魔法の講義
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「魔法石についてって、どういうことですか?」
シェイラは首を傾げた。
魔素を含んだ鉱石であることくらいは、一応知っている。特殊な加工を施せば、蓄えられた魔素を動力に様々な働きをすることも。
「君達は、魔法石にも種類があることを知らないようだからね」
「種類って、さっき言ってたように安いか高いかってことですか?」
さすが抜け目のないゼクスは聞き漏らしていなかったようで、すぐに答えを返した。優秀な聞き手に、ヨルンヴェルナは満足げだ。
「その通り。魔法石は、溜め込める魔力量によって値段が付けられているんだ。含有量の多いものは、比例して稀少にもなってくるしね」
説明しながら、彼は軽やかに立ち上がった。
テーブルと同じく整理の行き届いていない棚から、迷わず何かを選び取っていく。適当にひしめいているようで、ヨルンヴェルナにしか分からない規則性でもって並んでいるのかもしれない。
テーブルに置かれたのは、手の平に載る大きさの石達。赤や青、どれも鮮やかな色彩を放っている。
宝石と決定的に異なるのは、神秘的な揺らめきが内包されていることだった。まるで生命力そのもののような力強さを感じる。
「スゴい、綺麗……」
「満月の夜に魔力を帯びた光を放つ月光石、火山の火口でのみ採れる火紅石、普通の水晶の中に、ごく稀に魔力を内包して生まれる水星石。この辺りが純度の高い魔石だね。灯りに使われるような魔力の少ないクズ魔石とは違って希少価値も高い。発見次第国に申請しなければならないって決まりは、君達も知っているよね」
シェイラもゼクスも、おざなりな首肯しか返せなかった。それほどまでに魔法石は魅力的だった。
「ゼクス、君の家では魔法石を扱わなかったの?」
「魔法石は高価だし、加工前のものは貴族以外にほとんど需要ないからな。家業の手伝いで似た大きさの宝石くらい見たことあるけど、ここまでの迫力はなかったな……」
惚けた顔で頷き合う少年達を面白そうに眺めながら、ヨルンヴェルナは説明を続ける。
「採掘された場所や種類は、魔法石の属性にあまり関係ないんだ。火紅石には火の属性が多いとか、偏りはあるけれどね」
「属性って、せい……魔法にもあるヤツですか?」
精霊術と言いかけ、慌てて修正する。地水火風に闇と光を合わせた六属性があることは、精霊術の基礎。シェイラでも当たり前に知っている。
ちなみに地には火、火には水。水には風、風には地が強いとされている。光と闇は相剋関係で、四大元素の属性より上位だ。
光と闇の精霊は存在自体が珍しく、特に闇の精霊術は使ったことさえなかった。夢や精神分野を司る術なので、そもそも短絡的なシェイラとは相性が合わないのだ。
その辺りのことをヨルンヴェルナに話せば今回のお礼になるかもしれないと考えながら、講義に思考を切り替えた。
「魔法石は、属性によって色が変化するんだよ。だから一口に火紅石と言っても、外見は様々だね」
「それだと、どれがどこで採れた石なのか、分からなくなっちゃいそうだな……」
シェイラの何気ない呟きを拾ったヨルンヴェルナが、嬉しそうに目を輝かせた。
「珍しく着眼点がいいね、シェイラ君」
「いちいち『珍しく』って言う必要ありますか?」
「確かに色がバラバラなら、見分けが付かないように思えるよね」
「うわ無視だ。お料理教室の時のゼクスの気持ちが今更分かる」
地味に傷付いていたシェイラを、ゼクスが半眼で睨み付けた。
「わざわざほじくり返して、お前馬鹿にしたいだけだろ。しかも薬草茶作っただけで料理とか、おこがましいんだよ」
「失礼だなぁ。僕は意外にも料理男子だって、前に証明してみせたはずだよ?」
「自分で意外って言うな」
