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男装少女は騎士を目指す!  作者: 浅名ゆうな
第四章

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冬も努めて!

おはようございます。(^^)


評価、ブックマーク、ご感想をたくさんいただきました。

久しぶりにジャンル別のランキングに引っ掛かっているのを見て、とても嬉しくなりました。


いつも読んでくださり、本当に本当にありがとうございます!m(_ _)m

 冬の間、シェイラは稽古と同じくらい勉強にも力を入れていた。

 ヨルンヴェルナとクローシェザードが集中的に講義をしてくれるおかげで、めきめきと成長している実感があった。

『古代語の難しい文法や表現も、理解できるようになってきたね』

『文法は現代語と変わらないから何とかなりました。ヨルンヴェルナ先生のせいで、卑猥な言葉も一緒に覚えてしまいましたけどね』

『それはぜひ、君の小鳥のような可愛らしい声で聞かせてほしいな』

『変態発言をするつもりはありません』

 古代語でのやり取りも慣れたもので、もはや日常会話並に操ることができるようになっていた。

「とはいえ、ここまで話せるようになったのはヨルンヴェルナ先生のおかげですね。そこだけは素直に感謝してます」

「何だか嫌みな言い方だけれど、書き取りはまだ完璧とは言えないから講義を続けるよ」

「はーい…………」

 もしや今日はこれで解放してもらえるかもと思っていたが、甘い考えだったようだ。

 相変わらず、古代語はミミズが這っているようにしか見えないままだった。現在使われている公用語を読めるようになっただけで、シェイラにとっては劇的な成長なのだが。

 ――現代の公用語もミミズにしか見えなかったわけだから、古代語もいずれスラスラ読めるようになるのかな……?

 ヨルンヴェルナの出題した難解な問いと格闘していると、彼はふと口を開いた。

「近い内に、以前約束していた魔法についての講義をしようか」

 迷路に迷い込んでいたような思考が、一気に明瞭になる。シェイラは素早く身を起こし、教壇に立つヨルンヴェルナを見返した。

「いいんですか?」

 聞き返しながら、そういえばそんな約束をしていたと思い出す。シェイラは何度か実験に協力しているので、彼の交換条件をしっかり満たしていた。

 ヨルンヴェルナは含みのある笑顔で頷いた。

「君には、何かとお世話になっているからね」

「教師が生徒のお世話になっていること自体おかしいと思いますが、ヨルンヴェルナ先生の発言なので聞かなかったことにします」

「本当に僕の扱いが粗雑だなぁ。これはこれで新しい扉が開きそうな気がして興奮するけれど」

「それは絶対開いちゃいけない扉ですからね?」

 冷静に指摘しながら、シェイラは訝しんで顔をしかめた。

「なかったことにされてたから、まさかヨルンヴェルナ先生から言い出してくれるなんて思ってませんでした。何か裏がありそうで怖いんですけど」

 煙に巻いた張本人は、曇りのなさが逆に胡散臭く感じるほど完璧な笑みを浮かべた。

「人聞きが悪いなぁ。僕ほど誠実で一途な人間も珍しいのに。ほら、今だって君一筋でしょう?」

「そんな筋は通さなくて結構です」

 シェイラはきっぱりと言い切った。大体、実験体としての興味を美化して表現しないでほしい。

「まぁ、魔法について学べるのなら、わざわざ閲覧許可を取る必要もなくなるからね。君がそんな回りくどいことに注力してしまうと、僕との時間が減ってしまう」

 本音はそれか、とシェイラは半眼になった。

「残念ですが、先生の思惑通りにはなりませんよ。いずれは図書館の制度を廃止したいという思いは変わりませんから」

 眉を上げるヨルンヴェルナに、挑発のように宣言する。

「僕一人が魔法を学ぶためなら、確かに講義を受けるだけで十分です。でもきっとこの先も、僕と同じように考える特待生が現れる。後進のために制度自体を変えたいと思うのは当然でしょう?」

