であるエガンを投入する。


 彼に二度と会う事が叶わないとも知らずに。




 さらに二日後。


「くっ! どうしてエガンも帰ってこない! こうなれば……私が直々に向かってやる!」


 エヴィンは残り兵を全員連れて、ワンド街を後にする。


 そのまま真っすぐアクアソル王国領に入ると、砦には誰もいなかった。


 その状況にアクアソル王国が既に負けている事を確信したエヴィンは更に兵を急がせ、王都に入る。


 王都はもぬけの殻のような静けさが広がっていた。


 きっと王城に全員押し込めて遊んでいると思ったエヴィンは迷う事なく城に入って行く。






 その後、彼の姿を見た者は誰一人といない。




 ◇




「ミリシャさんの作戦も決まって、ワンド街も無傷で帝国軍を殲滅出来ましたね」


「ええ。後は次の作戦を決行しましょう」


 玉座の間に集まった俺達は、次の作戦を決行しようとした。


「女王陛下、次の作戦、決行しても宜しいですね?」


「はい。我々はこれから『銀朱の蒼穹』と共に生きて行きます。どうか、次の作戦を実行してください」


「分かりました。みんな! 女王陛下の決意を無駄にしないために、これからあの作戦を決行する!」


「「「「「おー!」」」」」


 俺達はアクアソル王国の王城を後にして、シュランゲ道からワンド街を目指した。

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