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第八十二話 大図書館の中で

「お兄様……やめましょう。これ以上お兄様が傷つくのを私は見ていられません。タイアス様が最も信頼されていたお方、あの炎の槍の勇者のお孫様が来られたのも、運命の巡り合わせ。もう全てを話すべきですわ」


 アーミアの言葉にフュリートが唇を噛みしめる。


「アーミア……」


「フュリート、貴方が止めたとしても私たちはタイアス様の研究室に行くわよ。貴方にはもう止める手段もないでしょう?」


 リスティが、雷化を解いて美女モードに戻っている。

 俺はリスティの言葉に頷いた。


「そうですね。どうせなら、素直に話してくれた方が俺たちも助かります。こちらも何か出来ることがあるかもしれませんし」


 四大勇者ともあろうものが、禁忌を犯したとしたら理由があるはずだ。

 魂を石に封じるなんて真似が本当に出来るとしたらの話だが。


(それに、フュリートさんがあのお方と呼んでいる人物のことも気にかかる。タイアスさんのことなら、わざわざそんな呼び方をするはずがないもんな)


 フュリートは咳込むと少し血を吐いた。

 そして、立ち上がって俺の前に歩いてくる。


「……分かった、全て話そう。だが、約束してくれないか? もし、僕が協力をしたらアーミアは決して罪には問わないと。君の、いやロイエールスの名に懸けて誓ってくれ」


「俺にはそんな権限はないですよ。でも、出来るだけのことをはします。それは約束しますよ」


 名誉騎士程度では何の力もないが、ミレティ先生やマシャリアに頼むことぐらいは出来るだろう。

 俺の言葉にフュリートは笑った。


「それでいい。タイアス様は言っていた、ガレス・ロイエールスは決して誓いを破らない男だと。ロイエールスの名を信じよう」


 そう言うと、フュリートは立ち上がる。


「僕についてきてくれ。タイアス様の研究室に案内しよう、話はその後だ」


 フュリートは、よろめきながら大図書館へと向かう。

 俺たちはその後に続いた。

 フュリートの体を支えながらアーミアはその隣を歩く。

 入り口でフュリートが手をかざすと。

 巨大な扉が音もなく左右に開いた。

 俺はその中を見て思わず呻いた。


「これは──!!」


 まるで世界中の本を集めたかのように、膨大な数の本が整然と書棚に仕舞われている。

 どういう仕組みになっているか、とても手が届くとは思えない場所にまで書棚があった。

 壁や天井そして、床にまで棚が埋め込まれている。

 まるで異次元に、足を踏み入れたような感覚に俺は陥った。

 フユがそれに驚いて、俺の肩から飛び降りると辺りを走り回った。


「フユ~! エルリット凄いです! 本が一杯あるです!!」


「おい、フユ! あんまりはしゃぐなよ。迷子になっても知らないぞ?」


 足元にも書棚があるのだが、その上を歩いても不思議に本の上を踏んでいる感触はない。

 アーミアは、そんな俺の様子を見て説明してくれた。


「この大図書館はタイアス様の魔法がかかっています。私もよくは分からないのですが、この場所の空間を少しだけ歪めることで、より多くの蔵書をしまうことが出来るのだと聞きました」


「凄いですねそれは。でも大丈夫なんですか? 俺たちだってその歪んだ空間の中にいるんでしょう?」


 俺の心配にアーミアは少し笑顔を取り戻して答えてくれた。


「安心してください。空間の歪みが本にしか働かないように、タイアス様がこの建物全体を意思を持った一つの疑似生命体にしているそうです」


(うそだろ……。つまりは俺たちは今、その疑似生命体の腹の中にいるって訳か?)