 一人でも不満を持った者が声を上げれば、大なり小なり変わっていくこともある。それは波紋が広がっていくように、いずれ大きな動きになるだろう。

 意見が通ったところで、すぐに改革が行われるわけではない。全ては未来のための布石なのだ。

 シェイラの熱意を目の当たりにして、ヨルンヴェルナは幼げな仕草で目を瞬かせた。

「心底意外だなぁ。君がそんな難しいことを考えていたなんて」

「『心底』って、わざわざ付けなくてもいいと思いません? というか、大して難しいことでもありませんし」

 どれだけ見くびられているのかと、シェイラは物悲しくなってくる。ずば抜けた頭脳を持っているとはいえ、相手はあのヨルンヴェルナなのだ。

「あ、そうだ。その時は、ゼクスも一緒に講義を受けてもいいですか?」

 シェイラは気持ちを切り替えて質問した。

 ゼクス本人の意思を確認していないが、ためになることを説明すれば彼も乗り気になるだろう。

 ヨルンヴェルナはつまらなそうに肩をすくめたが、一応は了承した。

「二人きりの甘い時間を邪魔されるのは本意ではないけれど、君が望むのなら仕方がないね」

「甘くないですけどね。一応言っておきますけど、ゼクスの血は抜かないでくださいよ」

 シェイラは先日、ヨルンヴェルナに採血されたばかりだった。

 講義の合間のことで強く拒絶できなかったのだが、ごく少量で済んだことは不幸中の幸いだった。ゼクスは精霊術を使えないので、標的になることはないと信じたい。

 釘を刺すと、ヨルンヴェルナはあっさり頷いた。

「当然だよ。興味のない相手から血液を採取したりしないもの」

「それだと僕に興味があるように聞こえるんで、やめてもらえますか……」

「おや冷たい。僕の想いはまだまだ届いていないみたいだねぇ」

 ヨルンヴェルナによると、シェイラの血は何の変哲もないものだったらしい。

 普通ではない血があるのかと聞くと、この国の貴族の血液からは、個人差はあれど魔素が検出されるのだと返された。

「そっか、だから貴族は魔法が使えるんですね」

「正解。よかったね、血液中に魔素がないなら、魔物に襲われる心配もないからねぇ」

「? 魔物って魔素に反応するんですか?」

 聞いたことのない話に首を傾げると、ヨルンヴェルナは驚いたように眉を上げた。そもそも魔物が架空の生き物ではないと知ったのも最近なのだから、無知は多目にみてもらいたい。

「知らないの? 魔物は魔素を糧に生きているんだよ。だから人を襲うんだ。空気中に漂っている魔素を集めるより効率がいいからね」

「えっと。人っていうか、じゃあ危ないのって、つまり貴族の人達……?」

「ということになるね。だから貴族の邸宅には、必ずと言っていいほど災害用の地下室があるんだ」

「へー……」

「もし今魔物が出現したら、最も危険なのは王都だろうね。一般的に冬の時期は領地に帰るものなのだけれど、今年はもうすぐ王太子殿下の第一子が生まれるとかで、貴族のほとんどが王都にいるから」

 魔物が大挙して王都を襲う様を想像し、シェイラは気分が重くなった。冗談でも縁起が悪すぎる。

「もちろん、だからといって魔物が人を避けてくれるわけではないから、進行方向にいれば平民だって危険だからね?」

「……そんなにこやかに話すことじゃないと思いますけど」

 シェイラの元気がなくなっていることに気付いているくせに、よくも平然と続けられるものだ。やはり彼の奇人ぶりは、常人では遠く及ばない。

「魔物の退治って面倒なんだよねぇ。魔法でも使わないと対抗できないっていうのに、最も命を狙われるのは魔法使いだし。皮肉な話だと思わない?」

 思いがけない方向に話が転がって、シェイラは目を瞬かせた。

「え? ヨルンヴェルナ先生は、魔物と戦ったことがあるんですか?」

「学術塔に詰めている魔法使いは、国難が起きた際、強制的に駆り出されるという定めがあるんだよ。国費で研究をしているから不本意でも仕方がない。といっても僕は剣術が得意ではないから、あくまで後方支援だったけれど」

「じゃあ、クローシェザード先生が魔物と戦うところも見たことあるんですか? 魔物を三匹相手取ったっていう戦いは?」

「あぁ、同じ戦場にいたからね。彼が前衛にいてくれると仕事が楽で助かったなぁ」

 夏の研修時、クローシェザードがポロリと溢した逸話をシェイラは忘れていない。戦歴は殊更に語るものではないと思っているようで、多くは語ってくれなかったがずっと気になっていた。

 歴史書を調べるという最終手段も辞さない構えだったけれど、実際現場に居合わせた人の話を聞けるとは思わなかった。

「彼がそういった話を嫌うのは、どう足掻いても自慢話にしかならないからだよ。案外照れ屋だからねぇ。その当時も英雄的な働きで国の防衛の一助になったと、勲章を授与されていたかな」

「へぇ~、やっぱりクローシェザード先生は、スゴいんですね」

 戦闘について語っていると、やはり心が弾む。シェイラが瞳を輝かせながら感嘆の声を上げると、ヨルンヴェルナはピタリと動きを止めた。笑顔の仮面は消え去り、無防備に目を見開いている。

「……笑った」

「へ?」

「初めてだね。君が、授業中に笑ったの」

「はぁ。そりゃそうでしょうね」

 苦手と向き合っている時に笑うなんて器用な真似は、シェイラにはできない。そもそも警戒対象である変人と二人きりで、気が抜けるはずもないのだ。

「えっと、でもそれ、何か重要なことですか?」

 首を傾げて問いかけると、ヨルンヴェルナは夢から覚めたように目を瞬かせた。

「……うーん? そういえば、特に意味はないね」

 不思議そうに首を傾げながら返されても、シェイラの方こそ分からない。

「ヨルンヴェルナ先生って、時々そうゆうとこありますよね。いつも難しいことばかり考えてるから、単純なことが分からなくなるんじゃないですか?」

「単純に考えたら、今の僕の発言はどういった行動原理になるの?」

「そんなの知りませんよ」

「……君って適当だよねぇ」

 呆れた眼差しを向けられたが、彼の感情の動きほど難解な問いはない。考えるだけ時間の無駄だ。

「先生もたまには、僕くらい本能で生きてみることを推奨しますよ」

「素敵な提案だけれど、やめておこう。脳は使わないと衰えていく一方だからね」

「それって僕の脳が衰えてるってことですか?」

 唇を尖らせると、ヨルンヴェルナは喉の奥で笑った。彼といると、どうにも無駄話が多くなってしまう気がする。

 ほとんど手が付けられていない解答用紙を見下ろし、シェイラは慌てて勉強に戻るのだった。


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