低次元な言い争いに終止符を打ったのは、ヨルンヴェルナがいかにも面倒そうに手を叩く音だった。
「はいはい君達、一生戻って来られない方向に話が脱線しているよ。どうしてもと言うなら今度料理対決でも開催すればいいことでしょう? 今は講義に集中しなさい」
生徒二人は慌てて居ずまいを正した。
ヨルンヴェルナは、見本の魔法石を指し示した。
「こちらの真紅の石が水星石で、星を秘めたような輝きが特徴だよ。この蒼色の石が火紅石。揺らめく炎のようだろう? ちなみに先ほど言った通り、月光石は満月の夜にしか発光しないという特性で見分けることができるね」
目の前の石とヨルンヴェルナの言葉とを比べて、シェイラは驚きの声を上げた。
「えっ? この赤い方が水星石で、青い方が火紅石なんですか?」
名前の印象から、てっきり逆だと思っていた。隣でゼクスも無言のまま驚いている。
「ここに用意した火紅石は水属性で、水星石は火属性だからね。分かりやすい対比だろう?」
「本当ですね。分かりやすいし、スゴく面白い」
魔法について本当に理解できるのかと少し不安もあったが、一気に興味を惹かれた。これがヨルンヴェルナの教え方の巧みさだ。
彼は変人だが、平民だからと蔑んだり、貴族に対する時と態度を使い分けたりしない。だからシェイラも何だかんだ信頼しているのかもしれなかった。
そしてそれはきっと、ゼクスの心にも響くだろう。楽しそうに講義に聞き入る友人を横目で確認し、シェイラは小さく微笑んだ。
あっという間に時は過ぎ、外が暗くなり始めたためにようやく講義が終わった。
慌てて辞そうとしたところで、先を行くゼクスが急に立ち止まる。
「ヨルンヴェルナ先生、ありがとうございました」
彼はヨルンヴェルナをしっかりと見据え、深々と頭を下げた。挙措の全てから尊敬の心がひしひしと伝わってくる。
「先生の講義は、とても分かりやすくて面白かったです。本当に興味深くて楽しかった。他の先生の、どの座学よりも」
『魔術による戦闘訓練』は五年生からなので、ヨルンヴェルナの講義はゼクスにとって初めての経験だった。毎日のように補習を受けているシェイラと違って新鮮だろう。
感銘を受けるのも当然だろうし、印象がガラリと変わったはずだ。
「厚かましいですけど、またぜひ、よろしくお願いします」
ゼクスは笑顔で告げると、再び頭を下げてから今度こそ部屋を辞した。シェイラも続こうとしたが、言い忘れていたことを思い出して足を止める。
「そうだ。今日、ゼクスを突然連れてきちゃって、すいませんでした。一応許可はもらってたけど、事前に連絡するべきでしたよね」
友人に比べあまりに気安い態度で謝りながら、シェイラは振り返る。するとヨルンヴェルナは、なぜかひどく無防備な様子で立ち尽くしていた。
貴族らしく感情を表に出さない彼は、いつも妖しく優雅に微笑んでいる。だが時々こんなふうに、あどけなささえ感じる表情をするのだ。
物珍しさからまじまじと眺めていると、彼もどこか不思議そうにシェイラを見つめ返した。
「……君はまるで、扉だね」
「?」
首を傾げ、触れたままの扉を振り返る。木目調の扉を見ても彼の真意は微塵も理解できなかった。
「変な感じ。世界が広がっていくみたいだ」
ポツンと呟く声も頼りなげで、シェイラは怪訝に眉を寄せた。
「よく分からないですけど、世界って元々広いものでしょう?」
単純で当たり前の答えを返すと、ヨルンヴェルナはゆるゆると瞳を見開いた。紺碧の瞳が星空のように輝くが、なぜそんなに驚くのか分からない。
「――――――――凄い。本当だ」
「いや、今初めて気付いたみたいに言われても」
「君ってもしかして天才なの?」
「ヨルンヴェルナ先生に言われると、さすがに嫌みにしか聞こえません」
嬉しそうな笑顔にも皮肉を感じてしまい、シェイラは肩をすくめるとすぐにゼクスを追いかけた。