 その疑似生命体は空間を歪めて、より多くの蔵書をその中に収められるように作られているのだろう。

 簡単に言えば、この大図書館が大きな生き物みたいなものだってことだ。


(大地の錬金術師か、底が知れない相手だな)


 勇者と言ってもじい様やマシャリアは魔法戦士って言った感じだが、ミレティ先生やタイアスさんは少し毛色が違う。

 魔導士という言葉がぴったりとくる。


「フユちゃん、あの絵本が読みたいです!」


 足元にどうやら読みたい絵本を見つけたらしく、フユはそれをのぞき込んでいる。

 手を伸ばすのだが目の前にあるのに、なぜかすり抜けてしまう。


「フユ~、エルリット。絵本が取れないです」


 フユは悲しそうな顔をして、床に小さな手を押し当てて覗き込んでいる。

 するとその棚からフユが見ている本が消えた。

 そして、俺たちの目の前に現れる。


「フユ~! フユちゃんが読みたかった絵本が来たです!! どうなってるですか?」


 フユは薔薇のツルで器用にそれをキャッチした。

 アーミアはフユを見てほほ笑むと答える。


「この大図書館では、望めばその本を手元に寄せることが出来ますわ。閲覧に権限がいるような本は別ですけど」


「へえ、便利ですね」


「フユちゃん満足です!」


 俺はすっかり感心して周りを見渡す。

 絵本があるぐらいだ、学術書以外にも色んな本があるのだろう。

 フユはすっかりご機嫌で、俺の肩の上に座って絵本を読んでいる。

 声を出して一生懸命読んでいるのが微笑ましい。


 大図書館のロビーには、タイアスさんの大きな肖像画が飾られている。

 リルルアさんの店でも見たが、じい様やマシャリアのような勇者というよりは学者肌に見える大人しそうな人だ。

 まだ若い頃の絵なので、それだけでは判断が出来ないとは思うが。


(今までの三人の勇者とは明らかに雰囲気が違うな)


 いかにも勇者と言った風に、自信に満ち溢れているタイプではない。

 俺がそんなことを考えていると、アーミアがそれを察したのか俺に言った。


「タイアス様はいつもお兄様に言っていました。お前は私の若い頃によく似ていると。私たち兄妹は、親を亡くし死にかけているところをタイアス様に拾われたのです」


 リスティがアーミアの言葉に尋ねる。


「フュリートは、タイアス様の養子として育てられたと聞いたが。アーミアお前は一体」


 リスティの言いたいことは分かる。

 つまりは、いつからその姿なのかということだ。

 今の話を聞く限り、少なくとも最初は人間だったのだろうからな。

 アーミアの言葉を聞いて、フュリートさんは少し微笑んだ。


「アーミア、タイアス様は私などでは到底及ばないお方だ。だが確かにあのお方は、とても人間らしかった。伝説の勇者というよりはまるで本当の父のように……」


 俺はふとフユが読んでいる本を見つめた。

 それは子供向けの四大勇者の絵本だ。

 表紙にじい様の絵があったのが、フユを目を引いたのだろう。

 大人モードの俺によく似ているからな。


 フユは、丁度これから魔王の城に行く前の四人の勇者の姿が描かれているページを見ていた。

 俺も物語で知っている程度だが、実際はどんな戦いだったのか想像もつかない。

 何しろ、じい様やマシャリア、そしてミレティ先生とこんな建物を作れる程の男がいてやっと倒せた相手らしいからな。

 そもそも魔王とは何だったのか、詳しい話は物語には書いてはいない。

 突然現れたことになっているが、バロたちに聞いても波長が合ったから使い魔になっただけだって言ってたからな。

 マシャリアやミレティ先生に聞けば、少しは何か分かるのだろうか?

 

(魔王か、一体どんな戦いだったんだろな。その時壊れたファルルアンの秘宝か、もしかして今回のことは何かそれに関係しているんじゃないのか?)

 

 根拠はないが、何故か俺にはそう思えた。

 三年前、突然姿を消した大地の錬金術師。

 その理由は、壊れたファルルアンの秘宝に絡んでいる気がしてならない。

 何しろ生涯をかけて、その修復に当たっていたらしいからな。

 そして、その杖が壊れたのは魔王との戦いでだという。

 アーミアが一本の通路の前に立って、俺たちに言った。


「この先にある階段が、タイアス様の研究室に繋がっています」

いつもお読み頂きまして、ありがとうございます!

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